番外編・フローとアルとテイマーと その4
◇使役するということ◇
しばらく私は、アルバスト先輩に抱きしめられていました。
心配そうなアイちゃんが、私の足元をぐるぐる廻っています。
私はアイちゃんを抱き上げます。
あら、アイちゃんの口元が、黒く濡れてる。
さっき、ビスタフさんを噛んだから……。
「おい」
ビスタフさんの声に、アイちゃんはビクっと体を硬直させます。
「これ、ソイツに飲ませて」
ビスタフさんは、ポケットから小瓶を出すと、私に投げました。
「これって、一体……」
「今、ソイツは俺の血を飲んだから、その効果を消さないと。毒消しみたいなもんだ」
効果を消す?
ビスタフさんの言っていることが、よく分からなかったのですが、取り敢えず言われた通りにしました。
小瓶の中身を飲ませて、口元をハンカチで拭くと、ようやくアイちゃんは落ち着いたようです。
夕暮れの風が、ちょっと冷たくなりました。
殿下を先頭に、私たち生徒会の面々とビスタフさんは、私が間借りしているお家に入ります。
私とアルバスト先輩は、皆さんに温かいお茶を出しました。
「なんかもう、夫婦みたいな感じね」
パリトワ様が、にんまりと笑います。
私は恥ずかしくて俯いてしまいます。
アルバスト先輩は、「そ、そう見える?」と明るい声で返してました。
「さて、夫婦漫才はともかく」
殿下がお茶を一口飲むと、ビスタフさんに訊きました。
「テイマーは、魔獣も簡単に使役出来るのか?」
ビスタフさんは顔を横に振ります。
「俺が殿下に勧められ、東方の国でテイマーの修行をした時には、獰猛な野獣までが限界だった」
ビスタフさんは、自国を攻めてきた国とは別の処で、テイマーを目指したようです。
いつの間にかアイちゃんが室内に入ってきて、私の膝の上に乗りました。
「修行して、狼や虎までは使役出来るようになった。だが、俺は、俺の国を滅ぼした魔獣の使役が出来るようになりたくて、更に遠くまで行こうと思った」
「それが蓬莱の島、か?」
ビスタフさんは頷きます。
「蓬莱には、伝説の『竜』がいると、テイマーの師匠たちが言ってたから」
蓬莱の島。
私も本で読んだことがあります。
不老長寿の人たちが住んでいる、小さな島だそうです。
「蓬莱、本当に、あったんだ……。それこそ伝説レベルだ」
「それで、蓬莱に辿り着けたの?」
メジオンやパリトワ様は、異国の話に興味深々です。
「いや……。蓬莱は荒れた海の果てにあるそうで、普通の舟では行きつけない」
ビスタフさんは、先ほどアイちゃんに噛まれた傷を見つめます。
「うん、これなら大丈夫だな」
「傷口、血は止まりましたか?」
私は恐る恐る訊きました。
「うん。それより、本当に魔獣の傷なら、皮膚が黒くなるんだ。そこから腐る」
「「「「!!」」」」
「けど、そのウサギの噛み傷は、変色してない。だから、魔獣の要素を持っていても、多分悪質なものには、ならないと思う」
「あの、アイちゃんに飲ませた水? みたいなものは何ですか?」
「うん、毒消し。俺の血を与えてしまったから、俺の命令に従うようになってしまう。それじゃあ、君が困ると思って」
ビスタフさんが、私に視線を合わせました。柔らかな眼差しでした。
「そうかビスタフ。魔獣の使役に必要なものって」
「殿下の推測通り。
それは、人血だ」
一気に、室内の温度が下がりました。
驚愕です。
人の血液を媒介に、魔獣の使役が出来るという事実に、皆声を失います。
「それを教えてくれたのは、東方の国に逃げてきた、優秀な先生だったよ。祖国を滅ぼしたあの国で、魔獣の研究をしていたそうだ」
「そもそも、魔獣って何だ?」
アルバスト先輩が尋ねます。
「良い質問だね、ミミズテイマー君。魔獣は元々、普通の動物なんだよ」
思わず、声が出ます。
普通の動物が、魔獣になるの?
じゃあ、アイちゃんも、普通のウサギなのかしら……。
もう少し続きます。
魔獣の産出、どうやっているんでしょうね。
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