その前夜・親父の戯言
パーティ前夜の話になりました。
本日、二話目のお話です。
やや、下品な表現があります。
学園のパーティでは、成績優秀者が表彰されたりするので、表彰される生徒の保護者や、学園への貢献度が高い保護者も参加できるそうです。
貢献度って、やっぱり、寄付かしら。
母から学園パーティの招待状が届いたと手紙が届きました。
父は王都の叔母の家に前の日から滞在するそうです。
父は来るのでしょうか。
無理に来なくても良いのですが……。
女子会トークが盛り上がった日に、男子役員たちは学園を囲む林に入り、無事に蜘蛛を捕まえたそうです。
「見せようか?」
アルバスト先輩が恐ろしいことを言いましたが、私はニッコリとお断りしました。
「ところで、フロー」
「はい」
「パーティなんだけど」
胸がトクンと鳴ります。
「俺、フローと一緒に会場に入りたい」
私は心の中で「うぎゃあああ」と叫びました。
「だめかな」
「い、いえ」
私は頭をブルンブルン横に振ります。竜巻が起きそうです。
「ああ、良かった」
アルバスト先輩の破顔一笑につられて、私も少し笑顔になりました。
この学園に、入って良かったです。
パーティの当日は、在校生の軽く二倍の来場者が見込まれるので、生徒会役員は数日前から会場設営に駆り出されました。
当日の流れを確認すると、学園の指定服を着て表彰式に参列し、終わったら急いで着替えて、パーティ本番に備えるとのこと。
「当日の忙しさは戦争並み。あ、戦争体験ないけどね」
パリトワ様の言葉は嘘ではなかったと、後に実感しました。
会場の準備もなんとか終わった放課後、帰りがけにメジオンから声をかけられました。
「ねえ、フローのお父上って、金髪碧眼、結構イケオジ?」
「えっ? まあイケオジはともかく、金髪碧眼はその通り」
メジオンは一人頷いています。
なんでしょう?
「あ、そうだ! コレ」
おもむろに、メジオンはカバンから小さな箱を取り出します。
「正式なデビューじゃなくても、一応パーティでしょ? 宝飾ないと、寂しいかと思って」
開けてみると、細い銀色のチェーンに、ペイルイエローの真珠が何粒かついたネックレスでした。
「いやいや、こんな高価なもの、悪いわ」
返そうとすると、メジオンはそれを押しとどめます。
「これね、ウチの商会で売り出す予定の試作品なんだ。だから高価でもないし、成績優秀者につけてもらったら、良い宣伝になるから」
悩む私に、メジオンは言います。
「もっと豪華なエメラルドとかサファイアとかは、アル先輩から貰ってね」
一気に顔が熱くなりました。
メジオンは「じゃっ!」と去っていきます。
でも、なんで彼は、父の外見なんかを聞いてきたのでしょう。
◇◇side ドロート子爵
王都に来るのも一ヶ月ぶりだ。
明日は学園の表彰式とパーティがあるというので、今夜は妹の家に泊まらせてもらう。
だが、王都に来たら、まず行くところがある。
女人禁制のバーだ。
爵位持ちしか入れないこのバーは、もろ男だけの世界。
気楽な場所だ。
一杯やりながら、最近の貴族の動向やら国の政策やらを論議する。
なんてことは全くない。
ひたすら女の話。シモネタだけを互いに言い合う場所である。
平素、貴族という仮面をつけて、お上品に生きている我々には、娼館と並んで、いやそれ以上に重要な聖地なのだ。
給仕も全員男性だ。
日が暮れた時間に店に入ると、あちこちに見た顔が並んでいる。
「ご注文は」
「蒸留酒。ロックで」
注文を取りにきたボーイは、初めて見る顔だ。
若いな。腰が細い。
なかなか可愛いタイプである。
そっちの趣味がある奴に、すぐに口説かれそうな少年である。
一人カウンターで飲んでいると、店内に様々な声が流れている。
某伯爵は新しい女を囲っただとか、高級娼館に元貴族の良い女が入ったとか。
あとで冷やかしに覗いてみるか。
だが、 いくら良い女でも、妹には負けるだろう。
あいつが伯爵家に嫁ぐと聞いて、俺は自室で涙枯れるまで泣いたな。
それに比べると、妻は今も昔も可愛げがなくて困ったもんだ。
俺の祖母が気に入って、勝手に取り付けた結婚だったからな。
「お前はお前の母親に似て、頭が悪いから爵位を継いでも苦労する。学園きっての才女との婚姻を結んで、優秀な子どもを作れ」
祖母はそう言った。
祖母と俺の母は、仲が悪かった。
だから妻との結婚前に、俺の両親を別邸に出してやったのに、妻はそのことを感謝することもない。
ただ黙って、家の切り盛りと領地運営と、娘の教育をやっていた。
娘は妻に似て、賢しらな女だ。
せめて妹の娘のように、美しく生まれていたら、良い婿でもみつかるだろうに、そんな気配は一向にない。
明日、娘は成績優秀者として表彰されるのだという。
いくら成績が良くても、女は見た目が全てなんだが、分かってないよな。
娘が小さい頃、仲良くしていた隣のプラウディ子爵の倅も、結局ステアに取られた。
まあ、しょうがないだろう。俺でも同じ選択をする。
もっとも、プラウディのトコは、領地収益がガタ落ちして、隣国と何か取引をしているみたいだが、大丈夫なんだろうか。
嫁いでくるステアが心配だな。妹に言っておこう。
「お久しぶりですね、子爵」
いつの間にか俺の隣に、高そうな服を着た男がいた。
誰だっけ。
まあいい。ここでは顔見知りでも、互いの名前は言わないのがマナーだから。
「ああ、どうも」
「子爵のところは、奥様はいつもお綺麗で、お嬢様も優秀で表彰されるなんて、羨ましい限りですな」
アイツが綺麗?
誰かと間違ってないか?
ああ、でも娘の情報は合ってるか。
「愚妻ですよ。娘も学業以外に取柄がないので」
「何をおっしゃいます。子爵の奥様は、年齢を重ねてもスマートでいらっしゃるし、何より上品な美貌は有名ですから。ほら、たまにいるでしょう? 若い頃は柳腰で、妖精とか天使とか言われていたのに、加齢で劣化し、単なる肥大した金食いデブ虫になった女って」
妖精と聞いて、俺の眉はピクリと動く。
まさか。
妹のことを指しているのではないだろうな。
アイツは今も変わらず綺麗だし、腰も……。
腰は、少々年齢相応になったかもしれないが。
「劣化した女っていうのは私の家内のことですがね」
男は席を立って行った。
俺もそろそろ、店を出ようか。
次回こそ、パーティのお話に。
ざまあが出るか。
お読みくださいまして、ありがとうございました。




