番外編・フローとアルとテイマーと その1
新しい年度を迎えた、フローナとアルバストとその他の皆さんのお話です。
◇春の嵐と留学生◇
早いものです。
私が学園に入学して、一年たちました。
入学して、アルバスト先輩と出会って、『中等部お花いっぱいリーダー』になって……。
いろいろあった結果、私はアルバスト先輩と婚約しました。
先輩も、アリスミー殿下やパリトワ様も、全員進級した春です。
今日は講堂で、校長の訓辞とか、新学年を迎えての式典があるそうです。
今も私は、王宮の別邸で暮らしています。
いつもは先輩と一緒に馬車に乗り、学園まで来ます。
本日は、アルバスト先輩は私を学園に送り届けると、すぐに農業研究所に向かいました。
新種のミーちゃんが、見つかったとのことです。
私は一人で、いつもの花壇に足を運びました。
花壇には、新しい花が咲いています。
手を合わせて、指を広げたような形をしている、ティワリパという花です。
最近、我がシャギアス王国と交易が盛んになった、南方の国の花だと聞きました。
赤や白、黄色という、色とりどりのティワリパは、春を主張している花ですね。
「ティワリパ、好き?」
『クリザンティ、好き?』
えっ……。
何でしょう、この既視感。
去年も聞いたようなセリフです。
でもこの声は、アルバスト先輩とは違います。
誰?
振り返ると、見覚えのない男子が、立っていました。
日に焼けた肌の上の、黒曜石のような大きな瞳が私を見つめています。
鋭角的な顔立ちで、ビターなイケメンとでも言うのでしょうか。
「え、っと……」
「ああ、ゴメンゴメン。俺の国の花が、こんなにも綺麗に他国で咲いているので、ちょっと感動してしまったんだ」
俺の国……。
他国……。
「あの、ひょっとして、留学生の方でしょうか?」
「そうそう。今日からここでお世話になる、ビスタフ。ええと、高等部の一年になるのかな」
「私はフローナと申します。中等部二年です」
他国からの留学生にしては、シャギアスの言語を流暢に扱いますね。
「ラッキーだな、俺。来た早々、こんな可愛い女生徒さんと知り合いになれるなんて。よろしくね、フロー」
ビスタフさんは、片目をパチンと閉じました。
なんだか……か、軽い?
どう対応して良いのか分からない私を見て、ビスタフさんは真顔になります。
「この国の第一王子に呼ばれてね。草木でも、鳥や動物、昆虫に至るまで、大きく育てる能力を持つ人がいるから、指導して欲しいって」
へえ、そんな人がいるんですね。
でも、指導って、何をどう、指導するのでしょう。
「俺は、テイマー。ビーストテイマーなんだ」
ビースト、テイマー?
いきなり湿った風が吹きます。
木の葉が散り、咲いたばかりのティワリパの茎が、弓のようにしなります。
雨の匂いが近づいて来るのが、私にも分かりました。
春の、嵐がやって来ます。
◇生徒会室◇
校長先生の訓辞のあと、留学生の紹介が行われました。
ビスタフさんが壇上で挨拶すると、女子の歓声が起こります。
うんうん。
この学園には珍しいタイプの、カッコいい男子ですものね。
式典が終わり講堂から出ると、大粒の雨が降っていました。
「フロー!」
中等部の校舎に入るところで、後ろから呼び止められました。
「アル先輩!」
思わず微笑んでしまいます。
朝も一緒だったのに。
「雨に、濡れなかった?」
そう言う先輩は、銀色の髪が濡れて光っています。
「はい、大丈夫です」
「パリトワから伝言。放課後、生徒会室に集合だって」
「はい。かしこまりました」
放課後、久しぶりに生徒会室のドアを開けました。
「元気そうね、フロー」
パリトワ様とハイタッチします。
アリスミー殿下とパリトワ様は、学園生活最後の年になりますね。
卒業したら、お二人はすぐにご成婚となります。
「フローに、ウチの新商品を見せたくて、持ってきたよ」
メジオンが商売人の顔つきで、小さな袋を投げました。
中にはリボンの付いた、ブレスレット……?
「小動物用の首輪なんだ。ほら、フローの邸にウサギいるだろ?」
「うん。これ可愛い!」
「それはダメだよ」
いきなり私の背後から、鋭い声が上がります。
留学生の、ビスタフさんです。
目付きも鋭く冷たいです。
「えっと、何がダメなんです?」
「ウサギは狭い処に入り込む習性がある。うかつに首輪なんかを付けて、ヘンな所に引っかかったら、首が締まってしまうだろ?」
そうなのですね。
さすが、テイマーなのでしょう。
否定されたメジオンは、ちょっと口を尖らせましたが、そこはそれ商売人。
「なるほど、勉強になります」
すぐに、にこやかな顔に戻りました。
「みんなあ、お久ああ!!」
ビスタフさんの後ろから、アリスミー殿下とアルバスト先輩が、やって来ました。
アルバスト先輩は、ビスタフさんをじっと見ています。
殿下は、「おひさ」と言いながら、生徒会のメンバーとタッチしていきます。
「ビーストマスター、ビスタフ・エイム君。俺はミミズマスター、アルバスト・イルバだ」
アルバスト先輩は、片手を差し出します。
ビスタフさんはにやっと笑うと、アルバスト先輩の手をパチンと叩きました。
「知ってるさ。だから俺は、この国に来たんだ」
遠雷が聞こえます。
ビスタフさんの真の留学理由を私が知るには、もう少し時間が必要だったのです。
ティワリパは、チューリップだと思っていただければ幸いです。
ビスタフの目的って何でしょう。
新年度、また新たな事件でも起こるのか!




