76話 後始末と
「「「お疲れ様でしたー!」」」
文化祭の後片付けも打ち上げも終わり、皆が帰路に着いた。それは俺たちも漏れなく。
「まー君って去年の文化祭、クラスに居ないときは何してるんだろって思ってたけど、ああいうことをしてたんだね」
「センパイと一緒に文化祭楽しめて良かったです~。出来ればクラスの方で活躍するセンパイも見たかったですけどー」
「ハハハ……ありがとう」
美少女を両手に侍らせるも、どことなく緊張感というか、居心地の悪さみたいなものを感じてしまう。それは明らかに周りの男子たちの目線だとか、風紀を重んじる善良な市民の監視網だとかというものではなく、明らかに俺の左右からその緊張感のようなモノが発せられている気がした。
あと、残暑残るこの時期に両腕を封じられているのは普通に暑い。
家までの帰路はそこまで長い距離ではないけど、この空気で帰るとなるとそこそこキツイのかもしれない。どうすれば……ふむ。
「ちょっと待って!」
「え?」
「なんですか?」
「学校に忘れ物したから取りに行ってくる。待ってても良いけど、2人とも別に先に帰って貰っても――」
「「待ってる!」」
「お、おう……そう……」
そこまで慕ってもらえるのは嬉しいけど、それなら謎の緊張感を出すのは遠慮して欲しいな……ハハ。
出来ればあそこから離脱できるものかと露ほど願ってみたものだけど、勿論そんなことは叶わず。
取り敢えず学校に戻って、どうしようかと思案してみる。
……思いつかない。そうあっては仕方ない。姑息な手段だけど、御機嫌取りにジュースでも買って誤魔化そう。
仲良く3人で飲み物でも飲めば何とかなるだろ! ……これもただの希望的観測でしかないけど。
「もー! 待ちくたびれちゃいましたよ、センパ~イ!」
「何かあった?」
「ゴメンゴメン、何も無かったよ。あと待ってくれたお詫びにジュースを買おうとしたら、それで迷っちゃってさ」
「センパイ気が利きますね~」
「彩梅……そこはお礼からでしょ。……ありがとう、まー君」
「ありがとうございま~っす!」
「お詫びなんだからそこまで気にしなくて良いって」
「こういうのは親しき仲にも礼儀ありというか……そんな感じだから」
「女の子からの感謝は素直に受け取るべきですよ、センパイ!」
「アハハ……どういたしまして」
……やっぱりどうにも2人の間に緊張を感じてしまうな。さっきよりはマシな気もするけど。
空気の緊張を多少和らげた内に、とっとと帰ってしまおう。
「やっほー、あの時の子じゃーん」
「?」
家へと1歩近づけたと思った矢先、後ろから肩を叩かれ、歩みを止めることとなった。
「よう! 今帰り?」
「は、はぁ……」
振り返ると、どこか見覚えのある顔をした男が立っていた。
「……どなたでしたっけ?」
「いや忘れんなよ、俺だよ俺、俺」
「俺俺詐欺の方……?」
「いやなんでそうなる?」
見覚えはあるが、どこで見たかまでは憶えていなかった。
「だから俺だって、昼の男装喫茶の」
「あ、あー……」
……思い出した。
「知ってる人?」
「お知り合いですか?」
同時に聞かれたので、2人の顔を近づけさせて小声で告げる。
「クラスの出し物のときに俺を女子だと勘違いした奴がナンパ?みたいなのをしてきてさ……コイツがそれ」
「……へぇ」
「ふーん……」
血を分けているからなのか、似たような反応が返ってきた。
「俺が話あるのは真ん中の子だけだから、出来たら端の2人はちょーっと、場を外してもらえると助か」
「その前に」
「“お話”があるので、この人に話したいのなら私たちと話した後でいいですよね?」
「え? ちょ、俺は別に君たち2人とは話すことは無いからぁ痛て、2人とも案外力強、待って後ろ向きに歩くの危な」
俺を昼間にナンパして来た男は2人に連れられて人気のない路地裏に両腕を掴まれて消えていった。
美少女2人に手を引かれ、と言えば聞こえは良いけど、ここまで背筋が冷える思いがすることもあまり無いのだろうなと思う。
残念ながら女子はその2人だけだし、ナンパするならそちらにしておいた方がまだいくらか可能性もあるはずだけど、あの男は何もかもを終始間違えていたな。
連れていかれたその後、男のものと思われる悲鳴が街中に響き渡ったのが聞こえ、2人が戻って来たのであった。
……南無南無。




