21章:トゥルーヴァリアントショー(7) SIDE 由依
SIDE 由依
システィーナが短編映画撮影を終えた日。
彼女はタクシーに乗って、一人で帰ってきた。
「お帰りなさい。カズは?」
「え?」
一瞬、ぽかんとするシスティーナ。
「もうやだなあ、一緒に撮影に行ったでしょ。初めての映画撮影で疲れちゃった?」
「あ、あれ? そういえばドコに行ったのでしょう」
まるで今思い出したみたいな言い方だ。
「まさか置いてきちゃったとか?」
「う、うん……? なんでそんなコト……」
システィーナはしきりに首を傾げている。
「忘れて先に帰るなんて、あるはずないのデスが……」
カズを置いてきたことを本当に不思議がっているみたい。
「迎えに行って来マス!」
「疲れてるのよ。カズなら一人で帰ってくるでしょ。今日はもう、お風呂に入って寝たら?」
「でも……」
「大丈夫よ。謝りたいなら、カズが帰ってきたら教えてあげるから」
「うん、そうする。おやすみなさイ」
「おやすみなさい」
システィーナが部屋を出ていくのを見届けると、私はピッチでカズに電話をかけた。
しかし返ってきたのは、電波が届かないというアナウンス。
まあピッチだし、そういうことも多い。
私はこの時、カズがいつものように帰ってくると思っていた。
しかし、夜が明けても、システィーナの映画が公開されても、映画が話題になって彼女が大人気になっても、カズは帰ってこなかった。
私はあらゆる手段を使ってカズを探した。
カズがいなくなって10日目の夜、今日も私はビルの屋上を駆けていた。
こんなことで見つかるなら、白鳥の力でとっくに見つかっている。
わかってはいるが落ち着かない。
走らずにはいられない。
「カズ君……? ええと……ああ! カズ君ね! そういえば最近見ないけど、どうしたんだろ?」
美海ちゃんですらこうだった。
システィーナも同じだ。
彼女の場合、女優業が忙しくなったのもあって、家にいる時間が減った。
みんながカズのことを忘れ始めている。
一緒に戦った仲間なのに、散り散りになりつつあるのを感じる。
長いこと彼の記憶定着魔法を受け続けていた私と双葉ちゃんはまだ大丈夫だが、それもいつまでもつかわからない。
これって、カズがヴァリアントに喰われて――。
そんな考えが頭をよぎる。
ううん、そんなはずない。
絶対にないよ。
世界中の情報を集めるうち、不自然に何も情報を得られないところがあった。
コロコロ坂事務所である。
事務所によると、カズがいなくなったあの日、システィーナから少し遅れて彼は帰宅したという。
今となってはその話も怪しいものだ。
現場に戻ろうということで、私、双葉ちゃん、美海ちゃんの三人は、テレビ局に忍び込んでいた。
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