ミーちゃん乱舞
ミーちゃん出ます。苦手な方、お気をつけて。
フローナ、活躍!?
目を細めて室内を見ると、父と母とロジャーは、縛られて座っています。
あら? イザペラは?
「見張り付で、今侍女が、プラウディ領に向かっている。うまく娘をこっちへ連れて来たら、フフフ……」
室内の狼藉者は、最低三人はいるようです。
ゴメンね、イザペラ。
当該娘、今厨房に来てます。
「どうやら、デバイオの兵士だな」
私の隣にぴったりと、アルバスト先輩がくっついてます。
「どうしましょう?」
「人質がいて、剣を持った敵が室内に三人か。おそらく庭園にもいるだろうな……」
ふと、私は厨房の中を見渡しましす。
武器になりそうなもの、あるかしら。
あるのは、料理用に干したハーブ類と、薪の束くらいですね。
「俺にルコーダくらいの腕があれば、薪一本で突入できるけど」
頭を掻く先輩。
いいんです。
人には向き不向きがありますから。
先輩が「嫌な気配」を察知してくれたおかげで、取り敢えず見つからずに、ここまで入れましたもの。
外から、鳥の声が聞こえました。
アルバスト先輩が顔を上げます。
「一瞬……ほんの一瞬で良い。室内の連中の気を、逸らせることが出来れば!」
気を、逸らせる……。
「先輩! ミーちゃんお借り出来ますか? 今、先輩の腰に付けている箱、『ミーちゃん館』ですよね」
「えっ、ああ……」
私は干してあったハーブを二種類ほど取り、厨房内の柱を指差します。
「私がここから天井に上がり、兵士の気を逸らせます。先輩は、この葉を噛んでいてください」
「危険だ! 俺がやる」
「いえ、この天井は狭いので、私の体でないと通れません」
「しかし!」
再び鳥の声が聞こえました。
私はひったくるように『ミーちゃん館』を取り上げ、するする柱を昇ります。
勝手知ったる自分の家です。
すぐに客室の上までたどり着きます。
広いお邸でなくて、良かった良かった。
天井の隙間から下を見ると、父と母の前に兵士が二人。もう一人は、窓際にいました。
幸運なことに、三人の兵士たちは、鎧を付けていますが、兜は付けていませんね。
「まあ、娘が来たら、親子仲良く逝ってもらうから安心しろ」
いかにも三下風なセリフを吐く、兵士ですね。
いってもらう?
何処へですか。
「……や、止めてくれ。金なら、あるだけ出す。俺はともかく、娘は……娘だけは巻き込まないでくれ!」
父の、涙声……。
初めて、聞きました。
大丈夫です、父さん。
娘はしたたかに、生きてますから。
私は館からミーちゃんを出します。
アルバスト先輩が丹精込めて育てた、普通のミーちゃんの三倍以上に、太く育ったエリートたちです。
「お願い! ミーちゃん!」
隙間から、私はミーちゃんのたちを手放します。
同時に、乾燥ハーブを細かく千切りながら、室内へと撒きます。
それは、白いハーブの欠片と、丸々としたピンクのミーちゃんたちの、麗しいランデブーでした。
べちゃっ!
ベとり!
ぴたっ!
「ぎゃあ! なんだ! これ」
「蛇か!」
「いや! 蛇じゃない!」
「「「ミ、ミミズだあ――!」」」
兵士らが、慌ててミーちゃんを掴もうとしますが、しっとりと丸いミーちゃんの体は、彼らの指を弾いています。
つるん!
つるん!
ミーちゃんと一緒に室内へ降りていったハーブの欠片は、吸い込むと、指先などがちょっと痺れます。痺れを防ぐには、緑の濃い葉をそのまま噛むことです。
「て、天井だ! 天井にミミズの巣があるんだ」
いや、ないです。
館はあるけど。
奮える手で、兵士は剣を、天井に突き刺そうとします。
その時でした。
ガッシャ――ン!!
ガラスが割れる、大きな音がしました。
同時に、熊が室内に飛び込んできます。
あ、鎧着てる。
もしや……。
鎧を付けた熊、じゃないルコーダ様が、剣を振りかざす兵士らを、素手で殴り倒していきます。
あっという間に、室内の兵士は捕縛されました。
「出てきていいぞ! アル!」
ルコーダ様は天井を向き、笑っています。
「君もだ、フロー」
いったん厨房に戻り、猿の様に柱から降りた私を、アルバスト先輩は抱きしめます。
「良かった! 無事だね」
「ごめんなさい先輩。ミーちゃんたちを物のように扱って……」
「そんなことは良いよ。ルコーダが突入する隙を、作ってくれた。それだけ役に立ったんだから」
先輩は、私が言った通り、葉を噛んでいたようです。
唇が緑色です。
「いつルコーダ様と、連絡を取っていたのです?」
「鳥の声。あれはルコーダがよく使う、連絡方法だよ」
まあ、びっくりです。
私には、単なる鳥の鳴き声に聞こえましたもの。
二人揃って、客間に入ります。
父も母も、ロジャーも縄を解いてもらっています。
「お嬢様!」
イザペラが駆け寄って来ます。
プラウディ領に向かっていたのでは?
「良かったです、お嬢様がご無事で。私が門を出て、プラウディ領へと歩いていると、そちらの騎士様に声をかけられまして……」
ルコーダ様が顔を掻いてます。
「元々、こいつらの動きを探っていたからな」
ルコーダ様が捕縛され、床に転がっている兵士を軽く蹴ります。
「こら、それ以上、捕らえた者に、暴力行為を行わないで!」
凛とした女性の声です。
割れた窓から入って来たのは、いつもと違う衣服を着た、ラリア様でした。
ラリア様は、体にぴったりと張り付くような、漆黒の服を着ています。軍服とは違う、首からつま先まで一枚の布で出来ているようなお召し物です。
ラリア様は、転がっている兵士を追い立て、外へ連れ出して行きます。
「あとは任せて」
そう言ってラリア様は、私にウインクします。
きゃあ! 色っぽい!
それで。
今までいた兵士って何処のどなた様なんでしょう?
騎士のルコーダ様はともかく、ラリア様って一体……。
「子爵。少しだけ、お話して、よろしいでしょうか」
父の前でルコーダ様が跪きました。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます!!
隣国は、どう動くでしょうか。




