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チート・クリミナルズ  作者: 犬塚 惇平
26/95

ジャック・ローズには早すぎる5

人間にとってのヒーローは、怪人にとってはただのホラー



「なんだ、こりゃあ……」

任務を受けて急いで駆け付けたそこは、地獄絵図と言っても良かった。

あちこちに転がっている、戦闘員の残骸。

一体何匹投入されたんだってくらいの数の肉の塊が何個も雑に転がっている。

……そして、その残骸の中には明らかに『戦闘員以外』が混じっている。

まるで出来の悪いホラー映画みたいな惨状に震えていた僕が、突然茂みががさりと言う音を立てたことに驚いて振り向いたのは、仕方がないことだろう。

「……よう。光一郎、じゃん。どうしたんだ、こんな、ところで」

「5125……健太郎!?」

そこに現れたのは何人ものB級怪人を背負った、灰色の毛皮を持つサージェントウルフ。

サージェントウルフ5125号、コードネーム、健太郎。

『テツジンのおっさん』の下で働いてるはずの、僕の友人だ。

「おう」

「すんません。この人ら、運ぶの手伝ってもらって、いいすか? ちょっと、手とか脚とか、なくて、動けなくて」

いつものように、言う健太郎……その左腕は完全に失われていた。

よくよく見れば、他の怪人たちも腕や脚が無くなっていたり、腹の一部が物理的に消えていたりした。

「……この傷、切断じゃないわね。鈍すぎる。

 千切られた、にしては焦げ跡があるのはおかしい。

 燃やされた? いえ、だったら腕や脚だけ無くなるのはおかしい」

「……爆発、しました」

その傷を見て、一体何が起きたのかを冷静に見極めようとするジャック・ローズに健太郎が震えながら答えた。

「ば、爆発?」

「なんなんすか、あれ。訳が分かんねえっすよ……あいつに蹴られたところ、吹っ飛ぶんすよ。

 腕とか、脚とか。胸蹴られた奴なんて上半身吹っ飛んで即死でしたよ。なんなんすか、あれ」

意味が分からなくて思わず聞き返した僕に、健太郎は震えながら何が起きたのかを説明した後……突然泣き出した。

「テツジンのおっさんが


 『お前らじゃ話にならんから、どけ! お前らがいたら俺が全力を出せねえ! ……こういうのを待ってたんだ!』


 つって……あの人、嘘下手なんすよ。

 他の怪人の顔色伺うのが仕事のサージェントウルフが、怖いと思ってるの分からねえとでも思ってたんですかね?」

「……なんだ、それ……」

健太郎のその涙には、悲しさと悔しさと……とてつもない恐怖が含まれていた。

……まるで、化け物でも見たかのように。

「……そう、そう言うことね」

「……ジャック・ローズ?」

そして、そんなときでもA級怪人ジャック・ローズは冷静だった。

「……パピーちゃん、アサルトローカスの特殊能力(アビリティ)、知ってるわね?」

「……《身体暴走(オーバーロード)》。体内のナノマシンを暴走させて、能力を増強する。

 ただ、3秒しか持たないし、連続して使うと体が壊れる」

いつか5127号の敵討ちをすることになるかもしれないからって調べた、アサルトローカスの知識を漁り、すぐに答える。

バクダンほどのデメリットが無い代わりに、3秒しか持たない。周囲では微妙な能力扱いだった特殊能力……

もし完璧に使いこなせるなら、かなり脅威になるだろうと、ジャック・ローズの部下として戦ってきた今の僕は思った。

「……あいつは連続使用の制限が、無い……?」

そして、実際に戦った健太郎は、あれがそれよりタチが悪い可能性を指摘する。

だが、ジャック・ローズは首を振り、言う。

「いえ、それもあるかも知れないけれど、多分それ以上に危ない力を持ってるわ」

