第77話 戦闘狂たち?
ついに二階層だ。オークだ。グレーでブタっ鼻の大男だ。
身長も二メートルは軽く越えているが、決して筋肉質ではなく肥満体型がオークのようだ。
俺は決して身長は低くはない……十五歳の平均身長には手が届いてないけど、低くはない。はず。
だけど見上げるようなオークに比べれば大人と子供の差がある。横幅は倍以上だけどな。
これだけの身長差だったらどうするか。タマちゃんは――
『背が高ければ頭を下げてもらえばいいのじゃ』
――と。うん。よくわからなかったけど、頭を下げないなら、俺がその高さまで行けばいいんだと結論付けた。
だから――ジャンプすればいいんじゃないかとはじめは考え、ジャンプしたんだけど、空中で人間は自由に動けないってことを実体験した。
前鬼さんに胴体を真っ二つにされたし……。だから考えを変えて、タマちゃんの言う通り頭をどうやれば下げてくれるのか。
いや、下げてもらうんじゃなくて、どうやって頭の位置を下げさせるのか考えたとき――
『なんでこんな簡単なこと気づかなかったんだよ俺!』
――って言っちゃったくらいだ。
背後で応援してくれるシオンとシオリ。その後ろで『無茶だやめろ!』とか『魔力を! せめて身体強化を使いなさい!』と叫ぶ熊田さんと先生。
俺は向かってくた迫力のあるオークに、こちらからも石畳を蹴り、向かっていく。
シオリが言ってた通り、武器はこん棒だけど、金属製のものを振り上げ、どことなく見下した表情で近づき、俺の頭に向かって二匹同時に振り下ろしてくる。
「遅い!」
二匹の間を振り下ろされるこん棒より早くすり抜けた。
通り抜ける際にひざ裏を切り裂きながらだ。すると当然――
『グガァァァア!』『ガグアァガアッ!』
と叫び声をあげながら背後でズシンと音を立て、跪いたオーク。
そのお陰で背の低くなり、痛みからかこん棒を手放し足をおさえるオークの背後から首をはね、黒い煙に変えた。
「いけるな。これならオークも余裕そうだ」
魔石を拾い上げていると、止まらず歩いてきてたシオンとシオリに合流して先に進む。
「ホブの方が強そうなのです。オークはおっきいけど遅すぎですよ」
「そうね。見た感じ背を低くする戦法も有効そうですからシオンのフレイルでも大丈夫そうですわ」
「でも背の高いモンスターはやっぱりシオリの槍が一番優利だよな」
「間合いに入られなければね。数で押し込められると槍では厳しいものがありますわ」
「さあ次はわたしなのです! オークはお肉のドロップがあるのですよ! 絶対ドロップさせるです!」
気合十分のシオン。オークのドロップする肉は高級品だそうだ。ドロップ率がとてつもなく低いらしい。
「シオリはオークの肉のドロップはしたことがあるのか?」
「ええ、一度だけ。肉は少量ですがギルドで一キロ五万にはなりましたわね。ですから一度は食べてみたいですわ」
「よし、三階層に行くまでになんとかオーク肉のドロップを目指すぞ」
そんなことを言ってると、ちょうどオークのお出ましのようだ。
「シオン! 来たぞ!」
「三匹! 任せるですよ! お肉おいてけー!」
「あらあらシオンったら張り切っちゃって」
「お、おい、三匹だぞ、あの子一人でいいのか?」
「そ、そうです、あなた方が強いのはわかりましたから、せめて一対一にしてくれた方が私たちの気も休めるのですが……あっ」
振り向くと、ドゴンドゴンと二発ずつ三回。計六発でシオンに三匹のオークは黒い煙に変えられたところだった。
正面から膝を打ち砕き下がってくる頭を殴打していた。あの敵の懐に入る身のこなしはシオンが一番上手い。
「そんな……あんな鉄のフレイルだけで……」
「俺、あんなのよく受けてたよな……」
「あら、追加ですわね。私が行きますわ」
「シオリ、頑張って」
「ええ、行ってきます」
あっという間にシオン追い越したシオリ。二匹のオークの前まで行くと――
シュシュ――
と、それだけだ。しっかり槍の穂先が眉間の間を一撃ずつ貫いて終わりだった。
「いいねシオリ。これならオークのモンスターハウスも、いつものダンジョンと同じ感じなら単独でいけそうだな」
手応え的にゴブリンと、同じ数が相手でも大丈夫だと思う。あとはレアのオークもいるそうだから、それ次第だな。
「モンスターハウスを単独、で? オークの?」
「なあ先生、コイツら今すぐプロの探索者で登録しても、余裕でAランクの確定だぞ……いや、Sランクだっていける」
「ええ、在学中にプロのSランク探索者になるかもしれません……そうなれば前代未聞です」
いや、色々試験があると聞いたからそこまで簡単ではないはずだ。
だけど俺たちはやらなきゃならない。だからこの程度でつまずいてられないんだけどね。
ソロでのオークも、最初は驚きの声をあげていた先輩たちも落ち着いてきた頃、ついに肉がドロップした。
「出た! シオン、シオリ! お肉出たよ!」
「やったのです! 今夜はお肉祭りするですよ!」
「ふふ。楽しみね」
次の角を曲がれば階段があるってところでのドロップだった。行きはあきらめて帰り道に期待かなと思っていたから本当に嬉しい。
嬉しいけど……冷静に考えると、石畳にポンと置かれた肉の塊。
できれば皿か何かに乗せて置いてもらいたかったと思うのは俺だけだろうか。




