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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
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Season2 Double Justice 20

ベリル一人で血まみれだったの洗うの、意外と大変だったらしい。

目を覚ますと、わたしは寝間着姿でベッドの上で横になっていました。

(……あれ?)

ぼんやりと天井を見ながら、何が起きたのかを考えます。

確か昨日は、早く床につきました。明け方の『作戦』に備えて。

そして夜明け前に起きて、ベリルさんとコーイチローさんと共に死の教団の本拠地に乗り込み……

それから、魔法で胸が苦しくなった後、目の前が真っ赤になって倒れるまでのことはしっかりと覚えています。

(まさか、ここまで全部夢だった……?)

ですが、今現在、寝間着姿でベッドで目を覚ましてしまうと、それが嘘だったのではないかと思います。

一度胸が苦しくなった後の記憶の方は、余りにも荒唐無稽で、自分がやったことだとはともても思えません。

外はもうすっかり日が昇った明るい時間。寝過ごしたと言われれば、夢だったのかと納得しそうになります。

「おはよう。よく眠れた?」

わたしが目を覚ましたのに気づいて、話しかけてきたのは、女中服に着替えた、ベリルさんでした。

「お、おはようございます……あの、わたしは?」

「覚えてない?死の教団と戦って、その、最後はアンタが壊滅させたこと」

……ベリルさんの言葉からすると、わたしの頭の中にある記憶は本当だったようです。

「……夢じゃ、なかったんですね、今日のこと」

「そうよ。アタシが生きて帰れたのも、死の教団を倒せたのも、コウイチローとアンタのお陰だと思う……ありがとうね」

正直荒唐無稽すぎて夢にしか思えない記憶に呆然と呟くと、ベリルさんがぽつり、と返しました。

……そんな冒険者さんみたいな感謝を受けたことは無かっただけに、少しだけ、照れ臭いです。

「あの、あの後、わたしが気絶した後はどうなったんですか?」

気を取り直してわたしは、あの後どうなったのかを確認します。

「……色々あったけど、全員無事よ。あ、身体洗ったのと寝間着に着替えさせたのはアタシよ?

