第84話 市長の行く末は
「それに市長……あなた知ってるの? この子たちって高橋さんのお知り合いよ?」
「その通りだ。探索者ギルドのギルドマスターをしているんだから知っているよな?」
「誰だって? た、高橋? 知らん、誰なんだソイツは」
「嘘だろ……なあ市長。市長がギルドマスターに就任した時にいたSランク探索者は覚えているか?」
「Sランク探索者? そんななものがいた記憶など無いぞ。探索者なんて最下級の仕事をしているもののことなど上級国民の私が知るわけ無いだろう」
「……ねえ市長。だったら御三家と呼ばれる山本、佐藤、成瀬家に並ぶ高橋家は知っているわよね?」
「高橋家? 御三家と並ぶ名家の? あ、ああ、何度か政界のパーティーでお会いしたことはあるから見知ってはいるが……高橋? まさか……」
あ、市長さんの顔色……青くなってきたぞ。
「次期高橋家の当主でSランク探索者の高橋さんのお知り合いよ、この子たちは」
「ああ、何度も一緒にここに来ているからな。そっちの栗饅頭を食べてる嬢ちゃんなんて、高橋さんのことを『たかぴー』と呼んでるほどの仲だ」
冷や汗をかき、カタカタ震え出してるし、血色も無くなってもう真っ青だ。
「ひっ! そ、そんな、嘘だろ? 冗談だよな? 上級国民の高橋家の嫡男様が探索者でコイツ……この子たちの知り合い?」
おお、コイツらからこの子たちに変わったぞ。っていうか、探索者ギルドのギルドマスターになった人がSランク探索者を知らないってどうなんだ?
のけ反った体勢のまま首だけをこちらに向けてきた。
ギギギギって音が聞こえそうだぞ……。
てかシオン。そこでピースは違うと思うぞ。栗饅頭でほっぺたパンパンだし、何個口に入れてるんだ?
え? 俺のココア? まあいいけど変わりにコンポタくれるんだ。……まあまだココアの方が栗饅頭には会うか。
「このことは探索者ギルドの理事たちにも話を回します」
「え、そ、そんなことをしてどうするんだ……」
「これは明確なルール違反ですから良くて減俸、悪くて解任ね」
「まさか、そこまでのことじゃ……」
「いや、その通りだ。探索者が正当に申請をしたと言うのに、市長個人の感情かわからないが、ルールを無視してこの子たちの申請をもみ消したってことだからな」
「だ、だが昨日登録したての学生が次の日にランクが上がるとかあり得ない。なら嘘としか判断できないだろ?」
「これだけたくさんドロップ品を買い取りに出してるってことも、結果が出ている探索者カードも証拠だろ? 違うのか?」
「いや、それは誰かに、そうだ、その高橋家の方と知り合いならドロップ品はもらって、カードは機械の故障……」
「いえ、二台の機械へ通してはっきりと攻略完了していたと私は言いましたよね市長」
あ、受け付けのお姉さんが帰ってきた。
「さらに、この子たちは隣の市に申請しに行こうとしていました。私は申し訳無さすぎて送っていくつもりでしたから」
「き、君、なにを言ってるんだ、もう退社したはずじゃ……」
「はぁ、市長……この意味わかる? うちの管轄から出るはずだったAランク探索者を逃すところだったの」
「本当だぞ、本来ならここのギルドとギルドマスターである市長の功績になる」
「そんなことで功績になるわけ――」
「なるんだな、これが。それもここで働くものたち全員にボーナスが出るんだぞ?」
「ええ。一人良いお小遣い程度にはね。そうだ、市長にその損失を補填しろと請求できるくらいのことを市長はやろうとしていたんですよ?」
お小遣い程度か、どれくらいだろ? お小遣いだから千円くらいか? まあ、Aランクならそれくらいかもな。
「以前にいただいたボーナスは二人がAランクに上がって職員一人に十万でしたわ。今回は三人です……ふふ。市長いくらになるかしらね、今回は」
十万! マジか! ……ってことは市役所の職員全員分? それともギルドの職員全員だろうか。何人くらいいるんだろうな、百人くらいか?
二人で十万ってことは、俺たちは三人だし、十五万を百人分!
「え、そ、れでは一千五百万以上払うことに……そ、そんな金は無いぞ!」
「大丈夫だろ、年に六百はもらってるはずだから任期中には払えるだろ」
「そ、それでは三年タダ働きになるじゃないか……」
「それだけのことをしたってことだ」
「そ、そんな……どうすれば……」
「とりあえずこの申請書にサインして通してもらうことからですね」
そう言って受け付けのお姉さんが数枚の書類を市長の前に差し出した。
「そ、そうか、Aランクだったな、よ、よし、サインするぞ」
カタカタと震えながら書類を受け取り、高そうなペンでサインを書いていく。
中身は全然見てないよな。あ、書き終わった。
「こ、これで良いんだよな、き、君たちは今この時点からAランク探索者だ! は、はは、お、おめでとう、そ、それでは私は忙しいのでこれで」
そそくさと市長は奥へ消えていく。サインされた書類を受け付けのお姉さんが目を通してニヤリと笑った。
「えへへ。有給休暇の申請も通りました」
「「「「「「おい!」」」」」」
聞き耳を立てていた探索者たちを含む全員の声が揃ったのは言うまでもない。
「市長のヤツ逃げやがったが、ちゃんと理事たちには報告すること忘れてないか?」
「忘れてるでしょうね~、減俸に解任もマジでありそうだし、この子たちに慰謝料とかもあるだろうし……ま、市長が何とかするでしょう」
「ですね。私も三日の有給取れましたから温泉にでも行こうかな」
ま、まあ、最初の目標の一つ、プロのAランクにはなれたし流しておこう。
明日には学園のSランクになればやっとスタートラインに立てる。
次はAランクダンジョンの攻略か。富士のダンジョン……じゃなくても良いけど、魔法スキル目指して! 違うだろ! プロのSランク目指して頑張るか。




