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【書籍化&コミカライズ2本】異世界帰りのアラフォーリーマン、17歳の頃に戻って無双する  作者: 遊野優矢


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14章:ヴァリアントが見ている(8)

 緑山邸は2階建ての庭付き一戸建てだ。

 昭和後期を思わせる古めの造りだが、バスやキッチンなどを除くと8部屋ほどがある。

 豪邸とまでは言わないが、都内でこの間取りは大きな家と呼んで良いだろう。

 母一人、子一人で暮らすには広すぎる。


 見回すと、隅々まで掃除は行き届いている。

 ただし――


「カズ……これ……」


 由依が顔をしかめながら指さしたリビングのカーペットとテーブルには、乾いた血の跡があった。

 染みの広がり方からして、人間が死ぬには十分な量だろう。

 何人分かまではわからないが……。


 リビングの食卓には、カップが4つ並んでいた。

 どれも中は空だが、ポットにはまだ紅茶が残っている。

 そして、4脚あるイスのうち、3脚が倒れている。


 キッチンを覗いてみると、食洗機の中にも4人分の皿などが入っていた。

 洗う前だったらしく、扉をあけると、鼻をつくようなきつい匂いがする。

 この時代に、家庭用食洗機を導入しているというのは、なかなか先進的だ。

 やっと普及がはじまった頃だったはず。


 血痕とキッチンまわり以外は、キレイに掃除されている。

 そんな中、壁にかけられた写真だけが、額の中で不自然に朽ちていた。

 おそらく家族写真なのだろう。

 背景を見るに、比較的最近撮られたものもあるようだが、いずれも顔の周辺は特にボロボロにくずれていた。

 これが、ヴァリアントに因果律ごと喰われるということか。




 家の中を一通り見て回ったが、これといった手がかりはみつからなかった。

 やはり調べられるのは血痕くらいか。


 オレは血痕の前に座った。


「何かみつけたの?」


 となりにしゃがみこんだ由依を手で制し、魔力を高めていく。

 こういった細かな調査は得意ではないが、かつての仲間がやっていたのを見よう見まねでやってみる。


 オレは床につけた手から、ゆっくり魔力を血痕へと向かって這わせていく。

 こぼれた水のように広がる魔力は、血痕に浸透し、センサーの役割を果たす。

 血液が魔力を多く宿すとはいえ、ここまで時間が経っていると残留魔力はごく僅かだし、劣化も進んでいる。

 魔力パターンのクセから、人数を判別するのがせいいっぱいというところだろうか。


 血液に残存する魔力は人間のものと思われるのが2パターン。

 そしてそれ以外……ヴァリアントのものが1パターン。

 合計三人分だ。


 カップも食器も四人分あった。

 4人のうちだれかがヴァリアントだったとしても、そうでなかったとしても数が合わない。

 前者だったら魔力は4人分、後者なら5人分になるはずだ。


 4人のうち2人がヴァリアントで、片方はここに魔力を残さなかった?

 もしくは、一人無事に逃げられた?


 状況を見ると、どちらも考えにくいのだが……。


「何かわかった?」


 オレを集中から引き戻したのは由依の声だ。


「うーん……情報は得られたんだが、よくわからないんだよな」


 もう少し手がかりが欲しいところだ。

 といっても、調べる対象は絞られてしまった。

 残念ながらな……。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

続きもお楽しみに!


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