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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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こどもドラゴン6

ニートはこれでも後のウルフパックである。

クソババアが死んだ。


オレは『四人』で入ったカラオケボックスのシステムにアクセスして監視カメラを淡々と無効化しながら、あのババアの声が聞こえてこないことで、今更ながら実感していた。


思えば戦闘用として登録されてからこっち、ずっとあのババアの下で働いてきた。

アイツは、結社が機械的に決めた『最初の上司』だったってだけで人のコードネームを『ニート』なんてふざけた名前をつけやがった上に、人使いも荒い。

今どきパソコンもろくに使えねえから、オレの真価についても理解してなかった。

人様を便利な道具かなんかと勘違いしてる奴だった。なので、死んで清々している。

目の前で首が蹴り一発で千切れ飛んだのは下手なホラーよりビビったが。

二人目からの上司は、多少は選択の余地がある。少なくともあのクソババアよりはオレの才能が生かせる怪人の下につけるはずだ。


オレには、天才的と言っても良いハッカーとしての才能があった。恐らく前世の頃から。

脳改造を受けたオレの頭の中には、無数のアイディアと知識、そして一般人が知ってちゃいけないような機密情報がつまっていた。

そんなオレがなんで結社に入ることになったのかというのは覚えちゃいないが、推定は出来る。


前世のオレは多分、天狗になっていたんだろう。世界中の政府や組織が血眼になって秘密を暴こうとしている結社ですら手玉に取れると信じていた。

人類を遥かに超越した技術を持つ結社についても色々嗅ぎまわろうとした。オレならば出し抜けると信じて。


……そして、結社に存在を気づかれ、居場所を特定され、拉致られて怪人に改造されたんだろう。ハッカーとしては完全敗北だ。


人類の理解が及ばないような技術を持っている組織に、オレより高い知能と技術を持つ『本物の天才』がいないはずが無いのを見抜けなかったのが敗因だろう。

そうして結社に連れてこられ、怪人に改造されたオレは人間を辞め、一介のサージェントウルフとして生きていくことになった。

残念ながら、オレのハッカーとしての才能は、訓練用の服や装備の他は、生き残るのにギリギリの食料、あとは獣臭い毛布くらいしか与えられないシベリアの奥地の訓練施設では、クソの役にも立たない技術だった。

