21章:トゥルーヴァリアントショー(8) SIDE 由依
SIDE 由依
テレビ局へは、美海ちゃんの能力で透明になり、三人手を繋いでの白昼堂々の侵入だ。
白鳥の力を使えばこんなことをする必要はないのだけど、それでは相手に警戒させてしまう。
夜に忍び込むという案もあったが、昼間の方が電子的なセキュリティは緩い。
姿を消せるのなら、昼の方が動きやすいのだ。
ちなみにシスティーナは女優のお仕事で別行動である。
システィーナの巨大ポスターが天井からつりさげられたエントランスホールを抜け、セキュリティゲートを飛び越える。
局員が呼んだエレベーターに乗り、目的の場所へと向かった。
迷路のような局内を迷わず進む。
図面は頭に入っているのだ。
私達がまず向かった先は、カズがいなくなった日にシスティーナの撮影が行われたスタジオ。
今は別の番組収録の準備中らしく、スタッフがバタバタと出入りしている。
周囲の魔力や、何かヒントがないか、注意深く探ってみる。
「何か感じる?」
「いいえ、何も」
「私もです」
だめか……。
ここは一度、私が一人で見に来てはいるので望み薄だとは思ったけど。
あの時は白鳥パワーで入ったので、案内人という名の監視役が一緒だった。
「あれ……?」
双葉ちゃんが疑問の声をあげた。
「ちょっとこっちに来てください」
美海ちゃんの能力で姿を消すため、バニーガール姿の彼女を挟んで三人手繋ぎ状態の私達は、双葉ちゃんにひっぱられるようにスタジオを出た。
ついた先は閉鎖されたスタジオだ。
ドアを封印するように、『改修工事中』というテープが張られている。
海外の事件現場なんかで見るアレだ。
私が以前来たときはなかったはず。
「ここに何かあるの?」
もし何かあるとするなら、私が前回来た時は「怪しまれないように」テープを張っていなかった?
「微かな違和感程度なんですが……」
「手分けして調べてみましょう」
美海ちゃんから手を離し、スタジオ内を見て回る。
きれいに並べられた機材の上にはうっすらとホコリがつもっている。
少なくとも、改修工事をしているようには見えない。
「血の匂い……?」
バニーガール姿の美海ちゃんが、くんくんと鼻をならしながら、スタジオ内をさまよっている。
「神器発動中は嗅覚も鋭くなるんだっけ?」
「そうみたい」
うさぎの嗅覚って人間の何倍だっけ?
そもそもバニーガールがうさぎなのかは議論の余地ありだろうけど。
「このあたりからする」
美海ちゃんが立ち止まったのは、スタジオのすみっこだった。
「ナニもないわね」
「匂いもちょっと古い感じ」
「誰の血かわかる?」
「さすがにそこまでは……」
「だよね」
血から体臭がするわけじゃない。
「カズの匂いが残ってたりする?」
「ちょっと時間が経ちすぎててわからないかも。床からは洗剤の匂いがすごくて……。血の匂いもそれに混じってかすかに感じる程度なの」
「なるほど……」
ここで何かがあったのは間違いなさそうね。
怪我人が出ただけという可能性もあるけど、それだけでわざわざスタジオを一つ封鎖する理由にはならないだろう。
「誰かいるのか?」
スタジオのドアがゆっくり開き、男の声が響いた。
それと同時に、周囲の音が消える。
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