17章:美女とヴァリアント(17)
オレと由依は、ドアの隙間から中の様子をそっと覗いた。
ヴァリアントが監禁している少女に、水と缶詰を与えている。
少女は目が見えないようだ。
どういう状況だ?
ヴァリアントが少女を非常食として飼っている?
いや、そんな面倒なことをするとは思えない。
少女は衰弱しているというほどでもなく、空腹でちょっとふらついている程度だ。
監禁されてまだ間もないのだろうか。
「このまま捨てられるのかと思いました」
少女はヴァリアントを恐れるどころか、その声を聞いて安心しているようだ。
それにはヴァリアントも面食らったらしい。
「おかしなやつだ」
そう言ったヴァリアントは、少女が手探りで缶詰を食べるのを見下ろしている。
『ストホかなあ?』
由依が繋いだ手から念話でオレに訊いていくる。
『すとほ?』
『ストックホルム症候群。誘拐犯となかよくなっちゃうやつ』
『そんな略しかたすんの? その現象』
有名格ゲーの4作目みたいな略し方だな。いや、その例えも我ながらよくわからんけど。
『ううん、初めて言った』
急な天然にテンションがついていかないぞ。
それはともかく、二人にはストホ(使ってみた)になる程度の交流があった。
すなわち、ヴァリアントがすぐに少女を食べなかったということだけではなく、少女をある程度人間として扱ったということだ。
ありえるのか?
スサノオを思い出せばないとは言えないが……。
オレの予想ではスィアチもかなりの変わり種だしな。
とりあえず、少女が人質にとられないように救出しておくか。
オレはドアを蹴破ると同時に少女の横に高速移動。
「なっ!? 速っ!?」
ヴァリアントが驚く隙に少女を抱えて、由依の隣に戻る。
「この娘をたのむ」
「了解!」
由依はおろおろする少女を小脇に抱え、屋敷のドアへと向かう。
最近は神器を身につけていない上半身の身体強化もかなりできるようになってきた。
「させねえよ」
ヴァリアントが手に魔力を集中させ、ぞうきんを捻るような動作をした。
その瞬間、時空が歪んだ。
視界の歪みが少女に向かって収束したかと思うと、少女の姿が消えた。
「転移タイプだと!?」
これだけ一瞬で他者を瞬間移動させた上、少女を抱えていた由依に何の影響もない精度となると、かなりの高等技術だ。
回数制限や下準備など制約はあるだろうが、やっかいなことに違いはない。
双葉を連れてくるべきだったかもしれない。
一番驚いたのは、その能力を逃亡ではなく少女に使ったことだが。
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