表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/307

第90話 〜胸糞悪い〜



「あ、あの!アウルム・トレースという方が魔族というのは本当ですか?」



さらに夜のスピードが上がり、耳元を通る風のせいで普通の声が聞こえなくなっているとき、後ろでリアが声を張り上げた。

リアの存在を忘れていた俺は一瞬固まる。

考え事をするときに集中しすぎるのが俺の悪い癖だ。



「ああ、夜が断言した。間違いない。それに、俺も確認した。あの魔力は魔族以外にありえない」



アメリアの血痕が残っていた場所には覚えのない魔力の残滓が残っていた。

血液など、魔力そのものが宿っているものならともかく、空気中にあれだけ色濃く魔力が残るのは俺の魔力量でも無理だ。

エルフ族よりも魔力が高い俺を超える魔力を持つ者なんて限られている。

つまりは魔族だ。



「そうですか……。魔族が動き出したということは、魔王が動き出したということ。魔王が代替わりしたかは知りませんが、前に魔王が動き出したときには魔物の動きが活発になって、各大陸の迷宮から魔物があふれ出したとか。……今回の魔族襲来はアメリア様を攫う以外にもそういった意味があるかと」



リアの言葉に頷く。

そこで俺はふと素朴な疑問を口にした。



「魔王はなぜ他の種族を襲うんだ?」



魔王といえば悪者で、魔族と魔物は魔王の配下……なんて印象があるからか、どうして魔王及び魔族、魔物が他の種族を襲うのか考えたことなどなかったのだ。

大陸を征服したいとか、人間どもを魔族の奴隷にしてやる……とか?



『魔王様のお心は俺なんかに理解できんが、最初の魔王様が他の種族を襲ったのは、ヴォルケーノ大陸に魔族を追いやったことへの復讐らしい』



そういえば、サラン団長が話してくれた神話にそんなシーンがあったな。

たしか、魔物を唯一操ることができる魔族は他の種族に忌み嫌われ、一番住みにくいヴォルケーノ大陸に追いやられた、とかなんとか。

これまでの人生の中で一番濃い時間を送っているからか、だいぶ記憶が曖昧だ。

まだあれから一年もたってないが、ずいぶん前のような気がする。


まさかあのときは魔物に乗って獣人族の王女と共にエルフ族の王女を助けに行くなんて思ってもみなかった。

本当に何も考えていなかったが、なかなか濃いメンツだ。

アメリアとアウルム・トレースが揃えば全種族揃うな。



「なるほどな。他の魔王もそうか?」



俺の質問に夜が前を見据えたまま頷く。

同時に進行方向にいた魔物を一匹踏み潰した。



『人族などの魔族以外の種族では勇者をヒーロー、魔王を悪の親玉として扱っておる。中にはそのヒーローに憧れて、魔王城まで自力でやって来るような阿呆もいる。主殿のような、気配を消すのがうまく、また勇者に憧れたばかりに戦力としても申し分ない者は魔王様のそれこそ寝室まで侵入することもあったそうだ』



俺は目を見開いた。

いや、魔王城の警備緩っ!

レイティスといい、ホイホイ侵入されてどうするんだ。



『恥ずかしい限りだが、魔族は他種族よりも魔力が優れているからと図に乗る者が多く、勇者パーティ以外の魔王城襲撃も一度や二度ではないのだ』



まあ、もっとも俺はまだ生まれていなかったからすべて記録の中ではだが、と夜は言い置いて続ける。


会話の途中で二十階層のボスを瞬殺した。

これだけ斬ったり踏み潰したりしていると、さすがに慣れたのか、リアは何も反応しない。

十階層にたどり着いたときよりも格段にペースが早くなっている。

この調子だと、あと数時間で最下層に着くかもしれない。

さすがは俺の相棒。



『その中で、何代か前の魔王は妻を侵入者に殺された』



悲痛な声が響く。

風が耳元を通過する中、夜の声だけはよく聞こえた。



『その魔王は争いごとが嫌いで、人族はおろか、獣人族、エルフ族にも一切手を出さなかった。それどころか、平和協定を結ぼうと他種族に持ちかけるほど、戦いを避けていた。妻を愛し、子を愛し、仲間を愛し、魔物も愛した心優しき魔王だったのだ。なのに、自身が魔王であったという理由だけで、妻を殺された』



言いたいことはよく分かった。

殺人事件を起こした人の親族が、それまで嫌われることは何もしてこなかったのに世間の冷たい目に晒されるという、それに少し似ている気がした。



「つまりは、英雄願望の馬鹿が馬鹿なことをしたってわけか」



大衆心理というものは実に簡単だ。

悪いことをした人は悪。

良いことをした人は善。

そこに背景事情なんて関係ない。

あるのは善か悪かだけ。

それだけで、その人のすべてが決まるとばかりに決めつけ、褒めたたえ、非難する。

本当に残忍で救えない人もいるだろうが、そうするしかなかった人だっているだろうに。



『その通りだ。……それから、その魔王は結ばれかけていた平和協定を撤回し、妻を殺した男と同じ種族、獣人族の街を二つほど滅ぼした』



自分がされたことを何倍にも返してやったということか。

夜が言うには魔王の妻を殺した男の家族はじわじわと嬲るように殺されたとか。

男の目の前で。



「……胸糞悪いな。魔王の妻を殺した男にとっては、自分は正義を貫いて見事あの魔王の妻を殺したんだと、それこそ英雄になるはずが、むしろ自分の手で家族を殺したようなものになるなんてな」



自分がしたことで家族、母や唯に危害が及ぶなら、いっそのこと自分の身を差し出して拷問でもなんでもされた方がずっとマシだ。



『それ以来さらに魔族は他種族から恐れられるようになり、平和協定を結ぶなど夢のまた夢となった。……だから主殿、これを踏まえて行動してくれ』



足を止めない夜はこちらを向くことができないが、その声はこれまで聞いてきた中で一番真剣だった。

俺は少し考えて答える。



「……さあ、どうだろうな」



キッパリとした返事ではなかったためか、揺れが少し激しくなった。

何かを言いたそうな夜が口を開く前に牽制した。



「先に言っておくが、魔王の言い分を聞かないとは言ってないぞ。だが、現にこうしてアメリアは攫われ、今回の襲撃で獣人族でも何人か亡くなっている。その話で出てきた魔王と状況が違うんだ」



倍返しとまでは言わない。

せめて、やられた分はきちんと返さないとな。

それが礼儀ってもんだ。



「もし今回の襲撃が魔王本人による命令だったとするならば、いくら夜が言おうと俺は魔王を許すつもりはない。いいな?」


『……ああ、分かった』



やはり、夜は口で言うほど魔族と離れることはできないのだろう。

魔王は生みの親だというし、無理はない。

だが、アメリアを攫われた俺の中にもはや慈悲という言葉は存在しない。

たしかに今の話は胸が痛むが、それとこれとは別だ。


まあ、アメリアが許すというなら別だが。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