21章:トゥルーヴァリアントショー(10) SIDE ヒミコ
SIDE ヒミコ
バチカンの元最強戦士がコロコロ坂事務所にスカウトされてきたのは偶然だった。
だがそれは、この計画を進める最後にして最高のパーツだった。
ナンバカズよ、そなたが悪いのだ。
そなたのような個体が現れなければ、計画を早めることもなかった。
システィーナを使い、ナンバカズをおびき出せたのも僥倖だった。
最高神クラス用に何年もかけて準備していたトラップを、人間相手に使うことになったのは痛手だが、彼を人間だと認識するのは危険だ。
彼さえいなければ、他はなんとでもなる。
「社長、お時間です」
秘書が社長室のドアを開けた。
いよいよだ。
長年の計画が、いよいよ実行に移される。
ソファーに放り出しておいたスーツの上着を着る。
何年もこの姿を使っているとはいえ、やはり男の体は好かん。
だがこれも今日までだ。
「さあ、まいろうか、システィーナよ」
虹彩の消えた瞳をこちらに向けるシスティーナを伴い、記者会見の会場へと向かう。
SIDE 由依
「お兄ちゃんを助ける方法がわかりました!」
そう言ってリビングに飛び込んで来た双葉ちゃんだったけど、私と美海ちゃんは呆然とテレビに釘付けになっていた。
「……どうしたんです?」
双葉ちゃんも私達につられてテレビに目をやる。
「ヒミコとシスティーナさん?」
システィーナ主演の映画制作発表だったはずの会見場は騒然としていた。
事前情報とは異なる映像が流れたからだ。
化け物が人を喰うシーン、それと戦うカズ。
そして、神域絶界に囚われるカズ。
そもそも、カズのバトルシーンが放映されたことからしておかしかい。
戦っている場所はテレビ局のスタジオ。
つい数日前にカズが神域絶界に囚われているとわかった場所だ。
映像にシスティーナが映っていないことに困惑する記者やスタジオ。
そりゃあそうだろう。
極めつけは、事務所社長の変身だ。
メディアの露出もそこそこあった男性が、突如和装の女性へと姿を変えたのだ。
私達はその姿に見覚えがあった。
魏志倭人伝にでも出てきそうな古めかしい和装と、強く引かれた赤いアイシャドウ。
長野で相対した、日本神話系ヴァリアントのボス、ヒミコである。
コイツがカズを……っ!
カズと敵対する意思はないかのように見せておいて、やっぱり何かたくらんでいた!
「妾の名はヒミコ。日本で暮らす者であれば、聞いたことのある音であろう?」
ざわつく報道陣を前に、軽く自己紹介を終えたヒミコは語りだす。
「今見せたのは映画ではない」
ヒミコはヴァリアントについて、人を喰うこと、喰われた人間は因果ごと消滅すること、ヴァリアントと戦えるカズは封印したことを説明した。
本来であれば、荒唐無稽な話である。
しかしそれは、強い説得力を持って脳の奥に響いてきた。
声を何かの能力に乗せている!?
私は慌てて父に電話をかけた。
「記者会見をやめさせて! できない!? なぜ!? 日本が……いえ、世界がマズいことになるかもしれないのよ!」
白鳥の力でも止められないなんて、かなり周到に用意された計画だ。
ヴァリアントのことをいくら世界に知らせても、人の記憶からすぐに消えてしまう。
その性質があるから、数の少ないヴァリアントはこれまで歴史の影で暗躍してきた。
逆に、目立つことを避けてきたようにも思える。
それを今さらになってなぜ……?
カズの封印を映したのは、彼の力を知っている人達への牽制と取れるけれど。
さらに気になるのは、この場にシスティーナを伴っていることだ。
こんな会見になるなら、女優は必要ないはず……。
「さて、ここからが本題だ。妾はこの日本に、ヴァリアントだけの国を作ろうと思う」
バカな! できるはずがない!
そんな計画がまともに完遂された例は、歴史上ほぼ存在しない。
いや、まさかこのために各国の政治に潜り込んでいた?
「そしてその王位につくのは――」
ヒミコが女王か……。
一筋縄でいかないどころではない。
「このシスティーナである」
今度こそ私達は、本当に言葉を失った。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次章はいよいよクライマックスです!
続きもお楽しみに!
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