殿下は懐かしむ
殿下の一人語り。
side アリスミー殿下
父である陛下の「国王でええええす!」を聞いた私は、偏頭痛を起こし、胸の中で毒づいた。
陛下よ!
あんたは、アホか!
アホなのか!
アホなんだな!!
アルバストとフローナ嬢は、「王命による」という文言がなければ、いつまでたっても婚約まで行かないだろう。
互いにチラ見し、頬染めながら、それでもお互いの恋愛感情に気付かない。
はっきり言って、見守る方がじれったいのだ。
君たち二人は子どもか!
何度問い詰めたいと、思ったことか。
わざわざ王宮で、陛下直々にお祝いの言葉でも言ってもらおうと思っていたが、甘かった。
そんな第一王子の繊細な心を、斟酌できる父ではない。
たまに「本当に陛下と第一王子殿下は、よく似ていらっしゃいますね」などと戯けたことを言われるが、言った奴には浄化の炎を、極大でぶつけたいね。
そもそも、前々国王、つまりわたしの曽祖父だが、これがまた困ったもんだった。
『殺戮大魔王』などと呼ばれ、近隣諸国を荒らしまくった。
おかげで今も、デバイオを始め他国が虎視眈々と、わが国への侵略と報復を狙っているじゃないか。
曽祖父よ!
あんたは中二病だったのか!
少しは子孫のことを考えて戦をしろと、何度墓所で思ったことか。
ついでに曽祖父は色欲魔人とも呼ばれ、常に後宮には三十人の美姫を揃えていた。
特に、魔術を扱うデバイオや他の国から戦利品として連れてきた、おそらくは魔力とやらを持つ女性との間に、ぽこぽこ子どもを作った。
おかげで王族には、魔術やそれに類する特異能力持ちが増え、後宮で生まれた子供たちは、国内の貴族に婿なり嫁なり下賜されたので、貴族の中にもそれなりに異能力者がいる現在である。
ただ、現王は、あえて、異能力者を育て上げることはしていない。
現王の祖父は、(わたしの曽祖父だが)まだ幼児の現王を、無理やり戦場に連れ出した。結果、「血、嫌い。臭いも嫌」となり、極力戦争を回避する政策を取っているのだ。
わたしも基本、現王の方針に賛成である。
ただし、どんなに外交に力を入れても、戦に負けた国からしたら、わが国は宿敵だ。勝手に攻めてくることもあるだろう。
そこで、わたしは学園にいる間に、異能力を持つ者を集め、保護することにした。幼馴染で、親戚筋のアルバストと、婚約者のパリトワも、賛同してくれた。
二人とも、他の人にはない固有の能力を持っていた。
すぐに、ルコーダとラリアが見つかった。
ルコーダは、身体強化を自由自在に出来る、接近戦にはもってこいの能力を持ち、ラリアはその気になれば、完全に気配を消すことの出来る能力を秘めていた。
そして今年の新入生、フローナ。
子爵令嬢だが、フローナの母は歴史ある伯爵家の出だ。
フローナが手掛けた花壇には、見事な花が咲く。
土壌の改善でも種はほころび、花が咲く。
元々の子爵領でも、彼女が種を蒔いた花は、ことごとく咲いたという。
ただし、フローナ本人は、まったく自覚がない。
自覚なしに、ルトの花まで咲かせてしまったのだ。
間違いなく、特別な彼女の固有能力である。
おそらくは、伯爵家で生まれた、フローナの母上から受け継いだものであろう。
先日、アルバストとフローナの婚約話をまとめに、子爵家に行って気が付いた。
子爵家に、ほんの微かに漂う、花の香に。
廊下で夫人を捉まえて、わたしは尋ねてみた。
「この香りは、夫人、あなたが出しているのか?」
夫人は微笑み、こう返した。
「さすがでございます。気が付かれたのは、殿下が初めてですよ」
ははは。
あからさまに褒められると照れるものだ。
自慢ではないが、私の異能は、数えたら六十四あった。
聴覚や嗅覚の鋭敏さも、異能の一つといえよう。
ところで夫人が出していた花の香りは、異能の一つ「魅了」効果を中和するらしい。
もっとも、たいそう時間がかかる、方法だとも言っていた。
でもさ、魅了なんてアブナイ能力持っている者、いたっけ?
まあいい。
あまり良い噂を聞かなかったドロート子爵だが、最近は自分で納税書類の問い合わせをするようになったと聞く。王都の男性向けの店にも、あまり顔を出さなくなったというし、夫人が居る限り、ドロート子爵領は安泰だ。
フローナは、「育生」という能力を持っていると、わたしは推測している。
花に限らず、農作物全般、そしておそらくは、動物を育てるのも破格に上手じゃなかろうか。
今度、ひよこか子ウサギでも、フローナに与えて、育てさせてみよう。
ああ、そういえば、アルバストが飼育しているミミズも、フローナが世話をすると太く大きく育つらしいな。
わたしは見たくはない。絶対見ないけど。
陛下の無駄話は続いている。
「で、何時するの? 結婚」
「いや、まだまだ先のことです」
アルバストが恥ずかしそうに答えている。
「結婚前に、子ども作っちゃダメダメよ」
アルバストもフローナも真っ赤な顔になる。
そろそろ陛下の話を止めさせるか。
二人とも、初心だからな。
しかし、アルバスト。
まだわたしもお前もツルツルだった頃、庭園の端っこで小水の飛ばし合いしたのが、つい昨日のことのようだ。
ふふふ……。
どうも笑い声が漏れていたようで、隣の第二王子から、わたしは思いきり、肘鉄をくらった。
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