「え!?」

それ以上って……そんなことを思う僕たちを諭すように、ジャック・ローズは結論を述べる。


「起きてる現象から考えてみて、これが一番しっくりきたの。

 あの子……多分だけど他の怪人のナノマシンを暴走させられるわ。蹴られた子の身体が自爆するまでね」

アレは『怪人を殺すことに特化した化け物』であると。


「は? そんなの、ありえるんですか?」

わけが分からない。使いこなせるだけでも脅威なのに、そこから更に強くなるとか、自爆を強制できるとか。

そんなの、ただのズルじゃないか。

「理論上、だけどね。結社の怪人は、人間にナノマシンを入れて進化させた存在。

 だからいつか『次の段階まで進化する子が出てくる可能性はある』とは大首領様から聞いていたわ。

 それがよりにもよって脳改造を受けてない上に、その状態で怪人を殺せる精神を持つなんて、どんな奇跡なのかしら。

 ……それとも、そう言う子だからこそ、次の段階に至ったのかもね。

 蹴られたところ、なら今はまだアサルトローカスとして進化が最も進んだ部位である『脚』で触れないと自爆まではさせられないのかしら。

 でも、放っておいたら……きっと更に進化するわ」


ジャック・ローズが僕らに伝えるように、自分の考えを述べていたところで……辺りに爆音が響いた。

そう、これは……もう、命が助からないことを覚悟した怪人が、最後にここに怪人がいたという証拠隠滅と、敵を道連れにするためにやる『自爆』の音だ……自分でやったのか強制されたのかは、分からない。


「マジかよ……テツジンのおっさんが死ぬなんて……無敵のテツジン、28号じゃなかったのかよ」

その音の意味を理解した健太郎が呆然と呟き、その場に崩れ落ちる。

健太郎が背負っていた何人もの怪人が、地面に落ちてうめき声を上げる。

……ああ、分かった。健太郎は『諦めて』しまったんだ。他のうめき声を上げる怪人と同じく、あまりに反則な存在を見て。

僕だって崩れ落ちたい……カッコ悪いから出来ないけど。


世界は、不公平だ。泣きたいくらい。


なんで僕はサージェントウルフ5126号なんて消耗品で、なんであいつは無敵で最強の反則(チート)野郎なんだ、と。


「……いいわ。バーサークしたテツジンすら殺せるなんて、多分アタシじゃなきゃ手も足も出ない」

ジャック・ローズは何かを決意したように、体内からバラのツタを生み出して……僕に放った。

「ちょ、ちょっと!?」

僕は幾重にもバラのツタでまかれる……辺りに転がってた怪我人もろとも。

バラのとげが身体に食い込んで、少し痛い。

僕の背中には、倒れた何人もの怪人が括り付けられていた。

……腕や足を吹っ飛ばされて、生きるのを諦めて、この場から逃げることすらできなくなった人たちが。

「……命令よ。背中に背負った彼らと一緒に、この場を離脱。

 結社に情報を持ち帰りなさい……それが、結社の命令だったわ。

 その人たちは、治療を受けて、時間がたてばきっとまた立てるわ。今はちょっと役に立たないけど」

「……ジャック・ローズ、死ぬ気なのか?」

「……アタシはね。バラでありたいの」

僕の問いかけに対して、ジャック・ローズはいつもみたいにカッコつけて言った。

「面白半分でいたずらばかり。ランタン持って死ぬことも出来ずにさ迷い歩くジャックなんて、ダサいカボチャは嫌い。

 それなら美しく咲いて、美しく散って最後は何の意味も無いジョン・ドゥになるバラでありたい。

 ……今が、その時なの。アレは早く殺さないとダメ。きっと不幸になるわ。結社も……あの子自身も」

それは、悪の秘密結社の怪人であり……誰よりも気高い、この世で1人しかいない男で、バラの英雄(ヒーロー)

