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第74話 ~緊急事態~



生活費を稼ぐためになんでもバイトをしていた経験が功を奏し、晶は無事に黄ランク冒険者になることが出来た。

既に五件もの雑用依頼を片付けた後だったが、その足でそのまま迷宮へ向かう。


ここまで急ぐのには訳があった。

なにか、とてつもなく嫌な予感がするのだ。

この大陸に来てからというもの、嫌な予感しかしていないのだが、今日は今までなかったほど大きな警鐘が頭の中で鳴り響いている。

そしてそれは、迷宮に近づけば近づくほど強くなっていった。

これは早めに終わらせてとっととずらかった方がいいかもしれない。

幸い、アメリアと夜が毎日訪れているクロウの家は迷宮からかなり離れている。

アメリア達が危険な目にあう確率は低いだろうが、それでも晶はアメリアをこの大陸から離したかった。

晶自身もそれだと気づかなかったが、恐らく危機察知のスキルがこのことをずっと警告していたのだ。


アメリアが、再び“蘇生魔法”を使うハメになるということを。



「・・・くそっ」



晶が迷宮に着いた時、獣人族領の迷宮は既に黒い霧が一面を覆っていた。

そして、ギルド職員達が慌てて閉じようとする迷宮の向こうから獣のうめき声と雄叫びが聞こえてくる。

人族よりは獣に近いため危機察知能力の高い獣人族の一般人はこの区域にはおらず、いるのは人族のギルド職員と出稼ぎにきた一般人、そして迷宮に来ていた冒険者達だった。



「おい!今すぐにここから逃げるんだ!!」



恐らく晶よりもずっとランクが上であろう獣人族の冒険者が慌てて声を張り上げ、非戦闘員の避難を誘導する。

それに気づいたギルド職員も逃げてしまったため、迷宮の封鎖は不完全なものとなってしまった。

ギルド職員を非難することは出来ないだろう。

誰だって、自分の身が可愛い。

ましてや戦闘能力を持たない非戦闘員だったら尚更のこと。

それに、きっと閉鎖していても迷宮の底から上がってくる魔物達に一撃で破られていただろうから、ある意味で正しい判断をしたと言える。



「おい!あんたもここから離れるんだ!感じねぇのか!?レイドでも組まねぇと倒せないような魔物が上がってきてるのが!!!」



大きな気配が徐々に近づいてくる迷宮の入り口を見ていると、お人好しの獣人族冒険者が俺の腕を掴んで引っ張った。

既にほかの冒険者は避難した後で、迷宮の入り口付近には晶とこの冒険者しかいない。

その首にかかっているドッグタグの色は赤。

俺の黄色より一つ上のランクだ。



「ああ。だが、どう対処するんだ?」



引っ張られている限り、どこか目的の場所があるように見受ける。

晶が離れようとする意思を見せると、赤ランクの冒険者は今度は走り出した。

晶の手を握ったままだったので、流れで晶も走り出す。



「とりあえずはギルドに行って状況を確認する。金から黄ランクの冒険者はきっと討伐部隊に編成されるだろうから、遅れるとハブられて死んじまうぞ!」



やけに慣れてるなと問えば、お前もなと返ってきた。

確かにと晶は苦笑する。

長く迷宮に潜ると、絶体絶命や、大ピンチといった雰囲気に慣れてしまうのかもしれない。


冒険者ギルドの前には既に多くの黄ランク以上の冒険者達が集結していた。

晶は夜に念話で、今の状況を説明する。



『了解した。主殿はできる限りそちらで食い止めてくれ。こちらは非戦闘員の避難誘導と被害を最小限に抑えることに専念する』

「ああ、お前が死ぬと俺も死ぬんだ。気をつけろよ」

『・・・ふっ。俺を誰だと思っているんだ?』

「愚問だったな。こまめに連絡は取り合おう。アメリアを頼むぞ」



念話を切ると同時に、ギルマスのリンガが少し高い位置に現れる。



「前置きはいいな、とりあえず近くにいる者とペアを組んでくれ。そいつを、命を預ける相棒としてくれ。弱いヤツと組んでしまったのなら、そこがお前の運の尽きだってって訳だ」



