先輩も奮闘する
誤字報告、いつも助かっております。
本日二話目。
アルバストの冒険譚。
side アルバスト
俺はフローの領地を出て、すぐにプラウディ領地へ馬を走らせた。
プラウディ領地は、ドロート領よりも倍近い広さだが、全収穫量はドロートの半分程度だ。
元々の土壌は同じはず。
原因は何なのか。改善するとしたら、何が必要なのか。
それらを調べる予定だ。
プラウディ領地の最西端には川が流れており、その川が国境線にもなっている。
西の国デバイオと我が国シャギアスは、一応国交が結ばれている。
だが、同盟国同士ではない。
デバイオは元々好戦的な国であり、いずれかの国でも外交問題が起これば、すぐに軍隊を派遣し、戦うことを厭わない。
王室は、なるべくデバイオとは、もめ事を起こさないように配慮している。
俺はプラウディ領に入ると、馬を共同の厩舎に繋ぎ、徒歩で西側を目指した。
プラウディの領民たちは、どこか草臥れた服装だった。
俺は一軒の賄い処に入り、スープだけを頼む。
運ばれてきたスープには、細かく切った野菜が、申し訳程度に浮いていた。
スープを飲みながら、フローが渡してくれた堅いパンを取り出す。
ほんのりとバターが香る、小ぶりだが噛み応えのあるパンだった。
旨いな。
二人で食べたら、もっと旨いだろうな……。
水筒の蓋を開け、飲もうとした俺は気付く。
さっき、フローに直接飲ませたことに。
迷ったが、俺も直接口を付けた。
柄にもなく、ドキドキする。
「お兄さん、他所から来た人でしょ。何しに来たの? この辺、何もないけど」
店内にいた、髭面の男に声をかけられた。
こんな時、俺の答えは決まっている。
「虫を取りに来ました。昆虫採集ですよ」
髭面は、「ああ」という顔をして俺に言う。
「そんなら、川べりに行くといいよ。流れ込んできた土砂が、お隣のデバイオから、新顔の虫を運んできたから」
軽く頭を下げ、俺は男の科白を反芻する。
流れ込んで来た土砂、だと?
何時の話だ。
シャギアス側の堤防が、決壊でもしたのか?
そんな報告は受けてない。
いや、俺が知らないだけかもだ。後で親父に確認しよう。
とりあえず、川の側まで行ってみる。
川に近づくほど、道は泥濘になっている。
川の近くの田畑は、なぎ倒されたような麦の穂に、トンボが止まっていた。
無理やり土を入れ替えた場所もある。
何より、悪臭が漂っている。家畜の糞尿の臭いだ。
これでは、作物を育てるどころではない。
プラウディ子爵は、この状況をご存じなのか。
ご存知でありながら、改善策を実行していないとしたら……。
川に沿って歩いていると、いきなり軍服姿の男二人に行く手を阻まれた。
「何者だ。どこへ行く」
へんななまりのある、シャギアス語で喋る男らは、銃剣を構えている。
逆らうのは得策でない。
俺は両手を挙げて答えた。
「昆虫採集です。この辺が良いと聞きましたので」
二人の男は顔を見合わせる。
「証拠はあるのか」
「カバンを見てください。虫取り用に、腐敗した果実の瓶詰が入っています」
一人が俺のカバンを開け、瓶詰を見つけた。
もう一人に何か言っている。
「#”%&?!☆★◎」
それは西の隣国、デバイオの言葉だった。
「よし、この先の橋までが許容範囲だ。日暮れ前に帰れ」
俺は頭を下げ、ゆっくりとその場を離れた。
いつもの作業服で来て良かった。
それに……。
フロー。君の心遣いで、俺は助かったよ。
◇◇
「おやおや、そんなきな臭い現場に立ち会ったのか、アル」
言葉とは裏腹に、全く緊迫感のない王子の声である。
俺はプラウディの領地で、適当に昆虫採集をするフリをして、すぐさま馬を蹴り、王都に戻った。
夏休みとはいえ、第一王子のアリスミーは、宮殿内で執務をこなしている。
宮殿内に自室を用意されている、アリスミーの婚約者、パリトワも同席していた。
「趣味は身を助ける、か。とっさに昆虫採集と言ってよかったな、アル」
「芸だよ、助けるのは」
「ホントにね。それと、果実のシロップ漬けを持たせてくれた、フローに感謝しないと」
「ああ……そうだな」
俺は、現地では食べられなかった果実のシロップ漬けを一つ口に入れた。
甘いがしつこくない、さっぱりとした後味だ。
「わたしにも、一つくれ」
「いや、ここ毒見役いないしダメダメ」
「アルが食べて大丈夫だから、ダイジョウブ」
「勿体ないから、やだ」
「ケチ!」
パリトワが軽く咳払いをする。
「プラウディ領で、河川の氾濫で土砂くずれが起こった、という報告は上がってないわ」
「しかし、一部の堤防から、水と汚泥が畑に流入したのは間違いないぞ」
俺は現地で見たことを語る。
「ではなぜ、子爵は報告しないのだ。被害の状況によっては、王国からの補償もあるのだが」
王子は首を傾げる。
「そもそも、なぜデバイオの言語を使う奴が、プラウディ領内で見張りをしているんだろう?」
不法入国なのか。それとも……。
三人で話しても、埒が明かない.。
さすがにこれ以上は、宰相や騎士団に相談すべき事項かもしれない。
「ちょっと待て。プラウディ子爵とドロート子爵の寄親は、確か同じ侯爵だったはずだ」
「そうなんだ。で、その侯爵って誰?」
「ファイアット侯爵。ラリアの家だ」
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