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第240話 ~下船~





「ってことで早くて今日の夜にはこの船に三人増えることになった。同船するだけのただの他人だからもてなしも不要だ。勝手に決めて悪いがよろしく頼む」



 翌日の朝食の場で俺は昨日船で留守番をしていたノアや勇者たちに頭を下げる。

 一緒に旅をしているのはもうアメリアと夜だけじゃない。となるとマスターとの取引に前向きな回答をしてしまったのは不味かったのではないだろうかと昨日船に帰ってきてから気がついたのだ。



「その情報が必要だと晶が思ったんだろ。それに城に残してきたクラスメイトに関係があるのなら俺たちも他人事じゃない」



 京介が腕を組んで俺に告げる。



「朝比奈くんの言う通りだ。集団行動をしている以上、君の一存で勝手に決めたのは確かに褒められたことじゃないが俺が一緒に居ても同じ判断をしただろうしな」


「幸いにも食料や水分は十分すぎるくらいに積んできたからな。三人増えたとしてもそう変わらない」



 勇者バーティの中心二人とノアからの賛同があり俺はホッと胸を撫で下ろした。その様子をアメリアと夜がどこか微笑ましいものを見るような目で見てくる。



「……なんだよ」


「べっつに〜」


『なんでもないぞ、主殿〜』



 ニヤけた顔で見てくる一人と一匹にどこか居心地が悪くなって俺は魔物の肉と野菜を煮込んだポトフを掻き込んだ。よく煮込まれて柔らかくなった具とスープを飲み込んで俺は立ち上がる。



「とにかく、今日の夜同じ時間にまたNo.7に行くことになった。それまで周辺の見回りをする予定だが誰か来るか? 魔物も出るかもしれないから安全ではないが」



 俺の言葉にすでに食べ終わっていたアメリアと夜が同じく立ち上がる。



「アメリアは目立ちすぎるだろ。それに魔王傘下の魔族に見つかったらどうするつもりだ?」



 人族領屋獣人族領ではエルフ族こそ珍しいがその美貌に釣られる方が多かった。だがここはアメリアを攫おうとしていた魔族たちの地だ。アメリアがここにいると分かればまた襲ってくるかもしれない。特に目の敵にされている勇者と一緒にいることも襲撃してきたダリオン・シンクが報告してしまっているだろうし。



「大丈夫。昨日クロウが使ってた身体的特徴を消せる外套を借りるもの」



 頬を膨らませるアメリアは可愛いくてなんでも言うことを聞いてやりたくなってくるが、それでも俺はすぐに頷くことができなかった。

 空挺船を襲撃してきたダリオンの言葉が正しければ魔族で五番手だと言っていた。あの時は上空を飛んでいる船の上だったため互いに本気ではなかったがおそらく俺と戦闘能力はそう変わらないだろう。

 ブルート迷宮で三番手のアウルム、二番手のマヒロを退けることこそできたがあの時は俺の能力を知らないアウルムたちが油断してくれただけだ。特に遠隔で手数を増やすことができ、魔法陣によって多方向から多彩な攻撃が可能なマヒロとは相性が悪すぎる。できるなら戦いたくないし、戦うのなら俺の得意な分野で戦いたい。だから船の位置がバレて魔族から奇襲をかけられるかもしれないような状況にはしたくない。



「いいんじゃないか? ノアさんの迷彩魔法も万能じゃない以上君のそばが一番安全だと私は思うが」



 食後にコーヒーを啜っていたジールさんがアメリアの援護をした。


 現在魔族領沿岸部を旋回飛行している空挺船全体にノアが迷彩魔法をかけて周囲の空気に溶け込ませている。『迷彩魔法』は『隠蔽魔法』よりも消費魔力のコスパが良く、広範囲にかけることができる上に魔法の残滓も出にくい。だが『隠蔽魔法』とは違って魔力感知や温度感知、気配察知系統の魔法には引っかかる。一応ラティスネイルに頼んで大陸の方から船を確認してもらったが、魔族の特殊な目から見ても上手く隠れられているらしい。だが良く見れば違和感はあるそうだから完全に安心することはできないと言われた。だから船の下船位置と乗船位置はその都度変えている。



「……それもそうか」


「ふふ、ありがとうジール」


「どういたしまして、アメリア王女。ですがアキラ君の言うとおり御身が魔族たちに狙われていることをお忘れなく、お気をつけて」


「ええ。肝に銘じるわ」



 アメリアが頷いたところで勇者メンバーの方からも一人立ち上がる。



「俺も行っていい? 魔族の大陸がどんなところか気になるんだよな〜」



 そう言って笑う七瀬に続いて京介、勇者も立ち上がった。



「俺たちも今日はご飯当番じゃないから暇だしな」



 今日のご飯当番は勇者バーティの女子なのでおそらくまた刺激物系の料理が出てくるだろう。上野も必死にあの手この手で止めてくれているのだが、細山と比べるとあまり料理が得意ではなくレパートリーが少ないので毎回一品は細山が作ることになってしまうそうだ。それを聞いた勇者パーティのメンバーは黙って上野の肩に手を乗せて慰めていた。これまでの旅で細山を止められる者は誰もいなかったらしい。アメリアは激辛系の料理もペロリと食べてしまうので最悪アメリアが全て平らげるだろうし、津田も今日は船でゆっくりする予定らしいから上野を手伝ってくれるはずだ。



『言っておくが、想像の倍は何もない場所だぞ』



 夜がそう勇者たちにぼやいた数十分後、俺たちは魔族領・ヴォルケーノ大陸に降り立った。

 夜曰く、職業勇者の者が魔族領に降り立ったのは約150年ぶりとのことだ。





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