第32話 〜朝比奈京介〜 朝比奈京介目線
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3月23日 ご指摘により、ステータスのレベルと本文を少しだけ変更しました(数行増えました)。
俺と勇者の佐藤司、そして晶は幼稚園の頃からずっと同じクラスだった。その事に気づいたのは小六の時で、その時はいつも同じ顔を見かけるなと思っただけだった。だが、流石に十年以上も一緒になると何かの呪いかと思ってしまう。
佐藤は何故か晶を敵視しているし、晶は周りに無関心で、気づいているのか、いないのかがよく分からない。どんな確率か、高校までも同じで、流石に寒気が止まらなかったが、そういう運命なのだと思うことにした。
そして、俺と晶が初めて話したのも高校なってからだった。佐藤のように特に目立つ容姿をしていない俺と晶は、教室内でクラスメイトと話すことがなく、寝ていたり本を読んでいたりと各々(おのおの)一人で過ごしていた。
そんな中で晶の秘密を知ったのは、たしか一年の夏休みだっただろうか。
「……織田晶?」
「ん? ……げ、剣道部の、えーっと……」
「ああ、朝比奈京介だ」
うちの高校はバイトを禁止してはいない。推奨もしていないが、許可証などは家庭の事情などを理由にすれば結構あっさりくれるらしい。あとは成績だな。だが、本当にバイトをしている人はきっと晶だけだろう。そして、晶はそれを知られたくなかった。だが、あろう事か俺は晶が汗を流して働いている場面に出くわしてしまった訳だ。
その日はそれだけで別れた。晶もバイトの途中だったしな。しかし、やっぱり俺の名前を覚えていなかったか。一応は十年以上同じだったんだがな。
翌日、教室に入ると俺の目の前に晶がやって来た。
「昼休み、時間あったら図書室な」
「……」
体育館裏じゃなくてほっとしたのは俺だけの秘密だ。晶はお世辞にも目つきが良いとも言えず、一部生徒の間では、あちらのお方なのではと言う噂まで流れていた程なのだから。
ともかく、俺は頷いて席に座った。心臓はバクバクと音を立てている。頭の中では、有り得ないとは分かっていながらも、お金を請求されたらどうしよう、などという小心めいたセリフが流れていた。よく考えてみれば、秘密にしたいならば俺の方がお金を受け取る側なのだが、混乱していた俺はそんなことも考えつかなかった。
昼休み、昼食をいつも通り食べ、いつもはこのまま寝る流れなのだが、俺は席を立って図書室に向かった。晶は四限が終わると同時に教室を飛び出して行ったまま帰ってきていない。おおかた、購買のパン買い戦争に出陣したのだろう。弁当だけでは足りない男子高校生が群がる、文字通り戦場の様なところに自ら行くとは、なかなか勇気のあるやつだ。
うちの学校の図書室は昇降口の奥にあり、司書のおばさんが常に待機している。一日中開いているため、各休み時間にも来れるのだが、俺は現代文の授業以外で来たのは初めてだ。図書室とは無縁そうな晶が図書室を指定したのはかなり意外だった。
「悪いな、呼び出して」
図書室に着いて開口一番に謝られたときには思わずこちらも謝りそうになったのだが、そこは持ち前のポーカーフェイスで堪えた。頷くだけに留めて晶の向かいの席に座る。
「で、単刀直入に言うと、昨日の事なんだが」
「ああ、誰にも言わなければいいんだろう?」
俺がそう言うと、晶は途端に表情を輝かせた。きっと、毎日鏡の前で自分の無表情と向き合っている俺だからこそ、分かった変化だろう。
「一つ聞きたいんだが、何故そうまでして秘密にする?禁止にはされていないはずだが」
「ああ、その事か」
すると、晶は急に照れたようにそっぽを向いて頬をかいた。
「……なんか、一人だけカッコつけてるみたいでカッコ悪いだろ?」
「は?」
「だぁから、家族のために頑張ってますって主張してるみたいで逆にカッコ悪いだろうが。そういうのは俺の美学に反するんだよ」
「家族のために頑張ることの何がいけないのかが分からないが」
「違う。努力を他人にさらけ出すのが嫌いなんだよ、俺は」
なるほど、それなら分かる気がした。俺だって、他のやつに黙って部活終わったあとも素振りや走り込みをしているし、それを見られたくないとも思う。そういえば、晶と会ったのもランニングをしている最中だったな。
「だから、絶対に他のやつに言うなよ?特に、俺の妹には言うな」
「妹? ……お前にも妹がいるのか」
「ああ、一個下なんだが……“も”?」
俺は携帯で、妹が友達と撮ったというプリクラを出した。俺は右側で何やら訳の分からないポーズをとっているポニーテールの背が高い女の子を指さした。
「これが俺の妹だ」
「……へぇ、じゃあ紹介しよう、こっちが俺の妹だ」
そう言って晶は妹の隣でピースをしているショートカットの可愛い系の女の子を指さした。
「……すごい偶然だな。まさか、妹同士が友達だったとは」
「こっちこそ、まさかお前が京佳ちゃんの兄だったとは。まあそう言われたら似てるな」
「いや、お前の妹とお前には負ける」
晶と妹、唯ちゃんは瓜二つと言っていい程よく似ていた。今でこそ男女の差が出ていて見分けもつくが、きっと幼い頃は目つき以外で見分けがつかなかったのではないだろうか。
「またさ、お前さえ良ければ話そうぜ」
晶の言葉に、俺は一も二もなく頷く。
