第12話 〜迷宮前にて〜
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そして、約束の一ヶ月後の日が来た。
モリガンと地球の暦は同じで、そもそも、暦という概念をモリガンの住民に伝えたのは、最初にこの世界に召喚された勇者だとか。過去の勇者が伝えたのはそれだけではないらしく、彼らのお陰で食文化はかなり進んだらしい。
今度城下町行ってみよう。もしかしたらカレーあるかもしれない。あー母さんのカレーが食べたい。
帰りたい。
「さて、揃いましたか?では行きますよ、迷宮へ」
異世界らしく、一人五本ずつの生命力、魔力ポーションを王城から支給された。生命力ポーションは傷口にふりかけると、ちょっとした傷なら即刻治る代物だ。わざわざサラン団長が目の前で、剣で自分の腕をざっくり斬って実演してくれた。勇者組はそれだけで顔面蒼白だったが。
大丈夫だろうか、こいつら。今から魔物切り裂いたりしに行くのだが。
遠足的な雰囲気で出発した一行だったが、意外と迷宮は森を抜けてすぐそこにあった。こんなに王城に近くて大丈夫なのだろうか。万が一、魔物が迷宮から溢れてきたら一発でおしまいだろう。
「あ、王城には強力な結界が張ってありますので、もし魔物が溢れてきても安全ですよ」
俺の考えを読んだかのように、サラン団長がこちらを見ながら言う。とってもニコニコとした顔で。エスパーサランめ。
森が突然開けたかと思うと、迷宮と思しき巨大な入口と大勢の人がいた。突然の光に目が眩んだように、俺達は目を細める。人々は、森から出てきた俺たちに一斉に群がってきた。寄ってきた大勢の人を前に勇者たちが怯む。
さながら、夕方のスーパーでおこるお母さん方の戦争のようだ。これにはびっくりして、思わず全員が歩みを止めた。騎士団の人達が一応止めてくれているが、いつこっちに来てもおかしくない量だ。
「止まるな。君たちは勇者だ。民衆の前では堂々としていなさい」
サラン団長が、いつものフワフワとした声ではなく、ピリッと張り詰めた声で喝を飛ばす。小さな声だったのに、なぜか重く響いた。いつの間にか背筋が伸びている。何かのスキルだろうか。
「「「サラン団長ーーー!!!」」」
「「「ジール様ーーー!!」」」
「「「勇者様!!!」」」
黄色い歓声が響く。サラン団長もジール副団長も凄まじい人気だ。ついでに俺達にも声がかかっている。先頭にいるへっぽこ勇者は早くもニコニコと愛想を振りまいていた。まああいつ、顔と愛想はいいからなぁ。
俺は気配を消して最後尾を歩く。
ふと視線を巡らせると、こちらに鋭い視線を投じるフードを被った人がいた。背丈的に女だろうか。まるで俺たちを親の敵のように睨みつけている。
王城から一度も出たことがなく、外に出るのは今日が初めての俺たちに、どうして恨みを抱いているのか知らないが、殺気びんびんでこちらを見るのは、居心地が悪いからやめて欲しい。
俺はこっそり列から抜けてそのフードの人に近づいた。横目でサラン団長が俺の方を見ていたから大丈夫だ。いや、むしろその後のお説教を考えればマズイのか?
「なぁ君、どうしてそんなに睨みつけているんだ?」
できる限り爽やかに、俺は声をかける。
フードの人はとても驚いた顔でこちらを振り向いた。
「……」
「あ、別に騎士団につきだそうとか、考えているのではないよ。なぜそれほどまでの殺気をとばしているのか気になる、ただの野次馬だから」
どうしてですか、ともう一度問うと、フードの人は渋々答えてくれた。
「……あなたは、彼らがどのような犠牲の上で召喚されているか知っていますか?」
その声は透き通った鈴の音のような声で、可愛らしい女の子声だった。恐らく俺達と同じくらいの年だろう。
「……いや、悪いが分からないな。」
「そう。では、その答えが出た時にまた会いましょう。」
そう言って彼女は人混みに消えた。俺はその場で考え込む。
召喚につく犠牲……。よくある復讐系の小説では、召喚された人の家族が殺されたり、こちらの世界の差別されている種族の人達が殺されたりしている。前者はあまり考えたくない。後者も、この世界でこれから過ごす考えると厳しいものがあるだろう。
もし、俺の推測が正しいなら、王様達は何を考えているのだろうか。
結局俺はサラン団長が気配を消して呼びに来るまでずっとその場で考え込んでいた。