「でも、だったら追加の増援を待って」

「そんな暇がない。テツジンが死ぬ気で戦って疲労している今が最大のチャンスなの。逃がしたら、次があるか分からない。

 それにね、別にわざと死ぬ気は無いわ。でもね、余計なもの全部捨てて死ぬ気で挑まなきゃ、あの子には勝てない」

それほどの人が、真面目な顔をして、言うのだ。訓練もロクに受けてない怪人……化け物に対して、全力で挑むと。

「なんで、そんなに……A級怪人ジャック・ローズが、B級のアサルトローカスごときに負けるわけないじゃないか……そうでしょう!?」

僕はそんなことを言ってみた……分かってる。もうアレはB級かどうかなんて、とうに突き抜けてる。

「狂ったこの世界で何とか狂わずにいられるように施された脳改造を受けずに怪人すら越えた力だけ得たあの子は歪で狂ったものよ。

 おまけに本物の天才で、次の段階に至った。まるで勇者ね。それとも魔王かしら……」

相変わらず芝居がかった口調で、ジャック・ローズは答え、最後に一息ついて、宣言する。


「だからきっと死ぬか怪人をすべて殺すまで、復讐するまで止まらない。

 無限に進化する凄い力と、復讐って書かれた免罪符もどきしか持ってない『最悪の失敗作』よ」

あれが、結社の……怪人の天敵となりうる存在であることを。


「……パピーちゃん。あんなのと戦うならアンタは邪魔よ。アンタなんか、尻尾まいて逃げ出すのがお似合いなの」

そんなことない。僕にだって出来ることはある。アレの、最悪の失敗作の動きを観察して《沈黙の命令》でジャック・ローズに伝える。

それだけだって、だいぶ違うはずだ。目が4つになるんだから。

死ぬのが怖くないって言ったら、嘘だ。でも、ジャック・ローズを失うのはもっと怖い。

「行きなさいな。どうせそんな荷物しょってたら何も出来ないでしょ」

だが、ジャック・ローズはそれを認めようとしない。

僕は、引くわけには行かない。大事な人を置いて尻尾まいて逃げるなんて、カッコわるい。

「……でも、僕は、アンタの部下だよ。ジャック・ローズ」

カッコよくしとけって言ったのは、ジャック・ローズ、アンタだ。だから、一緒に戦おう、そう言おうとした。だが。


「だったら! 上司の命令くらい聞き分けなさい! だからアンタはパピーちゃんなの!」


僕は、ジャック・ローズが声を荒げるのを始めて聞いた。

「……畜生。分かったよ! 逃げるよ! 逃げればいいんだろ!?」

その声で、僕は、折れた。分かってしまった。

自分が勝つことより、最悪の失敗作をこの世から抹殺するより、結社の命令は優先する。

それがこの人の『譲れない一線』であり、出来立ての消耗品の僕に死んでほしくないらしいがための『言い訳』だった。

「それで良いわ。このA級怪人ジャック・ローズ1号。コードネーム、ジョン・ドゥの散り際、アンタなんかに見せるの勿体ないわ!」

そんな悪態をつきながら、ジャック・ローズは僕に背を向けた。お別れの時間が、迫っている。

「……生きて帰ってきてよ。いまさら他の上司に着くの、嫌だよ」

だからせめて、最後に僕は自分の願いを伝える。大切な人を失うのは、辛い。カッコ悪くてもなんでも、帰ってきて欲しい。

「……考えておくわ」

嘘だ。大人はいつだってそうやって嘘をつく。

でも仕方がないことなんだろう。A級怪人ジャック・ローズ。

僕の知る限り最強の怪人が死ぬ覚悟を決めてるんだから、今の、『男の子』の僕ごときじゃあ何も言えない。

僕は後ろを向き、医療施設まで走る準備をする。

「いつか、バラの上にそそぐ太陽の光のように、みんなを包めるようなカッコいい男の人になりなさい。じゃあね……光一郎」

その言葉を合図に、僕は駆け出した。必死に、逃げるために……やり遂げられなかったら、一生本物の男になれない気がして。

「くっそおおおおおおおおおおおおおおおお!」

痛みが酷いから、僕は叫んだ。思いっきり。身体に食い込んだバラのツタが痛すぎるせいだ。涙が、止まらない。

悲しくたって、悲しいと素直に言うのは、男としてカッコ悪いから。


こうして僕の、初めての上司ジャック・ローズとの付き合いは終わった。

僕は何人もの怪人を医療施設まで運び込み、持って帰った情報と助けた功績でちょっとした活動資金を貰い、助けた怪人たちに感謝された。

そして……何日待ってもジャック・ローズは帰ってこなかった。


それは半分はジャック・ローズの願った通りで、半分は違った。

ジャック・ローズはバーサークしたテツジンを何とか倒し疲労していたアレと壮絶な戦いを繰り広げ、

アレに重傷を負わせ、でもあと一歩で及ばず派手に散って死んだ。バラみたいに。

そして世間は『正義のヒーロー』と壮絶に戦い死んだ最初のA級怪人としてジャック・ローズの名前を覚えた。

多分、忘れられることは無いだろう。コードネーム通りの身元不明死体(ジョン・ドゥ)には永遠になれない。

僕だって散々僕をパピーちゃん呼ばわりしたジャック・ローズを絶対にジョン・ドゥなんて呼んでやらない。ざまあみろ。

1戦目:他の怪人が戦っている間に全力で逃亡し敗北

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