 アリシアの身体のお世話とか、寝込みの看病なんて、コウイチローにやらせるわけには行かなかったしね」

対するベリルさんの回答は、ちょっと歯切れが悪いものでした。どうやらわたしが気絶している間に、何かあったみたいです。

「そうでしたか……ありがとうございました」

とは言え、コーイチローさんならば色々については後から説明があるはずですので、とりあえず後回しです。

確かに、わたしの記憶が確かなら、わたしは最後、全身返り血で染まっていたでしょう。

コウイチローさんにお世話されるのは、乙女的にとても嫌なので、素直に感謝します。

「いいのよ。気にしないで。アンタが倒れたのも半分はアタシのせいだし、そもそも一応これでも家事奴隷だしね」

「あ、そう言えばそうでしたね」

死の教団と戦うことになった辺りから、完全に『仲間の魔法使い』と言う認識だったので、家事奴隷だったのは殆ど意識していませんでした。

いえ、家事と言うかちょっとしたプロフェッサーさんのお世話やお洗濯はコーイチローさんと一緒にベリルさんがやってるのは知ってましたが。

「……コウイチローが、アリシアが起きたら応接間に来てくれって言ってたわ。大事な話があるって」

そうしてひとしきり笑いあった後、ベリルさんがスッと真面目な顔をして言いました。

「……あの力のこと、ですよね?」

「ええ。そう言ってたわ」

わたしには、その心当たりは一つしかありません。


ベリルさんが部屋を出てすぐ、わたしもまた寝間着から普段着に着替えて、髪を整えました。

寝間着姿で男の人の前に出るなど、乙女としてはご法度です。最悪死を覚悟せねばなりません。

「……よし」

着替えを終え、高級宿なだけに部屋に一つずつ備え付けられた鏡で、自分の姿を確認し、わたしはドアを開けました。

応接間には何やら良く分からない作業をしているプロフェッサーさん、この前買ってきた魔術書を読むベリルさん。

そして、部屋の真ん中でじっと椅子に座って黙り込んでいたコーイチローさんがいます。

「アリシア。もう、大丈夫なのか?」

「はい。もう、すっかり元気です……聞かせてもらえますか、わたしのあの力のこと」

コーイチローさんの確認に頷きを返し、わたしはコーイチローさんの前の椅子に座ります。

ベリルさんとプロフェッサーさんも手を止めて、じっとコーイチローさんの言葉を聞いています。


お昼の、明るい太陽の光に満ちた部屋でちょっとの間沈黙があったあと、おもむろにコーイチローさんが語りだしました。

「アリシアの……バーサークタウロスのパワーは、非常に強い。それは、分かるな?」

「はい。確か、怪人の中でもトップクラスだって」

「そうだ。擬態した状態で、全力のオレよりちょっと上くらい。擬態解除すれば、ざっとその三倍……」

「そうですね。それくらい」

そこまでは、以前聞いた通り、普段出せる力です。

正直、怪人の姿になったわたしの力は、それだけでとてつもないことなのは理解できています。

「……そして『本当の意味で全力』を出したとき、更にその倍は出る」

「……はい?」

なので、続いて言われたコーイチローさんの言葉をうまく理解できず、首を傾げてしまいました。

怪人の姿の普段ですらとてつもない怪力なのに、更に倍と言われても、想像がつきません。

「オレにも詳しい原理は説明できないんだがこう、脳みそには筋力の上限を制限するリミッターって奴があるらしい。

 それを解除したとき、バーサークタウロスは普段の倍のパワーを出せる」

ですが、コーイチローさんにとって、それは当然の常識のようです。

……そこまで考えて、コーイチローさんが『地球』なる異世界の出身で、怪人を大量に抱えた結社と言う組織に居たことを思い出しました。

怪人が沢山いたならば当然、わたし以外の『バーサークタウロス』が何人も居て、彼らを見てきたからこそ知っていることなのでしょう。

「それだけじゃあない。普段『パワーを制限』するために使ってるナノマシンが必要なくなる分、スピードも器用さも跳ね上がる。

 接近しての殴り合いにさえ持ち込めれば、B級どころかA級怪人すら圧倒することが出来る。それがB級怪人バーサークタウロスだ」

(なるほど、だからあの時、普段より素早く、正確に動けたんですね……あれ?)

よくよく思い出してみれば、あの時はコーイチローさんの怪人の時の動きに匹敵するほどに素早く動けました気がします。

更にあらゆる動きが、自分が思い描いたとおりに出来たことから、正確さも備わっていたと思います。

でなければ、ほぼわたし一人で死の教団と戦うことは出来なかったでしょう。強力な怪物もいくつか叩き潰したはずですし。

「……おかしい気がします」

そうして考えて、わたしはすぐに疑問を覚えました。

聞けば聞くほど、反則としか思えない力です。

「どこが?」

「だって、それなら、普段からその力を出した方が、強いじゃないですか。半分の力しか出せないし、不器用である必要もないはずです……」

そして、そんな強力な力なら、代償なり弱点があるのではないでしょうか?

……それが無かったなら、コーイチローさんはわたしにその存在すら教えないということは無かったはずです。

「……正解だ。なんでバーサークタウロスが普段から全力を出さないか。それだってちゃんと理由がある」

果たしてその予想は正しく、コーイチローさんはわたしの『弱点』について語りだします。

「一つは、上限を越えることには時間制限がある。全力のパワーの反動が、バーサークタウロスの再生能力すら越えちまう。

 個体差はあるけど大体300秒。それ以上は身体が持たないんで、身体が強制的にストップをかける。

 ナノマシンの暴走に身体が耐えられなくなるから、強制的に気絶して動けなくなるんだ」

なるほど、わたしにあのとき起こった現象そのものがあの力の弱点の一つなのは、理解できます。

戦闘中、唐突に気絶するなんて、明らかに死ぬ以外の未来がない弱点ですから。

「……他には?」

そして、コーイチローさんは弱点が一つしかないとは一言も言っていません。

……恐らくは、あの真っ赤に染まった世界が何か弱点に繋がってるのだと思います。

「……限界を超えたパワーを出す。その反動による痛みを抑えるためにアドレナリン……痛みを消す薬みたいなもんが大量に生成される。

 そいつはな……痛みと一緒に人間としての思考能力とか理性まで吹っ飛ばしちまう」

……改めて、言われてみると、納得できます。あの時は、とてつもない高揚感と激情に駆られ、何も考えず動いていました。

敵と認識した者は、殺し、壊さずにいられないという感覚。あのときのわたしは間違いなく『それ』に支配されていました。

「全力を出してる間、極度の興奮状態になって目に映る者を『敵だろうと味方だろうと』全部ぶっ壊す、狂戦士になる。

 それがバーサークタウロスの特殊能力(アビリティ)、《肉体狂化(バーサーク)》」

……もし、あの場にコーイチローさんたちが居たらどうなっていたか。

その可能性を考えて、わたしはとてつもない恐怖に駆られました。

あのとき、ちょっとでも激情の矛先がお二人に向いていたら、間違いなく『潰して』いたと思います。

あの強烈な激情と衝動は、とてもじゃないけど、止められるようなものではありませんでした。

「……全部壊しちまう『味方殺し』の爆弾(バクダン)。バーサークタウロスにつけられた『仇名』だ」

そしてわたしは、ようやく自分が得てしまった力が、どれだけ危険なものなのかを理解したのです。


「……プロフェッサーは『アリシア・ドノヴァンが適合する中で、もっとも頑健な肉体を持つ怪人を選んだ』そう言っていた。

 『事前シミュレーションで最も相性が良く、一番成功率が高かった怪人』ともな」

「それって……」

その言葉に、プロフェッサーさんがピクリと震えたのに気づきました。

顔が真っ青です……既に何度か見た、失敗したと思ってる顔でした。

「そうさ。戦場での使い勝手なんて、欠片も考えてない。ただただ、アリシアが無事に怪人となれるように……

 アリシアの望み通り、健康な肉体を得られるように、そしてオレを助けに行けるようにだけ考えて選んだ」

項垂れるプロフェッサーさんから目をそらし、わたしはコーイチローさんをまっすぐに見ます。

……怒られるのに怯えるお子様そのものであるプロフェッサーさんを見ているのは、辛いと思います。

「それを責めないでやってくれ。プロフェッサーは、怪人同士の戦いのことなんて、データでしか知らない素人なんだ。

 悪意なんて欠片も無かった。それは信じてやって欲しい」

コーイチローさんも思いは同じなようです。ちらりと、プロフェッサーさんを見てから、言いました。

大丈夫。分かっています……これでもわたしは『大人』なんですよ?

