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第88話 〜本音〜 アメリア目線


明けましておめでとうございます。

今年も「暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが」をよろしくお願いします。





目を開けて一番最初に飛び込んできたのは、最愛の人のお世辞にも良いとは言えない鋭い黒い瞳ではなく、鮮やかなエメラルド色の大きな瞳だった。



「あっ!起きたんだね」



遅すぎて待ちくたびれちゃったよと無邪気に笑う子供の顔に私は飛び起きた。

慌てて離れようとするが、体の自由が利かない。



「あー、ダメだよー!君の体の自由は僕が奪ってるからね。そうじゃなくても『蘇生』して体が弱っているからねー」



唯一動く首であたりを見回す。

鎖や拘束具で拘束されているわけではなく、ただ動かない。

何らかの魔法で動けなくされているらしい。

そして、頬に触れている砂に覚えがあった。

場所は違えど、雰囲気や空気は同じだ。



「……迷宮」


「そうそう!さすがアメリア姫だね」



満足そうに頷く魔族の少年を睨みつけた。

殺される前に名を名乗られた気がするけど、覚える気が一切なかったために覚えてない。


殺気の篭った視線をそよ風のように受け流して、少年はからりと笑った。



「やだなー。そんな目しないでよ。せっかくの顔が台無しだよ?」



飄々としている少年に私はギリッと奥歯を噛み締めた。

体を動かそうとするが、一切動かない。

地面に触れている感覚はある。

ゴツゴツとした地面に横たえられているため背中が痛い。

なのに、動かない。


少し離れた場所にいた少年がコツコツと音を立ててこちらに近づいてきた。



「言ったよね?動かないよ。魔王様が君を傷一つない状態で連れて来いって言うから取っておきの手を使ったんだー」



散歩でもしているかのような歩調で私の近くにしゃがんだ少年は顔をぐっと前に出した。



「僕ら魔族が使う魔物を操る術をエルフや人、獣人にかけたらどうなるのかなって、僕ずっと疑問だったんだよねー。君のおかげで解けたよ」



手の届く距離にいるのに、殺せない。

いや、私では殺すことはできないかもしれないけど、逃げることくらいは出来るかもしれないのに、それすらもできない。

アキラの邪魔になってしまう。



「さすがに完全には効かなかったし、操るまではいかなかったけど、魔族に次ぐ魔力を持つエルフの動きを完全に止めることができる。これはいい収穫だよ」



ニコニコ笑って少年が離れる。

そんなことより、私はアキラにどう思われるか心配だった。

もしアキラに捨てられでもしたら、私はきっと生きていけない。

……いや、でもここはこんなネガティブなことを考えるより多くの情報を引き出した方が得策かな。



「……なんで迷宮にいるの」



私の初めての質問に少年は目を輝かせた。

どうやら話しかけて欲しかったらしい。

魔族だから私よりずっと年上かと思っていたけど、見かけ通り子供っぽい。



「あのね、僕の上司っていうのかな?魔族の二番手が魔法陣を使えるんだ。それで、その魔法陣を使ってこの迷宮に来たんだけど、帰りもその魔法陣を使うために降りなきゃいけないんだよー」



案外簡単に情報を漏らしてくれて、開いた口が塞がらない気分だ。

もちろん、実際に口を開けているわけではないけど、一瞬目を見開いてしまったのは仕方が無いと思う。


魔族の二番手は魔法陣を使う。

しかも、魔族領から獣人族領まで繋げてしまうほどの魔法陣を。

カンティネン迷宮の最下層にあった魔法陣ほどではないが、なかなか厄介だ。

戦闘中にそこまで長距離のものを使えるとは思えないけど、長距離ワープの魔法陣が使えるなら短距離も使えるだろうから、死角に回られて背中から……なんて有り得そうだ。


魔法陣は陣さえ描いておけば、魔力を込めるだけで詠唱なしに魔法が発動する。

でもデメリットがあって、魔力の消費が普通の魔法の何倍もかかる。

つまり、魔力が少量の人族は使えない。

獣人族も無理。

エルフ族ならギリギリ足りるかもしれないけど、ワープ系の魔法陣ほど魔力を消耗するものは無理かな。

そもそも魔法陣は魔族が開発したものだって聞いたし、魔族専用なのかもしれない。

魔力の消耗のデメリットのせいで大して研究されてなかったから魔法陣に関してはまるっきり無知だ。

たしか何年か前に人族の研究者が魔力消費を抑える魔法陣を開発したけど、発表する前に魔族に攫われてしまった。

今どうしてるか知らないけど、多分死んでると思う。



「そうだよねー、面倒臭いよねー。僕もそう思う。行きは最下層にいた魔物ちゃんに乗って上がったけど、最低限魔物は使ったらダメだって魔王様が言うから帰りは徒歩だよ。ま、今は休憩中だけどねー」



どうやら驚いて開いた目は違う意味で解釈されたらしい。

好都合だ。



「あと何階層降りるの」


「んー……あんまり覚えてないけど、二十くらいかなぁ。あ、君のことは魔法で運ぶから安心してねー」



本当だとすれば今は八十階層くらいかな。

ヨルが一緒ならたぶん間に合うかも。

……助けに来てくれるならだけど。


死ぬならアキラと一緒に死にたい。

だから死ぬつもりはないけど、この状況で生き残ることはできないと思う。

今私に出来るのは情報を引き出すことと、この少年の機嫌をできるだけ良くしておくこと。



「……」



情けない。

何が神子だろう。

こんなこと、私は望んでいないのに。

昔から、この職業の意味がわからなかった。

私が選ばれた理由も、特性も。


暗殺者は暗殺、風魔法師は風魔法……そんな感じで他の職業には名前のままに特色があるのに神子は何をすればいいのか分からない。

過去に神子だった人の記録もほとんどないから何をする職業なのかも分からない。


私は、今まで第一王女という立場に甘えて流されて生きてきただけ。

キリカは、エルフ族唯一の剣の適性が出たと知ってからは剣の修行に熱中した。

見てて、羨ましかった。


私はどうだろう。

何をしても、そこそこのことが出来る。

熱中するほどなにかにハマったことがない。

だって、熱中する前に出来てしまうから。

何も出来ない人からすれば贅沢な悩みだってことは分かってる。

でも、どうしても憧れた。



私はアキラが羨ましい。





次もアメリア目線ですよー

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