第78話 ソロ討伐試験
三階層に入ると、四階層への階段があるメインの通りから外れて横道に入る。
三階層のオーガは緑色の鬼。身長はオークより少し大きいくらいだが、肥満体型ではないムキムキらしい。
動きも速く、力もオークとくらべ強いそうだ。だけどね持っている武器はオークと同じ金属製のこん棒か鉄製の剣になる。
「……三階層に入りましたので、モンスターハウスに向かうまで、ソロでのオーガ討伐試験を開始します。なので長門くん。記録を撮りますから次は少し待ってくださいね」
「……はい、すいません」
三階層に下りてすぐ目の前にオーガ一匹がいたのでテンションが上がり、飛び出して倒してしまったのだ。
「では、参りましょう。三階層は罠もありませんから先頭は長門さんで、その後に大和さんたちが続いてください」
「はい」
「はいなのです! でも、レイ、ズルくないですか? 先に倒してるですよ?」
「そうか、ならシオンからでいいぞ、その次がシオリで、最後が俺で」
「やったのです! 鬼さんこちらなのですよ!」
「ふふ。リバティ時代はオーガをソロでやろうとは思いもしませんでしたが、あの動きでしたら大丈夫そうですわね」
「そ、そうなのですね……ではその順番で進んでください。オーガが見え次第記録を開始します」
「おお! 皆のもの、わたしに続くのです!」
フレイルを振り上げて元気よく進むシオン。だけどねシオン……道間違ってるから戻ってきなさい。
数メートル横道に進み、誰もついてこないと気づいたシオンは、首をかしげながら手元のスマホでマップを開く。
「ぬお! 道間違ってるです! 皆のもの! こっちじゃなかったです! あっちに進むですよ!」
……道がずれていることに気がついたみたいだけど、皆のものはどうかと思うんだ。シオリも苦笑いしているし。
そんなこんなで正規ルートを進むとさっそくオーガが現れた。二匹。
「オーガ見つけたです! 行くですよ! 身体凶化! 鬼さんこちらなのです!」
こちらと呼んでおきながら自ら走りよるシオン。上手いな。オーガが右手にこん棒を持っているのを見て背後を取るようだ。
一気に加速したシオンに反応できず、脇を通り抜けられた二匹のオーガ。だけど遅い。
もうシオンはフルスイングの姿勢に入っている。
「ほーむらん!」
ドグシャ――と後ろにいたオーガが腰を殴られ吹き飛び前のオーガにぶち当たり、絡まるように石畳の上に投げ出された。
こうなれば後はシオンの独壇場だ。
「ほーむらん! ほーむらん!」
と一撃ずつオーガの頭部に追撃を入れ、あっという間に黒い煙になって消えていった。
「ぬふふふふふふ! 大勝利! こん棒も手に入れたのです!」
魔石を二つと、自分の身長ほどもあるこん棒をガラガラと引きずり戻ってくる。
それ、持って帰るつもりか? 身体凶化が切れても持ち歩けるならいいけど……邪魔だよな……。
「ふ、ふふ、…………もう何を見ても驚きません。次、四織さん、先頭をよろしくお願いします」
「ええ、わかりました。進みますね」
錫杖の先を外し槍の準備をして進み始めるシオリに続いて俺と、ガラガラこん棒引きずるシオンが続く。
「オーガ相手に魔法職なのにまた槍で行くのか……これでまたどうせ瞬殺なんだろ? というかこの一年生は俺のパーティーに欲しいくらいだぞ……」
うしろでそんなことを言ってるけど、シオンもシオリも俺のパーティーだから移籍はしないからね。
それに目指すは半年でプロのSランク探索者だからAランクパーティーに所属している暇はない。
角を曲がったところにも二匹のオーガがいたが、シオリは余裕でさばきながら先生が曲がってくるのを待ち、カメラを構えてからオーガの眉間を突いて終わらせた。
「あら、またこん棒が落ちましたわね。シオン、こん棒の二刀流ができますわよ?」
「おお! と、やりたいのですけど……身体凶化が終わったら両手でしか持てないのですよ。残念なのです」
「なら鍛えるしかないよな、一本は俺が持っててやるよ」
「っ! レイ! ありがとうなのです!」
剣を使うのに邪魔だけど、喜ぶシオンの顔が見れたからよしとしよう。
左手で肩にこん棒を担ぎ、今度は俺が先頭を行く。……思ったより持てるな……二刀流か……。
「あのさ、シオンの持ってるこん棒貸してくれない? かわりに俺の剣を貸すからさ」
「それでフレイルと剣で二刀流? レイはこん棒の二刀流! おそろいなのですよ!」
ガラガラと俺のところまでこん棒を引きずって持ってきてくれたから交換して何度か振り回してみる。
持ち手が手首くらいの太さがあるから握りにくいけど……思ったより重くはない。
おそらく一本五十キロくらいはあるし、頑丈そうだから、これは当たると大ダメージだな。
最後にブオンと鳴るくらい勢いよく振り下ろし、腕がまっすぐ通路の先を向いたところで止めてみた。
「うん。身体強化無しでもなんとか振れるな。行けそうだ、しばらく貸しておいてねシオン」
「はいなのです! わたしも二刀流! しゅぴっ! ぶおん! いい感じなのですよ!」
「……で、では、次、長門くんです。進んでください……」
「あんなこん棒……力自慢の俺でも身体強化しないと片手では振れないっての……」
こう見えて鍛え方が違うからね。基礎の筋力も上がっているし、身体強化レベル5を発動していない、通常の力でも普通の人の身体強化に負ける気はしない。
当然、戦ったことのある熊田さんにもね。
両肩にこん棒を担ぎながら通路を進み、やっと俺の番が回ってきた。俺も二匹のオーガが相手だ。
「先生、記録をよろしくお願いします!」
「はい。記録開始します!」
「行きます! 身体強化!」
自分達が持つこん棒と同じものを持った人間が走り込んで来るのを見てオーガの表情が驚きに変わった。
モンスターのオーガも驚くんだなとか考えている内に攻撃の範囲に入った。
「くらえ!」
身長ほどもある長いこん棒だ。頭を下げさせることも必要ない。
グシャ、グシャ!
一匹目のオーガは左腕で頭をかばうが、腕ごと頭にこん棒を叩き込んだ。
黒い煙になりかけているオーガを回り込み、後ろにいたオーガには上段からの打ち下ろしでしとめた。
よし。全く問題無しだな。これはモンスターハウスが楽しみだ。
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