表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

番外編・フローとアルとテイマーと その1

新しい年度を迎えた、フローナとアルバストとその他の皆さんのお話です。

◇春の嵐と留学生◇



 早いものです。

 私が学園に入学して、一年たちました。

 入学して、アルバスト先輩と出会って、『中等部お花いっぱいリーダー』になって……。


 いろいろあった結果、私はアルバスト先輩と婚約しました。


 先輩も、アリスミー殿下やパリトワ様も、全員進級した春です。

 今日は講堂で、校長の訓辞とか、新学年を迎えての式典があるそうです。


 今も私は、王宮の別邸で暮らしています。

 いつもは先輩と一緒に馬車に乗り、学園まで来ます。


 本日は、アルバスト先輩は私を学園に送り届けると、すぐに農業研究所に向かいました。

 新種のミーちゃんが、見つかったとのことです。


 私は一人で、いつもの花壇に足を運びました。

 花壇には、新しい花が咲いています。

 手を合わせて、指を広げたような形をしている、ティワリパという花です。


 最近、我がシャギアス王国と交易が盛んになった、南方の国の花だと聞きました。


 赤や白、黄色という、色とりどりのティワリパは、春を主張している花ですね。


「ティワリパ、好き?」


『クリザンティ、好き?』


 えっ……。

 何でしょう、この既視感(デジャヴ)


 去年も聞いたようなセリフです。

 でもこの声は、アルバスト先輩とは違います。


 誰?


 振り返ると、見覚えのない男子が、立っていました。

 日に焼けた肌の上の、黒曜石のような大きな瞳が私を見つめています。

 鋭角的な顔立ちで、ビターなイケメンとでも言うのでしょうか。


「え、っと……」


「ああ、ゴメンゴメン。俺の国の花が、こんなにも綺麗に他国で咲いているので、ちょっと感動してしまったんだ」


 俺の国……。

 他国……。


「あの、ひょっとして、留学生の方でしょうか?」

「そうそう。今日からここでお世話になる、ビスタフ。ええと、高等部の一年になるのかな」


「私はフローナと申します。中等部二年です」


 他国からの留学生にしては、シャギアスの言語を流暢に扱いますね。

 


「ラッキーだな、俺。来た早々、こんな可愛い女生徒さんと知り合いになれるなんて。よろしくね、フロー」


 ビスタフさんは、片目をパチンと閉じました。


 なんだか……か、軽い?


 どう対応して良いのか分からない私を見て、ビスタフさんは真顔になります。


「この国の第一王子に呼ばれてね。草木でも、鳥や動物、昆虫に至るまで、大きく育てる能力を持つ人がいるから、指導して欲しいって」


 へえ、そんな人がいるんですね。

 でも、指導って、何をどう、指導するのでしょう。


「俺は、テイマー。ビーストテイマーなんだ」


 ビースト()テイマー(使役する)



 いきなり湿った風が吹きます。

 木の葉が散り、咲いたばかりのティワリパの茎が、弓のようにしなります。

 雨の匂いが近づいて来るのが、私にも分かりました。


 春の、嵐がやって来ます。




◇生徒会室◇



 校長先生の訓辞のあと、留学生の紹介が行われました。

 ビスタフさんが壇上で挨拶すると、女子の歓声が起こります。

 うんうん。

 この学園には珍しいタイプの、カッコいい男子ですものね。


 式典が終わり講堂から出ると、大粒の雨が降っていました。

 

「フロー!」


 中等部の校舎に入るところで、後ろから呼び止められました。


「アル先輩!」


 思わず微笑んでしまいます。

 朝も一緒だったのに。


「雨に、濡れなかった?」


 そう言う先輩は、銀色の髪が濡れて光っています。


「はい、大丈夫です」


「パリトワから伝言。放課後、生徒会室に集合だって」

「はい。かしこまりました」


 放課後、久しぶりに生徒会室のドアを開けました。


「元気そうね、フロー」


 パリトワ様とハイタッチします。

 アリスミー殿下とパリトワ様は、学園生活最後の年になりますね。

 卒業したら、お二人はすぐにご成婚となります。


「フローに、ウチの新商品を見せたくて、持ってきたよ」


 メジオンが商売人の顔つきで、小さな袋を投げました。

 中にはリボンの付いた、ブレスレット……?


「小動物用の首輪なんだ。ほら、フローの邸にウサギいるだろ?」

「うん。これ可愛い!」


 

「それはダメだよ」


 いきなり私の背後から、鋭い声が上がります。

 留学生の、ビスタフさんです。

 目付きも鋭く冷たいです。


「えっと、何がダメなんです?」

「ウサギは狭い処に入り込む習性がある。うかつに首輪なんかを付けて、ヘンな所に引っかかったら、首が締まってしまうだろ?」



 そうなのですね。

 さすが、テイマーなのでしょう。

 否定されたメジオンは、ちょっと口を尖らせましたが、そこはそれ商売人。


「なるほど、勉強になります」

 

 すぐに、にこやかな顔に戻りました。



「みんなあ、お久ああ!!」


 ビスタフさんの後ろから、アリスミー殿下とアルバスト先輩が、やって来ました。

 アルバスト先輩は、ビスタフさんをじっと見ています。

 殿下は、「おひさ」と言いながら、生徒会のメンバーとタッチしていきます。



「ビーストマスター、ビスタフ・エイム君。俺はミミズマスター、アルバスト・イルバだ」


 アルバスト先輩は、片手を差し出します。

 ビスタフさんはにやっと笑うと、アルバスト先輩の手をパチンと叩きました。


「知ってるさ。だから俺は、この国に来たんだ」


 遠雷が聞こえます。

 ビスタフさんの真の留学理由を私が知るには、もう少し時間が必要だったのです。

ティワリパは、チューリップだと思っていただければ幸いです。

ビスタフの目的って何でしょう。

新年度、また新たな事件でも起こるのか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ビースとマスターに対抗する(?)ミミズマスター!! 何やら風雲急を告げる展開が来そうですわね……!!
[一言] ウサギテイマーキターーー!!!!(大歓喜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