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番外編・平行線が交わる時 その3

side アリスミー殿下



 母上にパリトワとの婚約を宣言した後、わたしは国王の部屋に行った。

 本来であれば、先触れを出す必要があるのだが、本日は敢えてしなかった。


「父上、入ります」


 父上である国王陛下は、優雅にお茶を飲んでいた。


「どしたん? アリッシー。先触れなしで、何か急用?」


 急用じゃなきゃ、わざわざ来るか!


「ええ。本日のパーティのことで」


 陛下はピクリと眉を動かす。


「蜂が出て、大変だったな」

「おかげで、毒の危険からは逃れたようです、わたしは」


「ふむ……。どこまで知っている?」


「わたしの婚約者を選ぶという名目で、国内の反乱分子を炙り出す、ってとこまで」


 陛下は椅子から立ち上がり、窓際に進む。

 

「今日の毒くらいなら、死ぬことはないよ、アリッシー。あ、血は吐くかな」


 嫌でしょう、血を吐くなんて。


「そもそも、なんで第二王子派なんてのが、生まれて来たと思う?」

「そりゃあ、第二王子の方が、真面目で優秀だからでしょ。それくらい、わたしも分かってますよ」


 つい、わたしは口を尖らす。

 実の弟だし、素直だし、第二王子のことは嫌いじゃない。

 ただ、国内の貴族の間に、派閥が出来たりするのは勘弁だ。


「ふっ。まだまだ若いな」


 若いって、まだ九歳なんですが。


「だいたいさ、君は頭がヘンだ」


 えぇ……。

 あなたも実の父親だよね……。

 ヘン、ですかね、わたし。

 

「回転が、頭の回転が速すぎる。無駄に」


 無駄言うな!


「だから大人でも、優秀と言われる教師や大臣ですら、君の頭についていけない……。私ですら」


 知るか、大人の事情なんぞ。


「そこでだ。同い年くらいの友だちを作って欲しいと思って、イルバとアニックスに頼んだ。情緒の正しい発達に、お友だちは必要だ。二人とも、君程じゃないにしても、優秀なお子様だからな」


 結構アホっぽいけど。特にアルは。

 至って情緒は安定していると、自己分析しているのだが。


「それでも、野心や功名心が強い大人は恐れるのさ。自分たちの既得権が、脅かされるような国王は面倒だ。今のうちになんとかしよう。次に冠をかぶるのは、出来れば大人しい、第二王子が良いぞって」


 そんな考えを持つ奴らの方が、よっぽど面倒クサイだろう。


「それと、九歳になってもまだ婚約者がいないってのも、不安材料なんだろう」

「はあ。まあ、それなら、先ほど、パリトワ嬢と婚約しましたから、一つ片付きましたかね」


 陛下の顔が、ぱああっと明るくなった。

 そんなに、婚約者って重要なん?


「ああ、そうかそうか! そりゃあ良かった! 小豆の入ったご飯でも炊こうか」


 何言ってんの、コイツ。


「パリトワ嬢なら安心だ。これでアニックス公爵に、恩着せがましく、あれこれ言われなくて済むな」


 なんだか裏でいろいろ、黒いことをしてそうな(というか、してる、絶対)陛下を見て、自分も気をつけようと思う。

 おそらく、今回のパーティは、コイツが糸を繰っていたのであろう。

 一歩間違ったら、俺は血を吐いていただろうな。


 パリィの能力に感謝だ。


「さすればアリッシー。婚約祝いに、何か欲しいものがあったら言ってごらん。どーんとプレゼントしちゃうよ、国王権限で」


「では、東南の海上にある、シャウラン島を下さい」


 一瞬、陛下の目が丸くなる。


「いいけどさ、なーんもないよ、あの島。掘っ立て小屋が、いくつかあるぐらいで。たまに魔獣が出るって聞くし」


「だからですよ。我が王国は幸い、魔獣の被害はないですが、それらを使役して、戦争やってる国もある。その対策として、あの島は最適です」


「そかそか……。じゃあ、所有権をアリッシーに変更しとくわ」

「有難き幸せ」


 こうして、シャワラン島を手に入れたわたしは、二か月後、パリィとアルを連れて島へと赴いた。

 何人かの護衛も一緒だ。

 舟で半日かけて、シャワラン島に着く。


「確かに何もないんだな」


 船着き場から白い砂浜が続いている。

 砂浜の向こうには、こんもりとした緑。

 森林が見える。

 夜は砂浜で、テントを張ろう。


「昼間のうちに、森を少し歩いてみたい」


 パリィの提案に、俺もアルも従う。

 アルは昆虫採集用の完全装備をしている。



 森の中に一歩足を踏み入れると、昼間でも薄暗いせいか、ひんやりとした空気に包まれた。

 時折、何かが羽ばたく音が聞える。

 アルは所々に、紐を結んでいる。


「何してるの?」

「迷った時の目印」


 とはいえ、砂浜から一本道で進んでいるので、そうそう迷うことはないだろう。

 しばらく歩いて行くと、ぽっかりと空からの光が落ちている場所に出た。

 

「一休みしよう」


 二人に言う。

 草むらに腰を下し、水を飲んだ。


 ガサッ! ガサガサッ!


 三人に緊張が走った。

 魔獣か?


 すると、木の影から、ぴょこんとウサギが現れた。

 こちらを見ている。


「可愛い!」

「待て!」


 手を出そうとするパリィを止める。

 この島に、ウサギは生息していない。

 となると……。


「キシャアアア!」


 いきなりウサギがこちらへ向かって走り出す。

 ウサギの額には、角が一本……。


「と、とりあえず、逃げよう!」


 三人は横並びで走り出す。

 足を取られたパリィが転びそうになる。

 すかさず手を出し、わたしは抱える。


 足跡が交差し、一点で重なった。

 

 なんだ。

 やっぱり平行線は、交わるじゃないか。

 

 パリィの手を握りしめた。

 この手を離すことはない。


 アルは後から適当について来い!



 シャワラン島に滞在している間に、角の生えたウサギを数匹捕獲した。

 いつか、この角ウサギを飼いならせる人材を見出せることを願って。

次話は、フローナとアルバストのその後です。

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― 新着の感想 ―
あれ、小豆ご飯…赤飯…陛下ひょっとして転生…? 国王でええ(略)す!と素っ頓狂な挨拶する陽気な王。 人前で放屁し、その屁に火をつけ蒼く燃やす王子。 何かの優先遺伝かな? この国住みたいかも!ハーレム…
[一言] 今年は卯年ですもんね( ˘ω˘ )
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