45話 大会と曇り空
午後の部。俺と実は映像ドキュメンタリーの部の選考発表の部屋に来ていた。
この部屋に来る前、彩梅ちゃんが映像ドキュメンタリーの方に行きたいと言っていたが、俺が代わろうかと提案したところ辞退してしまったのは何故だろう。
兎も角、午後の部は始まり、地区大会も大詰めとなっていた。
「これで終わりか」
最後の作品が発表され、全国大会への進出作品が発表される時間となった。
「はぁ~……緊張する」
「もう発表は終わったのに? それに朝は最初からあんまり期待してないみたいなこと言ってなかった?」
「それとこれとは別。心に予防線を張るのと実際通って欲しいかどうかは違ってくるってこと」
「それもそうだね」
「センパイの作品なら、きっと全国も間違いないですよ!」
「そう言ってくれるだけで助かるよ」
そして、全国進出作品発表の時。
「では、全国大会へ進出する作品を前の画面へ表示します。まずは映像ドラマ作品からです」
次々と発表されていく作品群。
「私たちの放送委員会、それぞれ1作品ずつ全国行きになりましたね」
「あぁ……緊張するよ、マジで」
「……」
朝、実が緊張していると言っていたように、今も同様に緊張しているんだろうか、ずっと黙ったままだ。
「音声ドラマの全国大会進出作品は、次の画面で映されます。音声ドラマの全国大会進出作品は――」
「あっ……」
「ありましたよセンパイッ! センパイの作品が!」
前の大画面に映し出された作品名に、俺が反応する前に松前家の2人がそれぞれの顔色を変えていた。
「っ……!」
何か言葉を発しようとしたが、どうしても言葉が湧いてこなかった。
というか、その後の記憶が正直言ってあやふやなものとなっていたのだった。
「……」
身体が揺れている。これは……車体の揺れか。
記憶があるはずなのに、無い。いつの間にか帰りの電車に乗っていたらしい。
「大丈夫?」
「いや……うん……」
自分の作品が、全国かぁ……。
全く以って、自覚がない。足元がおぼつかないというか、なんだか浮いているような気さえしてくる。
「はぁ~~……」
「本当に大丈夫ですか、センパイ?」
「いや、ほっとしただけだよ」
「『ほっとした』?」
「俺たちの高校の委員会はほぼ毎年全国に出てたからね。それを俺も繋いでいけて、なんか……肩の荷が下りたというか、なんというか……」
「他の人が全国行ったのに、ですか……?」
「まあ、その前、1つずつ全国行きが決まっていたから、俺も行けてないと、引け目を感じると思うし、絶対」
「それは……、そうですね。でも気が抜ける程驚くようなことでもないと思いますよ。センパイの作品、あんまりそういった活動に今まで関わって来なかった私でも他の作品より『凄み』?みたいなのを感じましたから!」
「そ、そう? そう言われるとありがたいけど……」
「だからもっと自信持っても大丈夫ですよセンパイ!」
「それはそうと電車の中だからもう少し静かにね」
「はい!」
「……ちゃんと話聞いてる?」
「勿論です!」
「そう……。静かに、ね……?」
「はい!」
「ああ……うん……」
「……」
彩梅ちゃんは褒めてはくれるけど、あんまり話は通じているような気がしないなぁ……。それに反対側に座っている実は静かに何も言わないでいるけど、実自身の膝の上に乗せている手の小指がこちらの脚や指に電車の揺れと共に当たってしまうのが多少気になってしまう。
≪♪~~≫
そしていつの間にか降りる駅、家からの最寄り駅にまで戻って来てしまっていたらしい。どれだけ記憶が飛んでいたんだろうか。
電車から降りて、駅の出口へ向かって歩く。
すると突然、一緒にいた2人が出口前で歩みを止めた。
「センパイ、私たちは家の買い物をしてから帰りますけど、どうします?」
「このまま直帰するよ」
「そうですか……気を付けて下さいね?」
「そっちこそ、じゃ、お疲れ」
「お疲れ様でーす!」
「お、お疲れ……」
2人と挨拶を交わし、駅を出た。今もまだ体が浮いたような感覚が抜けないけど、事故ってしまう前にとっとと帰ってしまおう。帰って、家でゆっくりすごしてしっかり寝よう。
「あれ?」
「何、彩梅?」
「センパイ、傘もささずに……大丈夫かな?」
「今はまだ、そんなに降ってないからさしてないだけじゃないかな……これよりきつく降ったら流石に気づくとは思うけど……あとでメッセージか通話で知らせとく」
「分かった。……本当に大丈夫かな、センパイ……?」




