第225話 ~状況整理2~
神話に続いて各大陸のことに話題が移った。
本当にノアは俺たちにこの世界について教えてくれるつもりらしい。少なくとも船に乗り込むときは俺たちのことよりもクロウのことだったし、知っていても多くを語らない為俺たちがどうなろうとどうでもいいのだろうと思っていたのだが、アイテルに何か言われたのだろうか。どういう心境の変化なんだ?
「まず、この世界には人族、エルフ族、獣人族、魔族の四種族が四つの大陸に別れて暮らしている。とはいっても人族は出稼ぎで獣人族に居る者も多いし、その辺の境界線は近頃はなく、魔族以外自由に行き来していることが多い。この四種族はまとめて人間と呼ばれる。人族から妖精側に進化したのがエルフ族、獣側に進化したのが獣人族、魔物側に進化したのが魔族だ」
おっと、俺がサラン団長から教わっていないこともでてきた。
ぼーっと眺めていた光景から急いで焦点を戻す。
人間の進化論なんて初めて聞いたが。というか妖精ってこっちにも存在したのか。
「先ほど神話で種族が明確に別れた後大陸が割れたと言ったが、近年の研究では各大陸の特色ごとに進化していったのではないかという説もある。そっちの方が説明がつくことが多いしな」
サラン団長の説明が劣っているわけではないが、ノアの説明の仕方はどこか研究成果を発表しているかのような面白さがあって楽しい。
サラン団長も、騎士団長とか要職に就くのではなくて各大陸を旅すればその知識欲を満たすものが見つかっただろうに。
「人族が暮らしている大陸の名前はカンティネン。神話でも言ったように広大で豊かな土地があり、一番人口が多い。主要都市はお前達が召喚されたレイティス国の他に“大和の国”が挙げられる」
聞くところによると勇者達は“大和の国”に行ったことがあるらしい。そこで美味しい海鮮丼を食べたことなどを京介に教えてもらった。
本当に羨ましい。俺なんて一人の時はサラン団長が用意してくれた保存食だったし、アメリアと合流した後も魔物の肉を食べることが多く、エルフ族領でもてなしの食事を食べたが野菜や狩りで得た肉が多く、もちろん米なんてなかった。獣人属領ではそこの屋台飯を食べることが多いため米はない。つまりはこの世界に来てからソウルフードの米を一切口にしていないことになる。……発狂しそうだ。俺は一番“大和の国”に行ってみたい。
「レイティス国のことはお前達の方が知っているだろう。当代の王は先代王の三男で画家を目指していたらしいが兄二人が流行病で亡くなってから即位したそうだな。城の中にも王の絵が多くあっただろう。レイティス国は大国である他に他国からは“芸術の国”と呼ばれているそうだし、私も一度行ってみたいものだ。技術力もなかなかのものだと聞いている」
いや、初めて聞いたが。あの時は生きるのに必死で城の中の絵画など欠片も見ていなかった。技術力というと、思い浮かぶのは街灯やカメラもどきだろうか。
勇者達も、あの絵はそうだったのかなんてヒソヒソと囁き合っていた。
「次に獣人族が主に暮らしているのがブルート。こちらは広大な大地こそないが一番各大陸に存在する迷宮攻略が一番進んでおり、水などの資源が豊富に存在する」
ノアがクロウのそばにいるリアを見ながら言った。
「お前の前で言うのはなんだが、ウルクの王は魔王と繋がっていると暗い噂が多い。先日王族が暗殺されたばかりだし、関わるのはあまり勧められない」
心あたりがありすぎる俺とクロウはそっと視線を逸らす。
それをよそにリアは気にした風もなく微笑んだ。
「私はそもそもレア職業目当ての養子でしたし、今は王族からも出た身ですので遠慮なく言っていただいて大丈夫です。そもそも義父の地位も分不相応だと私も思います。“アドレアの悪夢”さえなければ親族の誰かに王位を奪われていた可能性は高いですし、今のままでもアドレアが滅ぶ前のウルク王家に簒奪されるでしょうね」
今度は夜がふいっとあらぬ方向へ視線を逸らした。
