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大人の社会を垣間見る日・その二

侯爵家でのやりとりがメインです。

 プラウディ子爵は、「ええと……」を繰り返し、なかなか本題に入りません。

 後ろの席のウルス様は、小刻みに体が揺れています。

 貧乏ゆすり? そんな癖、ありましたっけ?


 見かねてファイアット侯爵が、パラパラ紙を繰りながら子爵に訊ねます。


「昨年末に提出された書類について、わたしから質問します。まず、一昨年に比べて、穀物、野菜根菜、いずれも収穫が激減した原因は何ですか?」


「そ、それは、春先の大雨で川が氾濫し……堤防が一部決壊したため、畑の土が泥状になって、作物が育たなくなりまして……」


「子爵、昨年の堤防の決壊については、わたしの方から王宮へ相談し、補償されましたね。しかしながら、現在でも、手つかずの畑が残っているのはどうしてでしょう」


 プラウディ子爵の顔色は、どんどん悪くなっていきます。


「そ、それは土が……」


「土が、どうしたんですか?」


 口調は穏やかですが、侯爵の目は細くなっています。


「土が合わなくて!」


 土が合わない?

 プラウディ子爵の吐き出した言葉に、私は首を傾げます。

 肥料が合わないとか、水の量が足りないとかなら分かります。


「土が合わないとは、どういうことでしょう」


 追及を緩めないファイアット侯爵に、ウルス様はイライラした表情を隠そうともしません。

 プラウディ子爵夫人は、ずっと俯いていましたが、意を決したように顔を上げました。


「発言をお許しいただけますか?」


「どうぞ」


「誠に、申し訳ないことでございます。堤防決壊で汚泥が大量に流入したのは、領地の中でも、子爵家が直轄している場所でした。汚泥の除去と開墾作業は、当家だけで細々と行ったものの、人手が足りませんでした」


 夫人の言葉で、ウルス様の肩がピクっと動きます。


「当家は西側のデバイオ国に近いため、長年同国との交易を行ってきました。その関係でデバイオのギルドに、汚泥処理の出来る人材を探してもらったのです」


 ドロートもそうですが、お隣のプラウディ領から、シャギアスの中心部までは距離があります。

 そして、どちらの領地にも、人材派遣を行うギルドはないのです。


「汚泥処理のための人材は、すぐに見つかりました。処理に来た方がこう言いました。『泥を除いても、この畑の土はもう使い物にならない。新しい土を入れるしかない』と」


 夫人の話を聞いていた、先輩のお師匠様の顔色が変わります。


「まさか!」


 アルバスト先輩が立ち上がります。


「夫人。その、新しい土をどこから、どこの土を入れたのですか!」


「デバイオ国から、購入いたしました。汚泥処理と土の購入で、いただいた補償金を使い切りました」


「バカな!」


 アルバスト先輩の叫びが響きます。

 私には、先輩の泣き声のように聞こえました。


「座れ、アル」


 殿下の指示に従う先輩でしたが、座っても頭を抱えています。


「あの……」


 びくびくしながら、プラウディ子爵が発言します。


「土は、交易禁止項目に、入っていなかったですが……何か問題でも?」


「問題大ありだ!」


 声を上げるアルバスト先輩を、殿下が押さえます。


「まあ確かに、禁止はしていなかったな。というより、土壌の輸出入なんて頭になかった。いかんな、王都にばかりこもっているのは。それでは、土を隣国から買ったことの何が問題か、話してくれ、オリギア卿」


 殿下のご指名で、アルバスト先輩のお師匠様(と私が勝手に思っている方)が立ち上がります。


「殿下のご指名により、お答えいたします。わたしは王立農業研究所の、所長を拝命しておる者です」


 あ、やっぱり。

 先輩のお師匠さんだ。


「近隣諸国とはいえ、シャギアスとデバイオの土壌は、元々の成分が違います。シャギアスは比較的温暖な気候の基、植物の生々流転の繰り返しで出来た地盤です。柔らかいが、農地に向いている」


 お師匠様、じゃない、オリギア卿は話を続けます。


「だが、デバイオは違う。あの国は山脈に囲まれ、複数の火山を持っています。現在火山は活動していませんが、何百年前かまでは、何度も噴火を起こしていた。つまり、デバイオの土壌の多くは、火山灰や動物性の死骸が蓄積されたもの。農業に向いている質ではないのです」


 初めて知りました。

 ドロートの農地は、私が物心ついた頃からずっと、豊かな実りを与えてくれます。

 農地とは、何処でもそういうものだと思っていました。


 オリギア卿の話を聞いたプラウディ子爵と子爵夫人は、がっくり頭を下げます。

 ウルス様だけは、卿を睨みつけながら嘯きます。


「僕は知らないぞ、そんなこと! ちゃんと教えてくれなきゃ、分かりっこない」


 夫人は肘でウルス様を突きます。

 オリギア卿は超然とした表情で、ウルス様に言いました。


「学園高等部の生徒諸君には、わたしが直々に教えに行ってますぞ。特に領地を持つ貴族には、領地と領民を守る責務がありますので」


 高等部に入ると、オリギア卿の講義が受けられるのですね。

 期待してしまいます。


「結論としては、購入した土では、農作物が育たなかった、ということでよろしいでしょうか」


 ファイアット侯爵が話を元に戻します。


「育たないどころではないな」


 殿下が呟きます。


「アリスミー殿下、何か?」


「これはデバイオ国の巧妙な作戦だ。軍事行動と言っても良い」


 軍事行動ですって? 

 超深刻な話だと思いますが、なぜか殿下の目は、嬉しそうに光っていました。

次回、生徒会メンバーが立ち上がる!


誤字報告、いつも助かっています。ありがとうございます。

お読みくださいまして、ありがとうございます!!

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[一言] あわわわわわ……!
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