13章:コンプリートブルー(1)
■ 13章 コンプリートブルー ■
長野での一件以来、警戒を続けてはいたのだが、特別何も起こることなく時は過ぎていった。
由依達との合宿も解除だ。
オレと双葉はこのまま白鳥家にお世話になることになったが、美海はそうもいかない。
ちなみにオレもタダで泊めてもらうつもりはなく、魔法で家の手伝いをしている。
メイド達と仲良くなっていくオレに少し不満げな由依だったが、「一緒に住めるんだし……ぶつぶつ……」と何やら自分を抑えているようだ。
美海には、危険が迫った時に通知が来るよう、小さな魔力を埋め込ませてもらった。
長野に行く前、クラスメート達につけたのと同じものだ。
強力な結界などには阻まれてしまうが、ないよりずっと良いだろう。
美海は「危機的状況……ダメですそんな……カズくん……」などと、謎の妄想を繰り広げていたが、その程度では誤発動しないようで安心した。
ヒミコの行方は追っているものの、見つかる気配はなかった。
策略を巡らせるタイプの長だ。そりゃあそうだろう。
変わったことと言えば、ダークヴァルキリーが減り、代わりに低鬼のが増えたくらいだろうか。
ヴァリアント側に何か動きがあったのかもしれないが、組織も掴めていないようだ。
そんな調査を進めつつも、夏休みは残すところあと数日。
オレと由依は、食材の買い出しのため、近くの大型スーパーに来ていた。
食材など白鳥家にいくらでもあるのだが、由依が一緒に買いに出たがったのだ。
それも、わざわざ双葉をまいてきたらしい。
由依は楽しそうに鼻歌を歌いながら、スーパーのカートを押している。
夕食の食材を買うことの何がそんなに楽しいのか。
「今日は何を作るんだ?」
「ケサケイットと、チェットブラーと……うーん、何か食べたいものある?」
「袈裟……? 精進料理か?」
「北欧のスープとミートボールよ。最近覚えたものだから、家庭の味とはいかないけれど……」
「北欧料理か。由依のルーツだもんな。楽しみにしてる」
「うん!」
「そうなると、オレも何か作りたいところだな」
「教えてあげるから一緒に作ろうよ」
「おお、よろしく頼むぜ先生」
「それじゃあ生徒君、食材を選んでもらおうか」
由依がオレの手を引き、まずは野菜売り場へと向かう。
これは……ちょっと楽しいかもしれん。
周囲の奥様方のほっこりした視線や、独身サラリーマンらしき人からの恨みがましい視線は痛くもあるが。
「えへへ……新婚さんみたいだね」
口に出す前から真っ赤になるくらいならひっこめればいいのに。
よほど言いたかったのだろう。
「まだ高校生だぞ。せいぜいカップルだろ」
「カップルに見えるかな?」
誘導尋問だこれ!
「由依のかわいさとオレが釣り合ってなくて、そうは見えないかもな」
「か、かわ……。そうやってすぐ不意打ちするんだから……」
自虐のつもりだったのだが、思い返してみるとえらい恥ずかしいことを言った気がする。
『人違――。ちょっと、やめ――――。なん――――れ』
『そん――言わ――』
照れて視線を合わせたり逸らせたりするオレの耳に、男女の言い争う声が届いた。
いつもなら由依を優先して無視するところだ。
しかしなぜか、オレの本能が「行くべきだ」と告げている。
「由依すまん、ちょっと買い物を続けててくれ」
「え? ちょっとカズ?」
オレは由依を残し、声のした方……スーパーの駐車場へと向かった。
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