おまけに運動方面に関してはお世辞にも才能がなかったので、訓練では本当に地獄を見た。

断片的に得られた情報から、多少は優遇される『戦闘用』にならないとゴミみたいに死ぬのは分かったから、必死に食らいついたものだ。

……そうしてギリギリの成績で戦闘用訓練に合格したと思えば、最初の上司があのクソババアだったわけで、人生ってのはままならない。

そう考えると、今の状況は、悪くない。アレに狙われてる危険な状態ではあるが、同時に良い上司にありつくためのチャンスでもある。


生き残れたら、というとても重要な大前提があるが。


オレは、この今のチームのリーダーと言っても良い男である光一郎を見る。

この四人の中で一番強いのは乙姫で間違いないだろうが、頼れる統率者という意味ではコイツだろう。

何しろ『黒いサージェントウルフ』だ。


「よし、システム掌握したぞ。これでここで何話しても証拠は残らないし、店員も2時間は来ない」


オレが一仕事終えると同時に、空気が緩む。ようやく一息付けた。そんな感じだ。

「……そちらも、怪人に襲われたそうですね。マダム・カーミラはそれに殺されたとも」

口火を切ったのはすらっとした黒髪の美少女、乙姫だった。怪我らしい怪我も無く、澄ました顔だ。

潜入のために用意したあのお嬢様学校の制服を着ているため、中身が化け物じみた強さを誇るA級怪人だと知らなければ、本当に良いところのお嬢様っぽい。

道すがらにカオナシに聞いたところによると、あの怪物相手に真正面から戦って圧倒したという。早々に戦線離脱したので遠目に見ただけらしいけど。

「ああ。こっちが襲われたのは『2号』を名乗るアサルトローカスだ。マダムを殺られた。擬態状態の姿からして、失敗作と組んでた刑事だろう。

 アイツが致命傷を負ったって噂は知ってたが、怪人になってるとは思わなかった……つくづく最悪の失敗作が絡むとロクなことが無い」

乙姫の言葉に、光一郎は肩を竦め、吐き出す。その言葉には、悔しさと怒りが滲んでいる。

やはり気にしているのだろう。何しろ強い奴が偉くて、嫌いな奴はぶち殺して良い結社だ。

『怪人』同士の潰しあいはそう珍しくはないが、2号は明らかに結社についてほとんど知らない『人間』だった。

「……さっき調べてみたんだが、アレ以降に結社の研究施設や訓練施設から逃げ出した怪人は居ないみたいだな。

 作戦やら実験で死亡した怪人も全部、自爆処理で消えてる。マダムも爆発四散した」

オレはここに来る道すがら、ざっと調べた結果をみんなに言う。

完全に生命活動が止まって蘇生不可能になった怪人は、全身のナノマシンが暴走して自爆する。

その最後の自爆は至近距離に居れば怪人だって大怪我したり死ぬくらいの威力が出る。人間にナノマシンを悪用されないための処理兼、最後の嫌がらせと言ったところだ。

「つまり、結社の手で作られていない怪人ってことですか?」

「そういうことになるな」

まだ失敗作と戦って負った怪我が癒えてないのか、ストレスで胃でも痛むのか脇腹を抑えながら確認してくるカオナシに頷く。

結社が把握していない怪人。ある意味では失敗作よりもヤバい相手だった。

「……一体どこから、ナノマシンを手に入れたのでしょう?」

乙姫が当然と言えば当然の疑問を尋ねてくる。

「まさか、結社に裏切り者が……?」

「それは無いだろう。怪人は、大首領様は裏切れない。ナノマシンの持ち出しや無許可での怪人への改造は明らかな反逆だ。

 『結社のために無能を排除する』とか言って気に入らん相手を抹殺するのとはわけが違う」

少し不安そうに言うカオナシに反論したのは、光一郎だった。

そうだ。ナノマシンの持ち出しに、無許可での、つまりは脳改造されていない怪人の製造。

あからさまにアウトな行為だ。それが許されるほど、結社は甘くない。

「……あの刑事が最悪の失敗作の関係者なのを考えれば、誰が作ったのかは、考えるまでもないかもしれない。

 最悪の失敗作の体内にはアサルトローカスのナノマシンが流れている」

光一郎は少し考えたあと、自分なりの、トンデモな仮説をひねり出してきた。

「……まさか、直接血液中のナノマシンを移植したと? そんなの、適合しなかったら死ぬかモンスター化しますよ?

 アサルトローカスってそんなに適合者多いわけでも無い怪人ですよね?」

光一郎の仮説に、カオナシが目を見開いて聞き返してきた。まあ、無理もない。

人間を怪人に改造するのは、絶対に成功するわけではない。むしろサージェントウルフ以外の怪人は普通にやったら失敗する可能性の方が高い。

検査をして、適性を見て、その検査結果をもとに個人に合わせた調整をして投入してようやく怪人が出来るわけだが、それですら失敗することもある。

そうなった元人間の末路は悲惨の一言につきる。


改造に失敗した元人間は拒絶反応でショック死するか、耐え抜いてしまった結果、全身ががん細胞化して腐りながら再生する人型の化け物になる。

大抵はそのときに精神をやられてしまい、見るものを見境なく全部襲うようになるらしい。力の加減とかそういうのも無いから、再生できなくなるまで暴れ続けて死ぬ。まあ感染しないゾンビみたいなもんだ。

