白い花と真っ赤なベリーパイ
誤字報告助かっています。
久しぶりに会ったステアは、その美貌に一層磨きがかかっていました。
腰は細いですが、胸の辺りは豊かです。
プラチナブロンドの髪は長く艶やかで、肌は滑らかで真っ白です。
ですが。
顔が白すぎます。
白いというより、顔色が悪いんじゃないかな。
「試験お休みしたから、今日ね、これから追試なの」
「そ、そう。大変だね。頑張って」
追試だというステアに、私は何て言ったらいいか分かりません。
「ったく、誰のせいで、ステアは学校休んだんだか……」
ウルス様が呟きましたが、聞こえないふりをしました。
「ウルス、まさかとは思うけど、殿下率いる生徒会に、文句あったりしないよな。あ、勿論フローも、正式な生徒会執行部員だから」
ウルス様は、俯きます。
立ち上がったアルバスト先輩に、私はステアを紹介しました。
「先輩、従姉のステアです」
「ああ、知ってる知ってる。お名前だけは。高等部のアルバストです」
先輩に対して、ステアは微笑み、簡易ではありますが、礼をします。
さすがに可愛いですね、ステアは。
儚げな雰囲気と相まって、男性ならば、思わず守ってあげたくなるのでしょうね。
ウルス様は、ステアと挨拶を交わすアルバスト先輩に、無遠慮な視線を投げます。
嗚呼、私の背中に汗がだらだら流れるのは、きっと暑いせい。夏のせい。
先輩はウルス様に構うことなく、テーブルを離れます。
私も先輩の後を追います。
ステアが私に向けて、独り言のように言いました。
「良いわよね、元々頭の出来がイイ人って。ずるいわ」
はい?
ステア、今なんて言ったの?
ずるい?
ずるいって言ったよね。
誰がずるいって?
私がずるいの?
あなたが。
ステア、あなたが言うの? 私に。
それは私が言いたかったことよ。
生まれつき、造形の整った外見を持つ女性って、ずるいわって!
勉強なら努力でなんとかなるのよ。
でも、見た目は生まれつきで決まってしまうじゃない!
白い花が想い出になったのは、誰のせいかしら。
手を繋いでくれた人がその日だけ、優しかったからよ!
ミミズを見たショックだったのか、先ほど私は思い出しました。
『今日はステアが来られないから、まあ、お前でもいいか』
そう言った父が、私と手を繋いでくれたことを。
思わず食器を落としそうになった私は、慌てて食堂から飛び出ました。
出た処で、アルバスト先輩は待っていました。
「ご馳走様でした」
頭を下げると、なぜか足元に、ぽたぽたと水滴が落ちてます。
あ。
やばい。
なんで、また。
頭を下げたままの私を問いつめることもなく、アルバスト先輩は言いました。
「授業まで、まだ時間あるでしょ。だから……」
私は顔全体をハンカチでごそごそ擦ります。
「もう一回、見に行こうよ。
ミミズと白い花、どっちが良い?」
「……お花で」
花壇の側のベンチで、私は白い花びらが風に揺れるのを見ています。
「ウルスなんだけど」
「はい」
「アイツの対応、俺がするから」
「……はい」
「君がこれ以上、アイツとアイツの婚約者なんかに振り回されるの、俺は見たくないんだ」
そう言った先輩は、いつになく真剣な眼差しです。
光線がアルバスト先輩に当たると、銀色の髪が波のように見えます。
こうして近くで見ると、先輩は本当に綺麗な顔をしているのですね。
「あっそうだ!」
先輩は作業服のポケットから何かを取り出します。
「ベリーパイ食べる? さっき、食べ損ねたから」
「いただき、ます」
先輩がくれたパイは、赤いベリーのジャムが詰まっていました。
「美味しい!」
「でしょ? この時期限定のパイなんだ」
それは朧げな白い花の記憶を上書きするような、鮮やかな赤色と甘い味だったのです。
後日、追試合格者一覧が、廊下に貼り出されていました。
ギリギリでしたが、ステアはなんとか、合格したようです。
夏季休業前に、学園ではパーティが開催されます。
生徒会役員、執行部員は、そのお手伝いに駆り出されます。
でも、ドレスを借りることが出来るのです。
初めてのパーティです。
私は楽しみにしていました。
いよいよパーティ開催です。
何が起こるのでしょうか。
フローは、誰にエスコートお願いするのかな。




