16章:ヴァリアント・ザ・オリジネーション(4)
◇ ◆ ◇
「とととと、飛んだ。飛んだよ由依さん……。鉄のかたまりがとんでるぅ……」
イタリア行きの飛行機が離陸した。
揺れる機内で美海が由依の腕に抱きついている。
ちなみに席は4席横並びで、左から美海、由依、オレ、佐藤の順だ。
美海は飛行機が初めてらしく、がくがく震えている。
今時、ここまで飛行機を怖がるのも珍しい。
「機内食、楽しみだなあ」
佐藤は機内で上映される映画のスケジュールを見ながら、食事に想いを馳せている。
「機内食って、冷静になるとそれほど美味しいというものではないのよね。もちろん、空の上で食べられるものとしてはすごいのだけど」
由依がぽそりと言った。
「オレも初めての時はそう思った」
「難波って、外国に行ったことあるのか?」
うっかり相槌をうったものの、佐藤に言われて気づいたが、オレが初めて海外に行ったのは修学旅行だった。
「いや、ちょっと機会があって、機内食だけ食べたんだよ」
未来だと通販でそういう商売もしていたが、この頃はどうだったかな。
「へー。いいなあ」
佐藤は深く考えなかったようで、納得してくれた。
「そういえば、サンプルがうちに届いていたこともあったわね」
さすが白鳥家だ。
グループ会社に航空関係もあるのだろう。
ちなみに実際出てきた機内食に佐藤は「なんだよ、すごく美味いじゃないか!」とご満悦だった。
楽しそうで何よりである。
やがて夜になり、機内は消灯した。
年頃の男女が1つの空間で寝ているのである。
「くふ……くふふ……」
美海のように寝言で怪しい含み笑いをしてしまうのも、しかたのないこと……だろうか?
妄想たくましいなあ。
低いエンジン音だけが響く機内で目を閉じると、ゆっくり睡魔が忍び寄ってくる。
オレが夢の中へ落ちそうになったその時、手にそっと温かいものが触れた。
毛布の下で、由依が手を握ってきたのだ。
横目で彼女の方を見るも、アイマスクでその表情はうかがい知れない。
規則的な呼吸をしているが、まだ眠ってはいないようだ。
優しく手を握り返すと、由依の口元がぴくりと動いた。
一瞬、由依の手に緊張が感じられたが、ふわりと握り返してきた。
家で二人でいる時とは違う、なんだかこそばゆくも温かい気持ちになる。
しばらくそうしていて、今度こそ眠りに落ちようとしたその時――
由依ががばっとアイマスクを取り、オレと視線を合わせた。
美海のように欲情した――わけではない。
機内に大きな魔力を感じたからだ。
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