表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/49

缶バッジだけなら

パーティ直前のお話です。

本日三話目です。


 いよいよ表彰式とパーティの日です。

 入学式の時よりも、私は緊張しています。

 表彰式は学園指定の服装なので、女子は白いブラウスに紺のスカートです。


 一番大きな講義室で学園長の挨拶後、表彰式が行われます。

 なんと。

 表彰状と賞品を渡してくださるのは、アリスミー殿下です。


 殿下は王族の式服を着ていて、いつもは肩まで伸ばしている髪をオールバックにまとめています。

 さすが王子様です。風格が違いますね。

 名前を呼ばれて壇上に上がると、殿下はプリンススマイルで、迎えてくれました。


 副賞としていただいたのは、万年筆と缶バッジです。

 バッジには、殿下のスマイルイラストが描かれていました。


 壇から降りる前に、殿下は小声で言いました。


「もっと、君は自信を持っていいんだよ」


 いつもより十倍くらい紳士的で、二十倍くらい優しい声でした。

 ダンゴムシの大きさ比べをしていたなんて、思えない程です。

 私はコクリと頷き、自席へ戻りました。


 式典後、指定された教室や寮内で、女子は着替えに移ります。

 パーティまで、あまり時間がありません。

 私は生徒会室に直行です。

 会場を抜けようとすると、母が出口で手を振っていました。


 あらお母様、羽飾りの付いた帽子を被ってますね。

 母の正装を見るのは、何時以来でしょう。

「また、あとで」

 そう母の口は動いていました。


 急ぎ足で出口の人混みを、抜けようとした時でした。


「おい、フローナ」


 聞き覚えのある声に、足を止められます。


 ああ、父も来ていたのですね。

 父の隣には、当たり前のように叔母がいます。

 叔母には招待状は届いていないはずですが。


「お前、お世話になった人への挨拶なしでいいのか!」


 はい?

 まあ、お世話になった、というか育ててもらった恩がないわけではないですね。

 急いでいますが足を止め、父へ頭を下げました。


「お陰様で、成績優秀者として表彰を賜りました。ありがとうございます」


「なんだその、木で鼻をくくったような言い方は。……まあいい。叔母さんへの挨拶はどうした」


 ええっ?

 お世話に……。


 私、叔母さまに、何かお世話になりましたっけ?


「挨拶なんかより、賞品見せてよ」


 叔母が私の手から、万年筆の入った箱を取り上げようとします。


「ちょっと、止めてください!」


「あら良い品じゃない。これ頂戴よ。あなたは来年も表彰されるだろうから、一つくらいステアに譲っても良いじゃない」


 はあああ!

 ご冗談でしょう!


「そうだぞフローナ。日頃の感謝を込めて、叔母さんに差し上げなさい」


「嫌です。賞品が欲しければ、ステアが頑張って成績優秀者になれば良いだけでしょう」


 私は箱を取り返し、叔母に向かって言いました。


「なんだと! 何生意気なこと言ってるんだ!」


 父が拳を振り上げます。

 止めてください。私は忙しいっていうのに!

 殴るなら、顔はやめてくださいね。


「なんだ、そなた達、そんなに欲しかったのか」


 私の背後から、のほほんとした声がしました。

 その姿を見た父と叔母は、一瞬固まって、敬礼します。


「ああ、硬い挨拶はあとでいいから。そなたらが欲しいのならば、せっかくなので差し上げよう」


 声の主、アリスミー殿下は、ジャラジャラとポケットから出した物を、父と叔母に一つずつ手渡しします。


 それは殿下の絵姿付き、缶バッジでした。

 父と叔母はポカンとしています。


「フローナ嬢、時間がないぞ。走るがよい」


「御意!」


 殿下の介入で、その場を切り抜けた私は、ひたすら生徒会室を目指しました。



 生徒会室で遅くなった事情を話すと、みんな大笑いでした。

 涙を流さんばかりのパリトワ様も、お腹を抱えています。


「しかし、なんでそういう発想になるかなあ」

「だいたい、よく入場できましたね、フローの叔母様」

「これはパーティでも何か、やらかすね」


 笑いながらも先輩たちは、私にドレスを着せてくれます。

 ラリア様が秘伝のお化粧品で、私のメークアップを仕上げます。

 メジアンから貰った首飾りを付けると出来上がりです。


「ほおら、見てごらんなさい」


 ラリア様が、大きな鏡をかざしてくれます。


「!!」


 私は一瞬目を瞠りました。


 私の姿は、いつもより三割以上増し増しです。

 馬子にも衣装。こういうことか。

 何よりも、お化粧って、スゴイ!


 生徒会室を出ると、そこには男子役員たちが揃って待っていました。

 ラリア様にはルコーダ様が手を差し出します。

 ルコーダ様、正装になると体が大きい分、迫力がありますね。

 彼は騎士の正装です。


 ていうか。

 お二人は、婚約されていたのですね。


 ヴィラさんにはメジオンが、「先輩、行きましょう」と声をかけてます。

 おや、ヴィラさん、頬が染まっているのは、メークのせいだけじゃないですね。


「フロー、その、なんだ。とても……綺麗だ」


 アルバスト先輩こそ、いつもの農作業の服装とは段違いのカッコよさです。

 比べるのも如何とは思いますが。

 銀色の髪を縛っている紐は、ベージュ色です。

 それは私の髪の色とよく似ていて、私の鼓動が早くなります。


 私は、背筋を伸ばし、唇に微笑みを浮かべて、パーティ会場に向かいました。

今回は、プチプチざまあでしたね。

次回、パーティ会場で何が起こるのでしょうか。


誤字報告、助かっています。

お読みくださいまして、感謝です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 父上も叔母様もリアルでいそうな悪質さ全開ですが、その一方で「幼少期の過保護というのも、それはそれで一種の虐待の形と言えるんだろうな~……」などと感じさせられました。 そんな理不尽な大人達の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