第76話 Bランクダンジョン
バスに揺られてやって来たBランクダンジョン。引率者は昨日の試験を担当してくれた先生とAランク探索者の三人も来てる。
「それではこれから三階層にあるモンスターハウスに向かいながら、ソロのものたちの試験を、モンスターハウスでは、パーティー別に試験をします」
俺たちは両方受けるつもりだ。一階層はいきなりホブゴブリンが出て、二階層はオークが出るらしいけど、俺とシオンには初対面のモンスターだから少し楽しみでもある。
シオリはリバティとパーティーを組んでいた時によく来ていたそうで、モンスターの特徴を聞いて戦うイメージトレーニングはやってきた。
「一階層と二階層は先生と昨日試験を担当してくれた三人で先導していきますが、少し体を動かしたいものは先生に言ってください。いますか?」
「はい! 動かしたいです!」
「ぶっ飛ばすです!」
「はい! 私もよろしくお願いします!」
俺たちは元気よく手を上げた。が、俺たち以外は誰も手を上げない……なんでだ?
「……あなたたちね、確か、ソロもパーティーも試験を受けたいと言ってましたが、魔力や体力は大丈夫ですか?」
「はい、三階層までは魔力を使わず温存していくので大丈夫です」
「え? ま、魔力を使わずに?」
「はい。駄目、ですか?」
「あの、大和四織さんも? 魔法がメインなのに?」
「はい。そのために今日は槍も持ってきてます」
槍とシオリは言うが、魔法用の杖でもある。タマちゃんが貸してくれたものだ。
錫杖と言う修験者が使う物らしいんだけど、先の飾りみたいなのを外すと槍になる隠し武器で、忍者が使っていたとかいないとか。
まあ、槍にも魔法杖にもなるお得な武器だ。ちょっと羨ましい。
俺とシオンは研究所からの武器や防具を使うよう言われてるので、カッコいい武器も色々あったけど今は我慢してる。
でもいつか刀とか使ってみたい、タマちゃんが持っていた刀は妖刀なのでもっと強くならないと駄目って言われた。
シオンはトゲトゲの金棒を使いたいそうだ。なんでも地獄の門番が持っている金棒だけど、重すぎて持ち上げられなかった。
「ここを外せば、ほら、槍です」
「そ、そうなのね……わ、かりました。他にはいませんか? ……いませんね」
諦めたような顔の先生は、熊田さんたちと少しだけ話した後、ダンジョンに入ることになった。
タイプ的にはいつものダンジョンと同じ迷宮タイプで、石造りのダンジョンだ。
前は先生と熊田さんのようで、そのすぐ後ろを俺たちがついていくけど、熊田さんはやりにくそうにしてる。
まあ、シオンが熊と言ったことが発端だから、ほんの少し悪い気がしないでもない。
そんな疲れた顔の先生と熊田さんの話でわかったことは、先生もBランクで、火属性魔法の使い手らしい。
やっぱりそこそこの実力がないと探索者を育成する学園では駄目だよな。
そんな時だ、ホブゴブリンが先の横道から出てくるのが見えた。
「よし、誰から行くんだ? アレはホブゴブリンだからゴブリンの数倍は強いと言っておく」
「俺からでいいか?」
「わたしは二番手をもらうです」
「ええ。それでいいわ」
「なら先に行かせてもらうね」
ワンハンドソードを握り直し、先生と熊田さんを追い越し先行する。
あ、あと二匹いるな。こちらに気づいたホブゴブリンが出てきた通路に視線を送ってから俺に向けて走ってきた。
モンスターの気配を探る修行もたくさんやったから、何匹いるかはわかるようになっている。
シオリはさらに種類まで言い当てるから凄い。アーチャーとかメイジとか普通はわかんないよな。
「シオン、シオリ、三匹だから一匹ずつ倒そうか?」
「レイがやっちゃってくださいです」
「そうね、レイに今回は任せますわ」
「了解! なら三匹とももらうな!」
石畳を蹴り、最初のホブゴブリンとの間合いをつめる。
「は? ホブゴブリンが三匹? それをソロでやるってのか?」
「き、危険です! せめて三人で――」
背後で先生の声が聞こえたけど、止めようとしてももう遅い。
「一つ!」
刃こぼれしてサビの浮いた鉄の剣を振り下ろしてくるが、遅すぎる。
半歩横に避けてすれ違いざまに首をハネる。そのまま勢いを殺さず横道から同時に出てきたホブゴブリン二匹に迫る。
「二つ! 三つ!」
二匹同時でもやることは変わらない。タマちゃんが言ってた――
『首のあるモンスターならば倒し方は簡単じゃ。首を落としてやれば良いのじゃ。ほれ、今日はすべて首斬りで倒してみよ』
――を実践するだけだ。最初の方はモンスターも急所は守ろうとするから難しかったけど、今は余裕で刈り取れるようになってる。
三匹の首を飛ばしたホブゴブリンは、黒い煙になり、魔石だけを残して消えた。
三つの魔石を拾い、みんなが追い付いてくるのを待ち、合流したんだけど、シオンとシオリ以外は『なんなんだコイツ』みたいな目で俺を見てくる。
だけど、この後、俺が二匹追加でシオンが五匹、シオリが六匹をソロで倒し、二階層に下りる頃には三人ともそんな目で見られるようになっていた。
そんなことはとりあえず気にしないことにしよう。それより二階層のオークだ。
まだ見たことも戦ったことのないモンスターだぞ。ヤバい、少しテンションが上がってきた。