そうなった元人間は結社にとっては使い物にならないので、自爆処理されることになる。

それが、人間ならほぼ誰にでも適合する適合率の高さが売りのサージェントウルフ以外の怪人があまり作られない理由。

結社の整った設備で、自分の血液流し込んで無理やり同種にするなんて、成功したら奇跡と言っても良い。

「だが、脳改造を受けた怪人が大首領様を直接裏切ったと考えるよりは、説明がつく。

 それと最悪の失敗作が絡んだ時は、常識が通用しないからな……多分、オレの答えであってると思う。」

光一郎の確信に満ちた答えに、場に沈黙が降りる。

コイツにとっては、アレはホッケーマスクつけた殺人鬼や空飛ぶ人食いザメと同じカテゴリらしい。

「ならば、簡単な話です。失敗作と2号とやらを両方抹殺すればいい。それだけですね。その後に竜造寺巴を拉致すれば、任務は成功します」

そんな光一郎に、乙姫がきっぱりと言い切る。

それが出来たら苦労はしない……んだが、目の前のお嬢様の皮被った怪物はアレと互角以上に渡り合ったらしいから、勝とうと思えば勝てるんだろう。多分。

「そうだな……次はオレがサポートをする。今度こそ、最悪の失敗作を仕留めるぞ」

「ええ勿論です。わたくしに任せておきなさい」

自信満々の乙姫にオレは不安を覚える。

なんていうか、フラグって奴だ。映画でもアニメでも、こういう時は失敗するか、味方が死ぬか、その両方だ。予定通り上手く行くなんてそうそうない。


―――二人に、頼みたいことがある。


そんなことを考えて、嫌な予感に顔を曇らせていた時だった。唐突に光一郎にそう話しかけられた。

このカラオケボックスでは話が漏れる心配はないというのに《沈黙の命令》で、だ。

「とりあえず、カオナシとニートは待機していてくれ。下手に動くと危険だ。

 最悪の失敗作なら、竜造寺巴が死ぬかもしれない戦闘に巻き込むのは避ける。代わりに2号が護衛に着くと見た。

 2号ならば、人間との連携も容易だからな。流石に、オレたちの狙いを知ってて、フリーにはしないはずだ」

「そうですね。光一郎ならともかく、カオナシとニートではうかつに失敗作に近づけば、死ぬかもしれません。

 失敗作さえこの世から抹殺してしまえば、2号はわたくしがどうとでもできますもの」

思わず顔を上げると、光一郎は乙姫と今後のプランを話している。

その様子に確信する。乙姫には光一郎の『声』が届いていない。

……その意味を正確に理解したオレと黙って二人の話を聞くふりをして光一郎に問いかける。


―――見返りは? 事前に聞いてた報酬じゃあ、アレに喧嘩を売るには割に合わない。


その言葉に、カオナシも目線だけで同意する。

自分の強さは把握している。非戦闘用のB級に、消耗品のC級。どっちもアレと戦うことになったら5秒で爆発四散する。

なんなら2号だってオレたちには荷が重い……普通に戦う気満々の光一郎は、まあ例外にしても。


―――砂漠の海月に紹介してやる。それで、どうだ?

―――話だけは聞いてやる

光一郎の提案に、オレは一も二もなく飛びついた。

砂漠の海月と言えば、結社でも屈指の実力者だ。

前面に出てくることはほとんどないが、依頼でいくつもの怪人を手駒に使い、数々の作戦を成功させてきた。

戦闘能力に乏しいオレとしては、是非とも欲しいコネだった。


―――オレも全力を尽くすが……乙姫がアレに勝てる可能性は、そんなに高くない。だから、負けた時のためのプランがいる。

―――良いのかよ。そんなこと言い切って。

光一郎の、いっそ清々しいほどに乙姫を信用してない言葉に、オレは驚いた。

口先では乙姫とどうやって勝つかを話ながら、頭の中では負ける可能性を考える。

それ自体はいい。出来る怪人ならだれでもやることだ。だが……オレにそのことを漏らすのは、危険だとは思わないんだろうか?

今、目の前の乙姫にそのことを言ったら大惨事になるだろうに。


―――そのまま首尾よく抹殺出来れば最高なんだがな。少なくとも保険の一つもかけずに挑めるほど、最悪の失敗作は甘い相手じゃない。

―――だが、乙姫はもう少しで勝てたんだろう? なのにどうして、再戦したら乙姫が負けると思うんだ?

オレは探るような視線を向けながら、光一郎の言葉を待つ。

納得しない限り、絶対協力しないぞという意思を込めて。


―――簡単な話だ。

少しの、頭の中での沈黙の後、光一郎が声を送ってきた。


―――今の乙姫に簡単に勝てる程度の相手なら、アレは最悪の失敗作なんて呼ばれる前に、ジャック・ローズに仕留められてたはずだ。


少しだけ、悲しそうに。

結社が何回絶対勝てると判断した抹殺作戦で失敗してると思ってるんだ

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最悪の失敗作さん達、絶対現代編に至るまでの間に協力者作成に何回か失敗してますよね・・・ [一言] >何しろ『黒いサージェントウルフ』だ。 もうこのころからサジェウル界では光一郎個人が…
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