「わたしは、多分、すごい怪力と頑健な肉体を持つ怪人バーサークタウロスAWでなければ、命を落としてたと思います。

 ……わたし、どこか油断してたんだと思うんです。どんな怪物にだって、常識外れの力を持つ怪人なら、負けるはずがない、なんて」

それに今回の件は、わたしにも大いに反省する余地があります。


冒険者ギルドの職員としては見慣れた光景でした。

農村や街から出て来て、何も知らない木の認識票をぶら下げた冒険者さんになって、ちょっと経験を積んだ頃。

大鼠(ジャイアントラット)だの小鬼(ゴブリン)だのと言った本当の駆け出し相手の怪物を簡単に倒せるようになり、

ちょっとした依頼で出てくるような怪物には負けないくらいに実力が付いたと思い、油断していつものように冒険に出て……ある日帰ってこない。


この世の中には強い怪物なんてごまんといて、冒険の最中のちょっとした油断や不注意で簡単に死ぬのになんでそんなに楽観的なんですか?

実力がついて、強くなったという自信は分かりますけど、だからって油断せず堅実に行かないと、死にますよ?

命は一つしか無いし、そう言う失敗で死んだ冒険者さんを、わたしは何度も見たんです。そんなことを考えていました。


……いざ自分がそうなってみれば人間だったら死んでいた覚えがある上に、今回怪人でも死ぬような失敗(ヘマ)したわけですから、笑い話にもなりません。

「……一つ約束してくれ」

「……はい。《肉体狂化(バーサーク)》は、絶対使わないようにします」

だから、コーイチローさんの言いたいことは分かります。

あんな味方を巻き込みかねない危険な特殊能力(アビリティ)なんて、封印するしかないって。

「違う」

「え?」

……ですが、そんな決意を秘めたわたしに、コーイチローさんは首を横に振りました。

え?そう言う流れだったんじゃ?

そんな顔をしていたのでしょう。コーイチローさんが、苦い笑みを浮かべて言いました。

「《肉体狂化》を使うのは最後の手段……必死になって、使わずに済むよう、自分が出来ることを考えるんだ。

 それで、どうしようもなく他の手が無くなったときは躊躇なく《肉体狂化》を使え……何もできず死ぬよりはずっとマシだからな」

……ああ、そう言えばコーイチローさんはそう言う人でした。

いつだって、必死に考えて、持ってる手札から打開策をひねり出す人なんです。

わたしの《肉体狂化》もまた、コーイチローさんにとっては、打開策を作り出すための手札の一つなんでしょう。

「それに、オレのことを心配してるならお門違いだ。俺は、怪人サージェントウルフ5126号、コードネーム、光一郎だ。

 爆発したバクダンの一つや二つ処理できなくちゃあ、ウルフパックは務まらない」

苦笑から、わたしを安心させるような、柔らかい笑みになり、わたしは胸が高鳴るのを感じました。

この人に、頼り切って、何も考えず、全部任せてしまいたい。そんな誘惑にかられます。

「暴走したとき、なにか大事なものまで一緒に壊しそうになったらオレが全力で止めてやる。

 本当に必要なら、使うのは躊躇しなくてもいい……だから、アリシアも努力するんだ。出来るだけ使わず済むように」

「はい……はい!」

だから、それを振り切るためにも、わたしは力いっぱい頷きました。

考えるのを全部コーイチローさんに任せきりにして、ただコーイチローさんに従ってしまうのはとても楽ですが、それは『手下』や『部下』であって『仲間』とは言えないと、わたしは思います。

……多分、そうなったら熟練の冒険者さんとしての視点からコーイチローさんと対等に話し合えるベリルさんに一生追い付けないと思いますし。

「よし、いい子だ」

そんなわたしの決意を感じ取ったのか、コーイチローさんはポンポンと手を置いてきます。

まるで、子供を褒める父親みたいです。

「も、もう。わたし、子供じゃないんですよ……」

そう言う関係は求めていないので、わたしはちょっとだけむくれて見せます。

そう言って褒められるのは悪い気がしないのも、事実ではありますが。


……ちなみにその後、コーイチローさんが教会最強の聖騎士と一騎打ちすることになったと聞いて、卒倒しかけました。

やっぱりこの人には、ちゃんと『わたしたち』がついてないとダメなんだなって、強く思いました。

ちなみに肉体狂化発動しているときのアリシアさんの筋力は400以上(人間の限界が18)ある。バグか。

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