王宮は謎がいっぱい
小動物、頑張るの巻
私は急いで門に向かいました。
警備の騎士達にも、王宮で働く人にも叔母の行為行動は大迷惑です。
何よりも叔母だけでなく、グロリアス伯爵とステアにも、叔母の行動によるお咎めが出ないとも限らないのです。
私は焦っていました。
小走りに門へと向かう私の後を、ウサギのアイちゃんも、鳥のヒナたちも、更には朱色のトカゲも追ってきていることに、しばらく気付かなかったのです。
門に近づくと、ぎゃあぎゃあと騒ぐ女性の声が聞こえてきました。
間違いなく、叔母の声です。
門を守る騎士たちは、うんざりした顔ですね。分かります。
「セラシア叔母様」
たまらず私は、叔母に声をかけました。
叔母は、肉食獣のような目で、私を睨みつけます。
「迷惑です。お引き取りください」
剣を持つ侵入者や、その後の捕り物を見たりした結果、私も修羅場に強くなったのですね。
以前はなるべく関わりたくないように、叔母と視線を合わせることも、なかったですから。
「お、お前がああああ!!!」
叔母は、対応している騎士を突き飛ばし、一直線に私に向かって来ます。
力、お強かったのね、叔母様。
避けないと、ケガするだろうなあ……。
「お前えええ! フローナ! この不細工があああ!」
叔母が拳を振り上げた、その時でした。
ピョコ――ンと跳んだウサギのアイが、叔母の顔に貼りつきます。
そして、鳥のヒナたちは、空中に飛び上がり、嘴で叔母の頭をツツキます。
あらやだ。
この小動物たちは、私への敵対心を持つ人、攻撃する人を、許さないのね。闘うのね。
そんな躾、した覚えは、ないというのに。
「ぐっ! 何コレ! 邪魔よ!」
ご自慢の顔を引っかくウサギのアイを、叔母は手で掴み、投げ捨てます。
、
「アイちゃん!」
ウサギは猫と違って、受け身は取れないのです。
そのまま地面に直撃したら、骨だって脆いのに!
危ない。危ない、アイちゃん!!
私がアイちゃんを受け止めようとスライディングしたら、アイちゃんは空中でクルりんと回って着地しました。そして何事もなかったかのように、顔を洗っています。
ああ、良かった。無事だった。
でもアイちゃん。
あなたの額に、角が一本生えているのは何故?
小鳥たちの攻撃により、叔母の髪は乱れて化粧は落ち、ドレスはフンだらけです。
悪いこと言わないから、一刻も早く、お帰りになった方が良いですよ。
叔母は、騎士二人に引き摺られて行きます。
ほっとした私の視野に、黒い影が走ります。
「!!」
「偽りの女神に鉄槌を!」
叔母の影から抜け出たような、黒ずくめの人影は、刀身を私に向かって、振り上げています。
これは、無理。避けるのは無理です。
ドロートの邸に侵入してきた兵士よりも、研ぎ澄まされた動きですから。
鳥やウサギも、固まって動けません。
刃がキラリ、目の前に…………振り下ろされ…………。
騎士たちが何か叫んでいます。
私は目を閉じました。
…………。
あれ?
まだ、私、息をしています。
カタンと何かが落ちました。
同時に悲痛な声が、あたりの空気を切り裂きます。
裂かれた空気は熱風となり、辺りを包みます。
「ぎゃああああああ!!」
黒ずくめの人が、真紅の炎に包まれて、地面に転がっています。
何がどうして、こうなった??
「グルル……」
私の隣には、いつの間にか朱色のトカゲが寄り添っていました。
トカゲの周囲の草は、黒く焼け焦げています。
まさか……ね。
「あなた、ひょっとして、本当にサラマンダーだったの?」
「ゲフッ」
トカゲは大きく、鼻息を吐き出しました。
ようやく、王宮内の騎士たちが駆けてきました。
「フロー!!」
「大丈夫か!!」
アル先輩と殿下の声も聞こえます。
私は動物たちに囲まれて、彼らを迎えました。
◇◇
「本当に、火を吹くサラマンダーだったのか」
私の生活場である別邸に、アル先輩と殿下、パリトワ様が来ています。
叔母を引きずりながらも一部始終を見ていた騎士によれば、朱色のトカゲは、人間の頭ぐらいの大きさに口を開き、切りかかってきた黒ずくめに、真っ赤な火球をぶつけたそうです。
ところでウサギのアイちゃん、今は額に角が出ていませんが、まさか、一角兎じゃないですよね。
ね……。
「殿下。サラマンダーと遊んでないで、顛末をお話くださいね」
パリトワ様につつかれて、殿下は話を始めます。
「フローを襲ったのは、デバイオの保守派が差し向けた暗殺者だ。今、ラリアが尋問している。グロリアス伯爵邸の使用人に紛れていた。セラシアをそそのかし、王宮内に入ろうと計画したみたいだな」
保守派は、急進派の人たちが、戦意喪失したことに不満を募らせていたのです。
そこで、『女神』と呼ばれた私を、暗殺しようと目論んで、叔母を利用したのでしょう。
「あの、叔母やグロリアス伯爵へのお咎めは……」
私が一番心配しているのは、そこです。
「ああ、罰金と厳重注意だ。セラシア夫人は心身衰弱状態で、加療が必要。伯爵は、管理不行き届きによる罰則だな」
「甘いよね。本当なら、次期公爵夫人への殺人未遂の共犯で、重労働を課すとか、降爵するとかでもおかしくないから」
パリトワ様はそう言いますが、ステアのことを考えると、温情あるお沙汰で本当に良かったです。
「ところで」
私はもう一つ、聞きたいことがありました。
「この鳥やトカゲの卵、ウサギとか、どこから手に入れたものですか?」
殿下もパリトワ様も、晴れやかな笑顔で答えます。
「「それは、これからも僕たち私たちと一緒に、生徒会の仕事をしていけば、分かると思うよ」」
ああ、謎はつきません。
次回、本編完結です。
お読みくださいまして、ありがとうございます!!
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