第79話 モンスターハウス試験
「それではパーティー別討伐試験を開始します」
パーティーは俺たちを含めて五パーティー。残りも五パーティーあるそうだけど、そのパーティーたちの試験は明日にやるそうだ。
「まずは……」
シオンが片手を上げてぴょんぴょん飛び跳ねている。それを見て先生は、こめかみを押さえ、困り顔だ。
さらに両手を上げてアピールするシオン。その手にはいつものフレイルとオレのワンハンドソードが握られている。
「はぁ……一年生パーティーからやりましょう」
盛大なため息のあと、もうどうにでもしてって顔で俺たちを最初にしてくれた。
「やったのです! 一番乗りなのですよ!」
カンカンとフレイルとワンハンドソードを軽く当てながらも飛び跳ね喜ぶシオンだけど……。
「……ここはオーガのモンスターハウスです。オーガ三十体が相手となります。二年生、三年生は去年も受けていますので知っているとは思いますが――」
シオンが『流されたです……』と落ち込んでいるけど、ダンジョンだし、試験なんだからちゃんと話を聞こうな。
まあ、ここに来るまで結構好き勝手させてもらったから、俺も本当は駄目なんだけどな。
ちょっとゴブリン以外のモンスターにテンションが上がっていたから、申し訳ないと思うし。
でも出るオーガの数はゴブリンと同じか。シオリの話だとレアはオーガナイト、盾と剣を持っているヤツで、剣術か盾術のスキルオーブを低い確率で落とすそうだ。
「――レアが出た場合、申告すれば一緒に入るAランク探索者の誰かがそのオーガだけは倒してくれます」
そうだよな。試験とはいえ、ここで怪我は仕方ないとしても、命を落としたりすれば……。
ん? ダンジョンでの事故は自己責任と誓約書も書いたしそれはそれで仕方がないよ……ね?
「これは探索者にとって恥ではありません大切な引き際を見定める能力が試されるからです」
そうか、確かにダンジョンでは稼げるけど、それは命懸けだからだ。変に意地をはって無理すれば、よくて怪我、悪くすれば死ぬんだもんな。
将来のことを考えれば、その引き際というか逃げる、この試験でいえば応援をもらうタイミングを逃さない練習にもなるってことか。
「後、先生と試験官の方が、このパーティーでは無理だと判断した場合には、その場でそのパーティーの試験は終了とします」
それはキツいけど……仕方ないよな。危険な状態は見て見ぬふりはできないだろうし。
「もし、そうなった場合も、後日補修もありますので、引き際。何度も言いますが引き際のタイミングは間違わないでください」
補修ね。一応そんな救済措置もあるのか。
でも俺たちはこんなところで止まっていられないから、引くわけには行かない。
オーガ程度はサクサク倒して当たり前。負ける、怪我をする、死ぬとかあり得ない。
Sランクはそんな強者しかなれないランクだ。それに、ここまでの道のりでやれる自信もついた。
うぬぼれたりもしない。少しの油断が命取りになるのは身をもって体験してきたんだ、集中していこう。
見渡すと先生の話を聞く真剣な顔をした先輩たち。去年に続いて二度目か三度目だろうけど緊張しているのが見てとれる。
「では、長門くんと大和さんたちの準備が済み次第……済んでいるようですのでさっそく始めたいと思います」
熊田さんが扉を開け、長い鉄の棒で扉がしまらないように固定する。
そうだよな、見学はできるようにした方がいい。自分の順番になったときのイメージトレーニングもできるだろうしな。
いや、このダンジョンに通っているパーティーならモンスターハウスに何度も挑戦しているだろうし、そうでもないのか?
考え事をしていると、シオンにツンツン手をつつかれていた。
「ちょっと考え事してたよ。ごめん、集中していこう、作戦はいつも通りで」
「了解ですわ。シオン、パーティーの試験ですから、ひとりつっこんでは駄目ですからね」
「ふんす! レイが真ん中。わたしが右、左がお姉ちゃん。任せるですよ!」
「いつも通りシオン、シオリは最初に魔法でオーガの分断を頼む」
「魔法で蹴散らすですよ!」
「頑張りますわ」
「よし、行こうか」
先輩たちが見守る中、モンスターハウスに俺たちは足を踏み入れた。
踏み入れた途端に現れるオーガたち。その中に一匹だけ色の違う、真っ黒なオーガがいた。
「レアがいるけど作戦通り! シオリ撃て!」
「クアドラブルボール!」
先にシオリの四属性魔法、火、土、風、水の四色のボールが飛んでいく。
ドバン! とほぼ同時に中央のオーガたちへ着弾。続けて――
「シオン!」
「はいです! ふれいむぼーる! ふれいむぼーる! ふれいむぼーる! ふれいむぼーる!」
ドバン! ドバン! ドバン! ドバン!
と右と左に二発ずつのフレイムボールを撃ち、シオリの初撃で混乱しているだろうオーガたちへ着弾した。
「行くぞ! 身体強化!」
「身体強化!」
「身体凶化ですよ!」
残りはだいたい二十匹。左にシオリ、右にシオンが向かい、一番残りの数が多そうな真ん中の塊に俺がつっこむ。
当然真ん中には色違いのオーガがいるが、この混乱している内に――
「オーガキングだと! 逃げろ!」
――熊田さんがなにか叫んだけど、俺たちはオーガに接近戦を仕掛けた。
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