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48話 話すことは何も無い

「ただいま。食器、洗って来たよ」


「おー、おかえり」


 俺の部屋に帰って来た実の手には、タオルが何握られていた。そしてそのタオルは湿気ているように見える。


「濡れタオル用意したけど、いる?」


「ん、ありがと、使うよ」


 そのタオルを渡してくれたので服を脱いで汗をかいた身体を拭く。


 流石、実。互いの家に泊まりあっただけはある。身体を拭く用のタオルの場所も、何も言われずとも分かっているらしい。


「あ、身体、拭くんだ……。そのために持ってきたんじゃなかったんだけど……」


「え?」


「いやその……寝るときに、頭に乗せる為のヤツで……。でもそうだね、汗、かくもんね……。なんか、ゴメン……」


「昨日の夜は風呂に入ってたけど、どうにも汗をかいてしまったからね。気にしないで」


 普通にこちらを見ていた実の視線がチラチラとこちらから逸らすようして、再び落ち込みそうになっていた実を何とかフォローする。この言葉がフォローになっているかは改めて思うと微妙だけど。


「ああ、えっと……」


「うーん……また下に戻ってもう1枚持ってきたらよくね? あ、別に態々持ってきてくれなくても――」


「持ってくる! 待ってて!」


「ああ、そう……ありが、とう……」


 何か急かしたみたいで、悪いな……。


「戻った。もう1枚、持ってきたよ」


「おう、ありがとう」


 受け取った課題もそれなりに終わって、明日出す分については全て終わっている。


「……えっと、帰らないの?」


「えっ?」


「いや……やることは大体終わったと思うけど……」


「そっ、そうだね……」


 そう言った実は目を泳がし、天を仰いでいた。


「あっ、何かすることない?」


 そう言われてもなぁ……、これ以上頼むことは無いしなぁ……。ただ、この様子を見ると料理の失敗などが尾を引いて心残りになっているのかも……というより、恐らくそうだろうな。


「う~ん、そうだなぁ……」


 実が期待の目を向けて来る。もう“恐らく”なんて付けなくてもいいな、コレ。


「じゃあ、美少女の太ももで膝枕されたい」


「ええぇっ!?」


 流石に引かれるか。


「ここに美少女とか……、いない、じゃん?」


「いるだろ、俺の目の前に、今」


「そんな……はは……えぇ?」


「あー、膝枕してくれたらなー、落ち着くことができてなー、風邪の治りも良くなるかもしれないのになー、あー」


 ここまで来ると変態そのものだが、かといって純粋欲でここまでしたいかと言えばそうでもない。いや、1回くらいはしてみたいという好奇心に近い感覚自体はあるけれども。東京で1度だけ芸能人とやらを見たことがあるが、今の実の容姿は実際、そんじょそこらのアイドルだのモデルだのと比べて見ても勝るとも劣らないぐらいだ。1度くらいチャンスがあれば……とも思っていた。


「そ、そんなに言うなら、仕方ない、かな?」


 仕方ないなんて言いつつ、実は素直にその場に正座した。やはり内心ではその罪悪感のようなものを解消したいという深層意識があるのだろう。


「それじゃ失礼して……おお、これはこれは」


「……やっぱり変じゃない?」


「この柔らかさが丁度いい感じする」


「そういうものなの?」


「太ももの素肌のところとニーソックスの生地でそれぞれ何か……うーん」


 何と言おうか、取り敢えずいい匂いがする。口には出さないけど。


「なんだよ?」


「安心する? そんな感じ」


「……何だよそれ」


 実の脚を太ももにしているが、これはいい。何度も感じるが柔らかさがなんとも丁度いいというものだ。脚がやや太めで感触が良いがそれが理由で枕としては首が少し変に感じる程高いのが少し気になるくらいか。正座じゃなくてソファみたいな椅子に座らせてそこで膝枕されるのが1番良いのかも知れない。


「わ、私の罪滅ぼし的なところもあるからなんだけど、楽しみ過ぎじゃない?」


「ここまでの美少女に膝枕されることなんて恐らく今後一生無いだろうから、もう少しは楽しませろ」


「そう……。あと美少女とか言うの止めて?」


「別に身体は美少女だから良いだろ? 心の中が男のままなら」


「……」


「アレ? 本当に嫌だったか?」


「別に……何と思おうと自由だけど、居辛くなるから外で美少女とか言うのは止めて」


「許してくれてサンキュー優しい美少女」


「殴っていい?」


「後今少し気付いたけど、ちょっと酸っぱい臭いしない?」


「生理前だから。……次は本当に殴るよ?」


「今のは知らなかったから……それは本当にすまん」


「……別に本気で怒ってないよ」


 そう言って実は何故か頭を撫でていた。実とのやり取りで少し疲れていたのか、微睡みの中に意識が流れて行ってしまったようだった。

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