33話 妹も思春期
―Minol Side―
「おー、なるほど助かる。今年は家族以外からのチョコもあったからな」
「……は?」
その言葉に、ほんの少し上げられてから叩き落とされた。
「いや委員会仲間からのものがあったから。委員、俺と3年の元委員長以外女子って話、前にしたとおもうけど」
「はぁ」
口から溜め息と、エクトプラズムが出た気がした。
放心状態で、返答はもはや感情も意味も籠ってなど無かった。
「あ、その他は彩梅ちゃんからが1個だね」
「彩梅?」
「うん、毎年くれてるやつ」
「え? アイツ毎年渡してるの?」
アイツ、毎年チョコレートを作っているとは思ってたけど、まー君にも渡していたのか……。
「アレ? 実は聞いてないの?」
「聞いてないけど……」
まあ言わないよな、態々誰に渡したとか。
「今年のヤツは何かいつもより少し大きくて……えぇっとこれは……」
「何その大きさ……」
アイツあんなに大きなチョコレート、作ってたっけ?
「あ、これはさっき言ってた元委員長のヤツ。彩梅ちゃんのは2番目……って言ってもこれと比べたらそこそこ小さいくらいのヤツで……」
そりゃそうだよな、流石にあんな大きさの物であるはずがない。と思った矢先。
「え……?」
目の前に出てきたそれからは、「本気の想い」というものが感じられた。
明らかに「兄弟姉妹の友人に贈るもの」の範疇を越えている。
まあまあの大きさの箱に可愛らしいリボンが結ばれている。
「一応、聞くんだけどさ……」
「うん」
「何て言われて渡されたの?」
「義理って」
「本当に?」
「え? うーん……」
問い詰めると、腕を組んで少し考えてからその口を開いた。
「えぇっと、確か……『本命と同じやつ』って言ってたんだっけ? こんな手の込んだ本命のチョコレートを貰えるやつは幸せ者だな」
「本命と同じ……ん?」
本命ではないと思って一息つけるかと思ったが、その言葉を復唱してからある記憶が頭の中を巡った。
これはいつだったかの、バレンタインより少し前の時期のある日のことだった。
「兄貴~、これ味見して~。お父さんも~」
「なんだこれ?」
「今年のチョコレート、の、あまりの分」
「これ、中にお酒入れた?」
「ほんの少しね? 香りづけ程度に」
少し変な感じがすると思えば、酒が入っていたのか。チョコレートは甘めに作ってある分、酒の中の苦い雰囲気が良い感じに調和している。なかなかやるな。
「お父さんのお酒勝手に使わないで……結構高いヤツだから……」
無許可かよ。なかなかやるな、とか思って損した。
「はい、愛娘からのチョコレートでも食べて元気出せば?」
「パパそっちの大きいのがいい~~~!」
大の大人が地団駄を踏んでる……それが自分の父親だと認めたくない……。
その認めたくない大の大人が指差していた方を見ると、大きなチョコレートが台所の台に鎮座していた。
「ダメ。それは一つしか用意していないから」
「……ほー……」
親父が何か言いたげに彩梅と大きなチョコレートを交互に見た。
「……何?」
「いやぁ……彩梅ちゃんも大きくなったな、って」
「生暖かい目で見るな! とっとと出てって!」
……これがあるバレンタインより少し前の時期のある日のことだった。
彩梅が作った本命らしきチョコレートは1つだけ。
先の記憶の後のバレンタインでもその大きさのチョコレートを2個以上作っているところを見たことはない。ということは……。
えっ嘘っマジで? でもやっぱりそういうことだよないやいや早とちりじゃない? ていうかコイツマジで鈍感が過ぎるよなでもそういうところが引き寄せてるみたいなところもあるしやっぱりそれがこの心を揺さぶられるのも同じような感じがしないでもないというか、そう言えば彩梅がコイツのコトが好きってことはやっぱり普通に同じ遺伝子を持つ自分がコイツのコトを好……ってこれは違う!
あー……っ! もうっ!
「でも、こんな良いものを毎年貰って気づかないヤツももったいないよなぁ」
お 前 じ ゃ い !
はぁ……。
「どうせ家族以外から貰えないし、自分の身体が女の内にチョコでも渡してやるか」なんてつまらない言い訳をして、「クッキーなら家族のチョコと多分被らないだろうし、ありがたられるかもしれない。チョコだけじゃないから意識しているとも思われないし」という、様々な方向から見て逃げの姿勢までして渡そうとした自分が情けない。
あと、そんな楽観的な考えで浮ついていた自分自身に失望してしまう。
「……実? どうした、そんな固まって」
コイツはコイツで暢気なもんだ。いや、暢気が過ぎる。
「な、なんでもない」
「そう?」
返答の初め、声が上ずってしまったけど、それをスルーしてくれるのはいいところ……なのか? これはこれで良くない気もする。
「あ」
「ん?」
今、冷静に考え直してみると、なんかムカムカしてきた。
これは前にも似たような感情が湧き出てきた気がする。
自分だけがまー君に渡したと思っていたところに他の、それも手の込んだものを大量に渡されてると知って“私は”……ッ!
「あ~~~~、う~~~~、あ~~~~~~~」
「どうしたんだよマジで」
「あーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
自分の中の感情が整理できず、訳も分からず駆け出してしまった。
「大丈夫か、実……? 変わってからもうすぐ1年になるのに、やっぱり女の身体になるって大変なもんなのかな……?」




