9章:ラブレターフロムギリシャ(8)
「おらぁっ!」
赤熱するグローブで繰り出されるアマンダの拳を、由依は大きく横に避けた。
それでいい。
今の由依なら紙一重で避けることも可能だが、相手の能力がわからない時は、大きく避けるべきだ。
教えたことをしっかり守っているな。
ブースターのように炎を吹いたグローブは拳を加速。
グローブの発する熱で、周囲の景色が歪む。
アマンダの拳は、裏拳の要領で由依の顔面を狙う。
由依はそれも素早く下がって避けた。
「スピードはなかなかね!」
アマンダはさらに由依へと追撃をかける。
神器なのは右手だけらしく、左手は普通の拳による攻撃だ。
それでも、一般人が受ければ一撃で昏倒しそうな威力はある。
だがその全てを由依は避けていく。
「コイツ……本当に素人!? だけど、戦闘ってのはなんでも起こるんだよ!」
そう言ったアマンダは、足下の砂を蹴り上げた。
その砂が由依の顔を狙う。
目つぶしか!
アマンダがニヤリと笑い、由依の腹部を狙って拳を繰り出した瞬間にして、由依の顔に砂が届く直前――
地面の砂を巻き上げて、由依の姿がかき消えた。
地面を踏み切っての高速移動だ。
瞬時にアマンダの横に回りこんだ由依は、その脇腹に向かって回し蹴りを繰り出した。
――ドゴォッ!
派手な音を立てて、くの字に折れ曲がったアマンダの体が数メートル吹っ飛んだ。
「あら、今のをちゃんとガードするなんて、良い目をしているんですね」
アマンダは由依の動きを追えていた。
ギリギリだったが、腕でのガードが間に合っていたのだ。
「なるほどね……ただのお嬢ちゃんじゃないってことはわかったよ」
よろよろと立ち上がったアマンダは、右手の拳を突き出すようにかまえた。
「こいつを……喰らいなあ!」
アマンダのグローブから、由依に向かって炎の刃が延びた。
なるほど、この技は炎の剣という名にふさわしい。
由依はひょいと跳び上がると、炎の刃に乗った。
さらに刃の上を駆け、アマンダの顔面に膝をめりこませた。
「そこまでだ!」
教官が止めに入った時には既に、アマンダは白目を剥いて倒れた後だった。
「おいあれ……グングニルか?」
「だよな。あれを扱えるヤツがいたのか」
「他の神器より寿命の縮み方がすごいって話だろ?」
兵士達がざわついている。
オレが調整してやる前のグングニルを使っていればそうなっていただろう。
どうやらじゃじゃ馬で有名な神器らしいな。
「まさかグングニルを使っているとは誤算だった。だが、ボーイはどうかな?」
アクセルがわざとらしく首をふりながら、前に出て来た。
「試してみればわかるさ」
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