★番外編・フローとアルとテイマーと その2
◇潮流◇
アリスミー殿下は生徒会室の黒板に、いきなり地図みたいなものを描きました。
多分、地図、ですよね。
殿下にも、苦手なものがあるのね。
「留学生のビスタフ君。挨拶は済んだ?」
「はい」
生徒会室内のメンバーが、其々頷いているのを確認した殿下はお話を始めます。
「ビスタフのシャギアス語、上手いだろ?」
ビスタフさんは頭を掻きます。
「だって、わたしが教えたんだもーん」
「「「「ええええ!!」」」」
「嘘クサイ……」
ぼそっとメジオンが呟きます。
「いつ、どこで教えられたのですか?」
恐る恐る私は訊きます。
「ふふふ。良い質問だ、フロー嬢。そのために地図まで描いたからな」
ああ、やはり地図だったのね。
「シャギアスの領海内に、シャワラン島っていうのがある」
「アリッシーの持ち物ね」
へええ。
王族になると、島を保有できるのですか。
「シャギアスでは唯一、魔獣が生息する場所でな」
「え、じゃあ、シャギアスではない、別の大地から、分離した島ですか?」
さすがヴィラさん。バリバリ理系の思考回路です。
「いや、以前アルに調べてもらったが、土壌的にはシャギアスと同じだった」
「では、自然に発生?」
「メジオン君。魔獣が自然に発生したら、コワイよ、それは」
殿下は軽口をたたきながら、黒板に描いた地図の下方に、青い線を引きました。
「潮だ」
「「「「潮!?」」」」
「遥か遠く、西方から東へ向かって流れる潮流が、魔獣を運んで来たと、わたしは思っている」
「その根拠は?」
ヴィラさんの質問には、ビスタフさんが答えます。
「根拠は、俺です。
俺は、子どもの頃、木の舟でシャギアスに流れ着いたんだ。遠い遠い、西の果ての国から」
えええええ!!!
私は心の中で叫んでいました。
きっと、他の人たちも同じだったでしょう。
でも、なぜ木の舟?
遭難とか、漂流とか、そんな感じでしょうか。
「わたしは九歳の時にシャワラン島を所有し、時々一人で釣りに行っていたのだ」
殿下が遠くを見るような目つきになりました。
「ある日、木の舟が砂浜に打ちあがっていた。見に行くと、自分と同じくらいの年齢と思われる、少年が一人、舟でのびていたのだ」
殿下はその少年を起こし、水を飲ませたそうです。
それが、ビスタフさんだったのですか。
「そうそう。なんか思いきり殴られたような気がしますよ、殿下。目が覚めた時、頬が腫れてましたから」
ビスタフさんは笑います。
「気にするな、些細なことだ。ともあれ、起こしたのは良いが、言葉が全く通じなくてな」
殿下は、周辺五か国の言語なら、読み書きまで出来るのでしたね。
「結局、わたしが知っている限りの、三十か国ぐらいの言葉で挨拶をしてみたら、一つだけ反応があった」
「それが西方の国の……」
アルバスト先輩は、その頃の事情、きっと少しご存知なのですね。
「で、面倒なので、シャギアス語をたくさん教えて、ビスタフに覚えてもらった」
「でも、なんで、木の舟で、流れて来たんです?」
メジオンの疑問、もっともです。
「命を守ろうとした、それだけです」
「舟で漂流することが? 命を、守る?」
思わず私、声が出ました。
「ええ。俺の国は、ある日突然、滅ぼされたのですよ」
私も、同じ室内にいた他の人も、冷たい空気を吸い込みました。
「滅ぼされた? 国が、丸ごと?」
「はい。魔獣の軍団を率いる、北の戦闘種族に」
春の雷が、何処かに落ちました。
殿下が描いた地図(あとでパリトワが清書したもの)
縄文時代あたりでも、木のちっこい舟で、結構遠くまでたどり着いたそうです。
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