アドレアは当時の獣人族の主要国だったらしい。都市ひとつに港町であるため、貿易や王族の住まい、行政などが集中していた。だが夜によって壊滅状態になったアドレアを当時の獣人族領の王が放棄し、それぞれ貿易をウル、王族の住まいや行政をウルクに分散させたそうだ。ちなみに当時の王は今のウルク王イグサムの父だとか。イグサムの父王は当時それほど栄えていなかったウルク国の王族を追い出し、今のウルク国を築いた。当時追い出されたウルク王家は今も血を繋いで虎視眈々と王位を狙っているらしい。確かに、グラムの不祥事や暗殺などがあったため今が狙い目だろうな。
そう思えばすでに沈みかけている旧アドレア王家から逃げ出したリアは大変良い選択をしたのではないだろうか。
「さて次はエルフ族だがこれは私からよりも適任がいるな」
エルフ族領について話そうとしたノアだったが、そう言ってアメリアの方を見た。
だがアメリアは首を振って断る。
「今回の私の職業について、あなた達の方が知っている情報が多かった。情報のすり合わせというのなら私も私の知らない故郷の噂を聞いてみたい」
アメリアの言葉にノアはエルフ族は閉鎖的だから嘘八百かもしれんぞ? と不遜に笑った。
「その時は私が本当のエルフ族をあなたに教えてあげる」
アメリアはそう言って同じような笑みをノアへ向けた。
ノアはそこまでいうのならと話し始める。
おそらく、リアとは違って今もエルフ族王女であるアメリアへの配慮だろうな。大変分かり難いやり取りだが。
「さて、エルフ族はフォレスト大陸だ。さっき言ったようにエルフ族は魔族ほどではないが閉鎖的で今でこそ獣人族と貿易を行っているが昔はほとんど話を聞かなかった。フォレスト大陸には“神聖樹”という超巨大な樹が大陸のど真ん中に聳え立っており、エルフ族はその周辺で暮らしていると聞く」
昔はほとんど話を聞かなかったと言いつつ、その他の情報は俺が実際に見たエルフ族領のものと相違ない。
「エルフ族はハイエルフという種族を王族として暮らしている。そしてこの世界で一番神アイテルを信仰している種族だ。そもそも“神聖樹”には神アイテルがいると言われており、エルフ族はそれを大切にしている」
ノアの説明にアメリアも満足したのか嬉しそうに笑っていた。
魔族までとはいかなくても閉鎖的な自分の仲間のことを知っててもらえて嬉しいのだろう。
「客観的なのに私から見てもほとんど間違ったことは言っていない。本当に良く調べたのね。すごい」
手放しの褒め言葉にノアは初めて照れたような反応をした。
「……さて、最後は魔族のことだが、どうする? ヨルとやら」
ノアは誤魔化すように咳払いをした後、俺ごしに夜を呼んだ。確かにこの中で魔族について詳しいのは夜だろう。
だが夜は今でも魔王のことを尊敬しているし、俺たちにも情報を渡すことを渋っていた。今回も望み薄だとは思うが。
『悪いが今は俺から言うことはない。……だがすまない。俺も今どうしたら良いのかわからんのだ。主殿を裏切ることはないと誓おう。だから少し待ってもらえんだろうか』
どこか様子の違う夜の言葉を伝えると、ノアはまあそうだろうなと素直に引き下がった。
夜がアイテルから何か言われた時俺はその場にいなかったがノアは聞いていたらしい。一体何を言われたのやら。
「それなら僕が教えてあげよっかー?」
と、ここにいないはずの声が響いた。
俺はこの声を知っている。
「ラティスネイル!?」
部屋の中の影の部分からウルクでいつの間にかいなくなっていた魔王の娘、ラティスネイルが現れた。
「危機察知」はともかく「気配察知」にも探知できなかった絡繰は彼女が羽織っている黒い布にありそうだ。前はグラムの強化人間から逃げるために空を飛ぶ道具を持っていたし、びっくり箱のような女だな。
「僕がヨル君に変わって魔族について教えてあげるよ! 他ならぬ友達のおニーサンがお困りならね!」
そう言って俺にウィンクを飛ばしてくるラティスネイルはあの時から変わっていない太陽のような笑顔を浮かべた。




