番外編・フローとアルとテイマーと その3
最初はちょっと暗めなお話。
後半はいつものノリです。
◇魔獣の咆哮◇
ビスタフさんは、果てしなく続く砂漠の国で生まれました。
今は無き『アーモス国』です。
「国境線はない国なんです。広大な砂漠を越えてまで、攻め入る他国があるとは思わずに……」
それは新月の夜。
アーモス国の神が、夜の帳の向こう側へ行ってしまうという晩のこと。
アーモスの民は、それぞれの家で静かに過ごしていたのです。
突然。
ビスタフさんの邸に、火の手が上がりました。
彼のお父上は部族の長。
慌てて外に出ると、辺りは火の海。
「はじめは、攻撃を受けたなんて思っていなくてね。まずは消火しようとして、湧き水の出る場所へ、みんな走ったんだ」
そこで待っていたのは、百を越える魔獣の群れと、魔獣を使役する黒いローブを纏った一団でした。
ビスタフさんの部族の人たちは、あっという間に魔獣の群れに、蹴散らされました。
湧き水の周辺で、開きかけていたティワリパは、跡形もなく踏みつぶされたのです。
生徒会室で、皆、一言も発することが出来ません。
私は、胸が苦しくなりました。
目の前で、そんなことが起こるなんて……。
「あ、ゴメンゴメン。しんみりさせちゃったね。俺は湧き水に飛び込んで、川までたどり着いた。そのまま舟に乗り生き延びたから、今こうしてここにいる。ただ……。父も含めて、危機意識が足りなかった。宣戦布告もなしで、攻められるなんて、誰も思っていなかったよ」
「それは、我がシャギアスも同じだ。長らく平和な治世を享受しているからな」
殿下がビスタフさんの肩をポンポンと叩きました。
「昨年は、ちょこっと危なかったけどね」
メジオンがぼそっと呟きました。
「では、ビスタフ君、テイマーになったのは、君の国を滅ぼした連中に復讐をするためか?」
アルバスト先輩が訊きました。
「ああ、最初はそう思っていた。けど、今はまだ、その時じゃない。いろいろ調べる必要があるし」
ビスタフさんが、私に視線を投げます。
黒い瞳に少しだけ、憂いが浮かんでいます。
「まずは、王宮にいるという、魔獣を見せて欲しい」
◇王宮の一角兎たち◇
夕暮れ前に、殿下とパリトワ様、そしてアルバスト先輩と私は、それぞれ馬車で王宮に戻りました。ビスタフさんは殿下と一緒の馬車に乗りましたが、乗る前に、馬に何か話しかけていましたね。
王宮のはずれにある別邸には、敷地の一画に様々な花が植えてあります。
花の区画の隣には、地下の茎が非常食となるものをいくつか栽培しています。
ウサギのアイちゃんを始め、トカゲや鳥たちは、基本放し飼いです。
私のところに来たばかりのアイちゃんは、掌サイズの仔ウサギでしたが、今では子犬くらいの大きさで、ぴょこたんぴょこたん跳んでます。
トカゲのサラは、鮮紅色でキラキラしてますが、基本果物しか食べません。
鳥たちも、橙色や黄色の羽を伸びやかに広げ、ホロホロと可愛らしく鳴いています。
「嘘! なんで! これって、全部!」
生き物の姿を見たビスタフさんは、目を見開きます。
隣の殿下はコクコク首を縦に振っています。
「何か、変でしょうか、ビスタフさん」
「マジか! コイツら全部、魔獣じゃん!」
ええええええ!!!!!
そうなのですか!!!!
トカゲのサラは、ひょっとしたらサラマンダーかもと、思いましたけど。
「さすがビスタフ。よくぞ気付いた」
「あ、あ、あり得ない! なぜに大人しい! 人に懐く!」
「それが我がシャギアスの誇る、フローナ嬢の能力よ」
不敵な笑みを浮かべる殿下のセリフに、私は首を傾げます。
能力って、お花をいっぱい、咲かせるくらいですが……。
だいたい。
その……。
殿下とパリトワ様が、「育てろ」って言うから……。育てただけです。
「凄いテイマーだな、フローナ嬢」
「え、いやいや。違います。私、動物の使役なんて出来ませんよ。ここにいる動物たち、私の命令とか聞かないですから」
私は焦って、思わず手を大きく振りました。
「試してみよう」
言うやいなや、ビスタフさんは懐から何かを取り出して、私の喉に当てました。
ギラリと光る、細身の短剣です。
「ちょっと、ビスタフさん! 何を!」
「「「!!」」」
アルバスト先輩の顔色が変わり、低い声を出します。
「オイ!」
「待て、アル。わたしも見たい」
殿下がアルバスト先輩を押さえた、その時でした。
ターン!!!
思いきりジャンプしたウサギのアイちゃんが、ビスタフさんの手に、噛みついたのです。
「いってえ!」
剣を手放すビスタフさんを見て、アイちゃんはシュタッと降りました。
私はアルバスト先輩に、そのまま抱き寄せられました。
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もうちょっと続きます。
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