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番外編・平行線が交わる時 その1

本編は完結しましたが、番外編を投稿いたします。

アリスミー殿下と婚約者のパリトワのお話です。

side パリトワ



 それはまだ、性別関係なく、勿論爵位も関係なく、自分の周辺にいた同じ年齢の子どもたちと、屋外で遊んでいた頃だった。


「パリィ。明日は王宮の庭園でパーティがあるから、お父さんと一緒に行くんだよ」


「ええっ……。明日はアリッシーとアルと、昆虫採集に行く約束なのに」


「ああ、アリスミー殿下もパーティにお見えになるから、約束は延期だな」


 テンションがぐっと下がったが、父の命令は絶対だ。


 私はこのシャギアス王国で、王家に次ぐ権力を持つ家に生まれた。

 筆頭公爵アニックス家。それが我が家だ。

 王宮で財務大臣を務める父は、現国王の従甥だとか言う。


 だから、私と王太子(予定)であるアリッシー、じゃない、アリスミーも、どこかで血の繋がりがある。

 そのためなのか、私は彼の考えが手に取るように分かる。

 ま、単純だからね、王太子。


 しかし、子ども集めてパーティなんて、何しろって言うんだ?

 ドレスって面倒なんだよね。


 そう思った瞬間、私の頭に、いくつかの絵が浮かんだ。


 アリッシーが倒れる。

 流れる血。

 叫ぶ女性たち。翻るドレス。



 何、これ……。

 アリッシーに、何かが起こる?


 たまに私の頭には、唐突にリアルな絵が浮かぶ。

 それは後になって、実際に起こったことだったと判明するのだ。


 要するに、私は少し先の未来を、掴む瞬間があるらしい。

 王族の血を引く者は、異能を持つことがあるという。

 となると、未来を予見する能力を、私が持っていてもおかしくはない、かな。



 私は手紙を書いて、早急に殿下に届けて欲しいと執事に頼んだ。





 翌日、滅多に着ることのないドレスに身を包み、私は渋々王宮の庭園に行った。

 

「よっ! パリィ」


 真っ先に出会ったのはアリッシー。ああ今日はアリスミー殿下か。


「殿下におかれましては、益々のご健勝のことと存じます」


 一応膝折礼をしてみる。

 この前習った。


「すげえ、パリィが令嬢みたいだ」

「令嬢だし」

「なんだっけ、こういうの。『御者にも正装』?」


 ニヤニヤ笑う殿下こそ、いつもはぼさぼさの髪を分け、白いタキシードなんか着ている。


「その言葉、そっくりお前に返す」


「ドレスは綺麗だね、パリトワ。シャウラン島固有種の白アゲハみたい」


 殿下の後ろに、アルことアルバストがいた。

 コイツは本当に、言葉使いが下手だ。

 『ドレスは』って何だよ! 固有種のアゲハなんて知らんわ。


 ふいに、アリスミー殿下が真顔になった。


「読んだよ、手紙」

「うん」

「対策は取った。安心しろ」


 アリスミー殿下が私に向かって拳を突き出す。

 私も突き出し、自分の拳を合わせた。



 パーティには、王都周辺の伯爵家以上の子女が、父親や母親と一緒に出席していた。

 子女たちは、十数名であろうか。

 主催者は王妃である。

 皆、親たちに手を引かれ、王妃へ挨拶をする。


 王妃の横には宰相が名簿を持ち、チェックをしている。

 宰相は、アルバストの父上だ。

 

 王妃への挨拶が済んだ子女たちは、次にアリスミー殿下の前に進んでいる。


 この流れを見る限り、アリスミー殿下の婚約者を見繕うパーティのようだ。

 私は遠慮しよう。


「王妃様へご挨拶に行かれないのですか? パリトワ様」


 振り向くと、少女とは思えない色香を持つ、ラリアがいた。

 あれ? 今まで何処にいたの?


「いや、私は行かない。それにラリア、『様』いらない」


「まあまあ、そういう訳にも……。ではパリトワ、二人で一緒に行きましょうか」


 ラリアに引っ張られて、私も王妃に挨拶した。

 それよりラリア、なんでそんなに力強いの?

 私より華奢だよね。


 ラリアと私は挨拶が済んだので、お菓子やジュースが並んでいるテーブルに向かう。

 私たちのあとから来た、どこかの子女とその母親が、王妃の前で騒いでいた。


 チラリと見ると、お人形のように可愛らしい少女を連れた、少女の三倍くらい横幅のありそうな母親が、唾を飛ばす勢いで、娘の売り込みをしているみたいだ。


「ああ、グロリアス伯爵夫人ね」

「へえ。有名人?」

「そうねえ、『悪名高き』ってところかしら」


 ラリアは小首を傾げて微笑んだ。


 さすがに王宮でのパーティは、見たこともない果物や、一口サイズのケーキ類がたくさん並んでいる。甘い香りが庭園全体に流れている。

 咽喉が乾いたから、ジュースでも飲もう。


 そう思ってグラスに手を伸ばした、その時だった。

 微かな異音が聞こえる。

 まるで、誰かが低い声でハミングをしているような……。



「気をつけろ! ハチだ! ハチの大群が来るぞ!」 


 聞こえていたのは、虫の羽音だった。

あと何話か続きます。

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