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番外編・平行線が交わる時 その2

パリトワ視点二話目です。

「こっちだ、パリィ!」


 頭から、黒い頭巾を被った奴が手招きをする。

 声は間違いなく、アリスミー殿下だ。

 となると、その隣で同じく頭巾を被っているのはアルバストか。


 私はドレスの裾をたくし上げ、殿下たちの方へ走った。

 アルバストは私にも、頭巾を被せた。


「何コレ。虫の大群って……」


 庭園からバルコニーまで走り、殿下に訊いた。


「蜂、呼んだ」


 アルバストが答える。

 

「はああ?」


 蜂って「おいで」と言えば、来るものなのか?

 お前は虫使い(インセクトテイマー)だったのか、アルバスト!

 

「悪い。順を追って言うわ」


 殿下は、目の前に飛んで来る蜂を手で払う。



 私が昨夜出した手紙を見て、アリスミー殿下は考えた。


「多分、毒物を使ってくるだろうな。どうすっか? 多分今夜中に仕込みされるだろうし、今から全く別の料理を用意するのは無理だ」


 そこで、殿下の隣室で寝ていたアルバストに相談した。

 アルバストは殿下の側近候補だし、宰相の父君が王宮に泊まり込むことも多い。

 昨夜は、パーティ準備のため、宰相は徹夜で執務をしていた。

 アルバストは父君と一緒に、王宮にいたらしい。



「要は、並んだ食事を食べないように、すりゃあ良いと思ってな」


「それで、蜂を呼び寄せたのか」


 でも、どうやって?


「養蜂家の知り合いに、蜂を呼び寄せる、匂い袋みたいの貰った」


 アルバストが、ぼそぼそと語った。


 パーティ会場では、果物や菓子が並んだテーブルには蜂が群がり、駆けつけた騎士団が蜂の駆除に当たっている。

 招待された令嬢とその親たちは、宮殿内へ誘導されていた。


「アル、招待された貴族の中で、ヘンな色出してるヤツいるか?」

「二人。ローレン家とワイアダ家。どっちも灰色」

「なるほど、第二王子推進派ね


 そうか。

 アルバストは、人の感情や性格が色として見える。

 騒ぎが起こってパーティが中止となれば、不安と悔恨の情が浮かぶ人物こそ、犯人であろう。


「想定範囲だ」


 殿下は一つ息を吐く。


「ありがとな、パリィ。おかげで助かった」


 無邪気なアリスミー殿下の笑顔だった。

 年齢相応と言うべきだろうか。

 私の鼓動が早いのは、きっと走ったせいだ、うん。



 *


 物心ついた時には、私とアルバストは殿下の友人に選ばれていた。

 初めて殿下の部屋に入った時、アリスミー殿下は家庭教師を困惑させていた。


「何度も言うように、平行線は交わらないのです」

「いや、広い世界のどっかには、交わる平行線があるはずだ」

「交わったら、『平行』とは言わないのです」


 この時アルバストは、手元で何かの幼虫と会話していた。

 家庭教師による先取り学習は私も受けていたが、さすがに殿下の言う内容は意味不明だった。


 なんだ、このアリスミーという王子。

 教師を手玉に取っている!


 天才児だとは聞いていた。

 私も周囲の大人から、頭脳の優秀さだけは誉められていた。

 だから、アルバストと共に殿下の遊び相手になるよう命じられた時も、タカをくくっていたのだ。


「俺は世界で最初に、『平行線は交わる』証明をして見せる!」


 言い切ったアリスミー殿下は、光彩に包まれていた。

 思わず、私は見惚れていた。

 この人が国王になった時に、側で施政を支えたい!


 くるっと顔をこちらに向けた殿下は、無邪気に笑った。


「公爵家のアルバストとパリトワだな」


「「はい」」


「そんなに固くなるな。勉強終わったから、遊ぼうぜ!」



 


「さて、ちょっくら行くか」


 アリスミー殿下は、私の手を取り歩き出す。


「行くって、どこへ?」

「母上んトコ」


 パーティを、滅茶苦茶にしたお詫びか? 


 殿下の御母上、即ち王妃は、ゲストルームにいた。

 隣には宰相もいる。


「失礼します、母上」


 王妃は視線だけで息子を椅子に座らせる。

 元は現国王の護衛騎士だったそうだ。

 今でも剣を持てば、副団長クラスと互角と聞く。


「何用であるか、アリスミー。この度の騒動の、詫びならいらぬ」


 王妃は殿下の目の前に、タガーを突きつける。

 されど殿下は怯むことなく王妃に告げた。


「今回のパーティは、わたしの婚約者を見定めるものと聞きました」


 宰相は小さく頷いた。


「しかしながら、我が胸にある妃候補はただ一人!」


 王妃の片眉が僅かに動く。


「それは、わたしの隣にいる、パリトワ・アニックス公爵令嬢です!」



 ええええええ!!!

 聞いてない!

 そんなこと、聞いてないぞ、アリッシー!


「お決めになった理由を、お聞かせいただけますか、殿下」


 宰相が言う。

 遠目でも、アルバストと似ているな、と思う。


「例えば燃えさかる火の中から、人を助けたら、助けた人は賞賛されるでしょう。しかし、わたしは火事を起こしてしまってからでは遅いと思うのです。わたしは火事を未然のうちに、防ぎたい。

それを一緒にやってくれるのは、パリトワ嬢を置いて、他にいない!」


 いつもよりも瞳を大きくした王妃は、一瞬間をおいて、拍手をした。


「よう決心してくれた。そなたが早く言ってくれていたら、パーティなど不要であったがな」


 私の意見などまったく取り上げられることなく、殿下と私はこうして婚約した。



 後日、私はアリスミー殿下に訊ねた。


「なんで私を選んだんだ? パワーバランスか?」


 殿下はキョトンとする。


「なんでって、母上の前で言った通りだよ。不満か?」

「いや、別に、不満じゃないけど……。なんていうか、アリッシーと私って、相性良いと思う?」


「いいじゃん、相性悪くっても。

平行線だって、いつか交わるんだから」


 無邪気に笑うアリスミー殿下。

 きっとこの時、私は彼に惚れたのだ。



 

 パーティ開催時に、アリスミー殿下へ危害を加えようとした第二王子派のローレン家とワイダ家は、当主引退を余儀なくされた。加担した数人の使用人は、国外追放を命じられた。

誤字報告、助かっています。

次話は、殿下視点のお話です。

お読みくださいまして、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 次元を1個上げて考えると、曲面で平行線交わりますね。地図の緯線が両極点で交わるように、閉じた曲率になっていれば3次元空間でもいけます。 王子、がんばれ! 君の精神構造かなり曲率高いけど、…
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