言っていることは無茶苦茶で、見ず知らずのやつに命預けられるか!と、普段の晶なら言うだろうが、今回ばかりはそんなこと言ってられない。

人族である晶に本当はこの討伐部隊に加わる義務はないのだけれど、運が良ければランク上げにもなるし、それに何よりアメリアが近くにいるのだ。

アメリアは一応銀ランク冒険者だし、夜までいて倒されることはないと思うが、それでも男は女を守りたい。



「おい、俺と組まねぇか?」

「ああ、よろしく頼む」



晶にパーティーを申し込んできたのは先ほど晶をここまで引っ張ってきた赤ランクの冒険者。



「俺はセナ。見えないだろうが、そこにいるギルドマスター、リンガの弟だ」



本当にそう見えない。

リンガが豹の獣人なのに対してセナは狼の獣人だった。



「俺は晶」



簡潔に自己紹介を終わらせる。

あのリンガの弟なら、尚更気を許せないな。

厄介な人に近づいてしまった。

いや、近づかれたのか。



「早速だが、お前前衛か?後衛か?」



フサフサの尻尾がパタパタと揺れるのが視界に映る。

セナが俺の体に目を走らせながら言う。




「前衛だ。職業は暗殺者」

「じゃあ相性はいいな。俺は後衛で炎魔法師だから」



ニカッと笑うセナに頷いてあたりを見回した。

殆どのところが顔見知りだったらしく、自己紹介をしている所は少ない。



「じゃあ基本はその二人で動き、何らかの異変が生じた場合にはもう片方を伝令役としろ。腕に不安な組はほかの組と合わさっても構わない。いま足の速い者を隣町や王都に送った。それでも、この街を守れるのは俺たちだけだ。俺達の街を、魔族共に汚させるな!!!!!」

「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」



全員の士気が高まる中、俺は一人顔を顰めた。



「・・・魔族?」



どうして、魔族だと言える?

ちらほら聞こえている言葉から、空が黒くなるなどの現象が、約百年前に夜が起こした“アドレアの悪夢”と酷似していることは分かった。

だが、魔族が一緒にいたとは聞いていない。

夜もそのような事は言わなかった。

最も、俺も全てを夜から聞いた訳ではない。

ただ、魔王様の命令で夜が、大勢の獣人族の命を奪ったと聞いただけだ。

それでも、夜のことだから魔族が率いていたのならそうと言うはずである。

だから恐らく、百年前に魔物を率いてきたのは魔物である夜。

ならば、今回も知性のある魔物が率いてきたと捉えるのがごく一般的な見解じゃないのか?


もし憶測でものを言っているとしたら、それこそ有り得ない。

いちギルドマスターと言えども、その言葉の影響力は本人がよく知っているはずだ。

という事は、何か確信を持って言っている?



「おい、よくぼーっとするやつだな。他の奴と合わさるか?」



考え込む晶にセナが呆れたような目を向けた。

晶は深く考えずに首を横に振る。



「お前の実力は知らないが、長らくソロでいた俺に連携プレーは無理だし、増えても噛み合わないだけだろう」



セナは頷いて、晶が考え込んでいる間にパーティの打診に来たであろう二人組に申し訳なさそうに頭を下げていた。



「晶、セナ。お前達の班は赤、銀ランクの班の援護に向かえ」



いざ戦場へと言ったところで、タイミング良くリンガがそう言ってきた。



「え、大丈夫なのかよ。黄ランクを最前線に送って」



セナは心配そうに俺を見る。

実力を心配されるのは初めてかもしれないな。

これまで、文句を言われないように何も言われないうちから、自分の半分ほどの実力は見せていたから。



「ああ、こいつに関しては問題ない。いざとなれば捨てて逃げてこい」

「りょーかい」



ニヤリと笑い合う兄弟。

前言撤回だ。

よく似てるよ。




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