パーティ会場にて・その2
パーティの続きです。
呆けた顔の父を放置し、私はスイーツの他に、用意されているパンを食していました。
すると会場がまた、賑やかになっています。
注目を浴びているのは、在校生の保護者のようです。
すらっとした銀髪の男性は、どこかで見たことがあるようなお方。
その方がエスコートしているのは。
羽飾りの帽子を被った……。
って、お母様?
母は私と目が合うと、男性と一緒にやって来ました。
今日の母は、体のラインにピッタリの銀色のドレスを着ています。
裾には刺繍が施されているので、リメイクしたドレスでしょうか。
なんといっても。
お隣の男性の髪は銀色。
まさか!
お母様、その男性って……。
「はじめまして。ドロート子爵令嬢。お噂はかねがね、息子から伺っていますよ」
息子?
「フローナ、こちら、イルバ公爵よ。うふふ。昔の同級生」
イルバ……。
イルバ?
まさか!
「あ、アルバスト先輩、じゃない、アルバスト様のお父上様!?」
私は、軽く眩暈を起こしました。
確かに、銀色に輝く御髪といい、間近で見ると青緑色の瞳といい、先輩とよく似ていらっしゃいます。
「最近まで、全然知らなかったわ。ゲラーキ様のご子息に、娘がお世話になっているって」
母は、羽飾りと同色の扇を口に当てます。
うわあ。
貴族っぽい。
なんでも、アルバスト先輩が土を取りにドロートの領地に行った時、母は一目でイルバ公爵のご子息だと分かったそうです。
「こちらには、家内と一緒に来る予定でしたが、ただ今陛下の外遊に同行しているもので」
「あら、宰相様、お留守番なのね」
「それとお目付け役さ。たまに学園のパーティで、『婚約破棄』なんてバカなことを言う輩が、出たりするから」
母とイルバ公爵がお話する間も、保護者の方々から、母への挨拶が途切れません。
「お久しぶり、ペリノ。あ、ドロート子爵夫人」
「ペリノ様、お変わりなくお美しいこと」
母はドロートの領地で、ひっそりと暮らしている姿しか、私は知らなかったのですが、確かに母にも青春があり、学園での生活があったわけです。
離れて寂しい思いをしても、母が私を学園に通わせる真意に、触れた気がしました。
「あれ、来てたの。父さん」
アルバスト先輩が合流しました。
だいぶ衣服がよれていますね。
相当、女子に触られたのでしょう。
「父上と呼びなさい。公式の場だ」
「あーはいはい」
親子二人が並ぶと、美男子オーラ半端ない!
「ちょっと待て! ペリノ」
あらま。
父が顔を赤くして、母に詰め寄ってきます。
「お前、招待状なくて、どうやって今日ここに入った!」
「あら、私個人宛に、いただいてますわよ、本日の招待状」
「えっ」
なんと。
父は本日の招待状を勝手に持ち出し、叔母と一緒に来たようです。
一枚の招待状で、保護者二名まで入れますから。
でも、母は個人で招待状を貰っているって、何かこの学園に貢献したのでしょうか。
高額な寄付金を出せるほど、ドロート家は裕福でないと思いますが。
「貢献? したわよ。領地の土と、マトリカの種を寄付したじゃない」
母の言葉に、アルバスト先輩は敬礼します。
「その節は、お世話になりました!」
そうか。
そうだったのですね。
生徒会から、感謝を込めて、我が母、ペリノ・ドロートに招待状を送ってくださっていたのです。
「先輩、ありがとうございます。母が来てくれて、私は嬉しい……」
「フローが喜んでくれて、俺も嬉しいよ」
イルバ公爵は、無作法な父に表情も変えず、対応します。
「夫人をお借りして、申し訳ないです。子爵」
勢いこんで来た父の怒気がそがれます。
「いえ、いや。まあ、特に問題でもないことで……」
身分の高い方には、あっさり低頭する父でした。
「子爵夫人は、相変わらずお綺麗で、羨ましいですよ。お嬢様も可愛らしくて」
宰相のお仕事が残っていると、イルバ公爵は王宮に戻りました。
公爵のリップサービスに、父は目を白黒させました。
自分と自分の妹や姪アゲ、妻と実の娘サゲをナチュラルにやってきた父ですから、母と私が誉められることに、納得いかない表情です。
「フロー、パンとケーキだけじゃ、足りないだろ? 向こう側に肉料理あるから行ってみよう」
アルバスト先輩に誘われて、行こうとしたら、父がぶつぶつ言いました。
「お前、もう男作ったのか。アバズレが」
母の顔色が変わります。
アルバスト先輩も一瞬眉をひそめました。
でも、先輩はすぐに快活に父に挨拶します。
「これは失礼しました。わたしはアルバスト・イルバ。ドロート子爵令嬢の先輩に当たります。以後、お見知りおきを」
イルバの姓を聞いた父は、仏頂面で「ああ」と頷きました。
「あとは私が相手をするから」
母が私と父との距離を、取ってくれます。
そんな時でした。
「もう、婚約なんて破棄してやる!」
パーティ会場に、不穏な声が響きました。
酷い親って、実在するのです。
パーティ会場のお話は、まだ続きます。
お読みくださいまして、ありがとうございました!!