「もちろんだ。あと、俺のことは名前で呼んでくれ」
「分かった京介、俺も晶で頼む」
「分かった。……ときに晶、学習週間で夏休みでも学校があるから良かったものの、もし今日学校がなかったらどうしていたんだ?」
「あー、似顔絵のビラでも配ってたかもな。うちの妹、美術部で絵は上手いから描かせて」
夏休みでも学校があって、今日ほど感謝したことはなかった。
俺と晶はそのまま細々と交流を続け、二年でもまた佐藤と共に同じクラスになり、そして“モリガン”に召喚された。
俺の職業は、剣道部なだけあってか侍。晶は暗殺者だった。もっとも、晶はその時からほぼ気配を消していたため、第一回目の会議で晶も召喚されていたことと職業を初めて知ったのだが。晶のようにこういうタイプの小説は読んでいなかった俺だが、王様と王女の異様さにはなんとなく勘づいていた。侍の固定スキルに“勘”があるからだろうか。
「ステータス」
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キョウスケ・アサヒナ
種族:人間 職業:侍Lv.5
生命力400/400 攻撃力1400 防御力800 魔力600
スキル:算術Lv.6 曲刀技Lv.4 二刀流Lv.1 勘Lv.8 炎魔法Lv.1
エクストラスキル:言語理解 軍師
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迷宮から出たあとのステータスがこれだ。レベルアップしているのにステータスは全く上がっていない。何か他に条件があるのだろうか。質は全く違うが、勇者である佐藤より少しだけ劣っているくらいだろうか。ただ、勘のスキルレベルだけは異様に高かった。『算術』や『曲刀技』などのスキルレベルをみるに、日本で暮らしていた頃の経験も反映されている。俺が、隠し事などもすぐに分かってしまうのはこのスキルのせいだったらしい。まあ、これで助かったことは星の数ほどあるので、感謝しこそすれ、うざがったりはしなかった。
王様と王女は怪しいが、騎士団団長のサランさんと、副団長のジールさんをはじめ、騎士団の人達はとてもいい人達だった。訓練はとても厳しいが、それも俺達のことを思って厳しいことを言ってくれていることが分かる。
そして、晶は暗躍をしていた。こちらに来てから一度も話してはいないが、何かをしているだろうことは分かる。出来れば晶の方から話して欲しかったのだ。そして、俺に出来ることがあるのなら手伝うつもりだった。だが、晶から事情を話されることはなく、晶はサランさん殺害の容疑をかけられて城を出て行った。
俺も、連れて行って欲しかった。
なぜ、あの時一緒に城を飛び出さなかったのか、俺は自分でも分からない。ただあの時のクラスメイト達は俺も含めて一様におかしかったことだけは覚えている。ここから離れたくない、サランさんを殺した晶を許さない。そういう思いがどこからか知らないが湧き上がって来て、体の動きが鈍ったのだ。
数日もすれば元の状態に戻ったが、違和感は消えなかった。
だがその違和感も、王女の部屋で黒い水晶を割ると消え去った。その時も、なぜ王女の部屋に入れたのか、なぜ水晶を割っているのかも分からなかったが、なぜかこれは割らなければならないものだと確信していたのだ。割る音で城の人がやって来るまでの数分で、26あった水晶を、俺の分も含めて6つ割ったところでようやくハッと我に返って窓から部屋を出た。あと少し遅ければ王女に見つかるところだっただろう。危なかった。
そしてその日の内に勇者が会議の招集をかけ、城を脱出した。俺は晶に会うために、力をつけるために勇者に同行した。
「朝比奈君は、どうして呪いが解かれているんだ?」
城をでて、森を抜け、街を迂回して東に向かっている途中、佐藤がそう声をかけてきた。こいつと話すのはこれが初めてだったかもしれない。
「……王女の部屋にあった水晶を割ったら体が軽くなった。なぜ割ったのかは俺も分からない」
「自分の意思やないってことは、それって王女やない、他の誰かに操られとったんとちゃうん?」
だって、王女やったら自分の呪い壊そうと思わへんやろ? と関西弁女子の上野さんが隣で不安そうに言ったが、佐藤は何やら考え込んでそのまま黙った。俺は居心地が悪くなってその場を離れる。
城からかなり離れたため、走るのもやめて森の中で休憩していた。森の中でも迷宮よりは弱いとはいえ、魔物は出るため警戒は怠らない。
「……晶、死んでるとは微塵も思っていないが、元気でいろよ」
俺は誰もいない木立にそう呟き、荷物の中から武器である一振りの刀を取り出した。会議が終わって部屋に戻るとベットの上に置いてあったのだ。一目でいい刀だと分かる。例え呪いがかかっていようと、旅費の足しになるだろうと持ってきたのだが、幸運なことに呪いの類はかかっていないらしい。これは上野さんに聞いたので確かなはずだ。
柄から刀身、鞘に至るまで全て純白のその刀は小烏造りで、“白龍”(はくりゅう)という銘が日本語で刻んであった。ただの勘だが、これはきっともう一振りと対になってできた刀だろう。でも、きっと当たっている。
この刀は、晶と合流する上で役に立つ。それまでに、晶の隣に立てるくらい実力をつける。それが俺の目標だ。




