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宴の後の夜

「もう、婚約なんて破棄してやる!」


 その声の主を私は知っていました。


 でも、彼が「婚約破棄」を言うなんて。

 ウルス様は、ステアと喧嘩でもしたのでしょうか。


 ステアは、会場を突っ切って、出口に向かいます。

 丁度、私の父と母が並んでいる辺りで足を止めました。


 父はニコニコしながら、ステアに両手を差し出しました。

 さあ、飛び込んでおいで、とでも言うように。

 ところがステアはその手を掻い潜り、母に抱きついたのです。


 ちょっ!

 ちょっと待ってステア!

 あなたが抱きついたのは、私の母よ。


 あなたのお母様も、会場にいるでしょう。


 アルバスト先輩は、残されたウルス様に声をかけました。

 ウルス様は無言のまま、先輩に背を向けます。

 会場はざわついたままです。


 そんな会場の真ん中に、殿下が進まれました。

 歓声と拍手が会場を包み、少々剣呑だった雰囲気が一気に変わります。


 さすがに、王子様ですね。


 殿下が片手を挙げると、ピアノの音が流れます。


「宴もたけなわ。さあダンス、いってみよう!」


 殿下はパリトワ様を誘い、会場の真ん中で華麗なステップを披露します。

 参加者たちも、それぞれパートナーと踊り始めます。


 私は目の前に差し出された、アルバスト先輩の手に仰天しながら、恐る恐るその手を取りました。


 学園でダンス指導も受けていましたが、つま先が何度か床に引っ掛かり、きっと私の顔は真っ赤です。


 ふと見ると。

 なんと。

 父と母が、二人で踊っているではありませんか!


 えええ……。

 父が、貴族っぽい……。

 黙っていれば、いまだ外見はイケてなくも、ないような、でもそうは思いたくない私。


 母はまさに貴族の夫人。

 穏やかな微笑みと優雅なステップで、周囲の視線を独り占めです。


 そんな二人の姿を、私は初めて間近で見ました。



◇◇



 パーティも無事終了し、先輩たちの手を借りながら普段着に戻り、私はほっと一息つきました。


「婚約破棄の声が出た時には、あちゃーと思ったね」


 パリトワ様がオデコに手を当て言いました。


「何年かに一度、宣言するヤツ出るよね」


 ラリア様が同意します。


「どうなったのかしら。叫んだの、ウルスだったし」


 ヴィラさんは、ちょっと心配顔。


「取り敢えずは、保留だそうです」


 私はダンスのあと、母から聞きました。

 保留と聞いて、皆安心したようです。


 今夜、母は私の寮の部屋に泊まります。

 父はいつもの伯爵邸だそうです。


「そうね、考えてもしょうがないわ」


 パリトワ様が「差し入れ」と言って、着替え終わって皆に焼き菓子を配ります。


「あら、これ、王宮の……」


 菓子には、王家の家紋(マーク)が焼き付いていました。


「そうそう、殿下から、疲れを癒してって」


 意外にも、何かと気が付く王子様です。


「お母様にもどうぞ」


 二個の焼き菓子を持って、私は寮に向かいます。

 寮のエントランスでは、既に母が待っていました。



◇◇



「あら、綺麗に使っているのね」


 母と一緒に寮の部屋に入りました。

 母は荷物を片付けると、私の部屋をあちこち見ています。


 あらかじめ申請しておくと、両親だけは寮にお泊りできます。

 簡易ベッドも貸してもらえます。


 母が着替えてベッドに腰を下したところで、私は母に飛びつきました。

 ぎゅうっと抱きつくと、母も同じように私を抱きます。


 さっき、ステアが母に抱きついた姿に、私は嫉妬していたのですね。


「綺麗だったわ。今日のドレス姿」

「うん」

「イルバ令息の、アルバスト様、ホント素敵ね」

「うん」

「お茶でも、飲む?」

「うん!」


 ここぞとばかりに私は母に甘えます。

 寮にある共同の調理室からお湯を調達し、母子でハーブのお茶を飲みます。


「お母さん」

「なあに?」

「さっき、ステアが抱きついたでしょ?」

「そうだったわね」

「何だったの?」


 母は優雅にお茶を飲みます。


「夏の間だけでも良いから、ドロート邸で暮らしたいって」

「えええええ!!」


 なんですって!

 休みの間、いろいろ忙しいのよ、私。


「実はね、ステアのお父上様のグロリアス伯爵にも、同じことを頼まれていたの」


「なんで、また。虫とか嫌いでしょ? ステアは」


「うーん、なんとなくなんだけど……。ステアはお母上のセラシア夫人と、距離をおきたいらしいの」


 それは、分かります。

 私も出来れば、あの叔母様と、果てしなく距離をおきたい。

 でも、ステアって、溺愛されてなかったかしら?


「もっと賢くなりたいんですって。フローナみたいに」


 ちょっとビックリです。

 たいていの女子が憧れるような、容姿を持っているステアなのに。

 賢くなりたいと思っていたなんて。


『頭が良い人ってズルい』


 あれはステアの本音だったのですか。


 深く考えても仕方がないので、私は頭を軽く振り、母に、いただいた焼き菓子を出します。


「これ、王宮で作られてるお菓子じゃない。どうしたの?」

「えへへ。第一王子の差し入れ」


 ともかく、長いお休みです。

 私は私の、やるべきことをやらなければ!

舞台は学園から、フローナの故郷、ドロート子爵領に移ります。

フローナのやるべきことは何でしょうか。


いつも応援、ありがとうございます!!

引き続き、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 隣の芝生は青く見えるものですよね( ˘ω˘ )
[良い点] うわーん°・(ノД`)・°・更新が待ち遠しいのです~°・(ノД`)・°・
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