20話 ボーイ・ミーツ・ガールズ
海に着いて暫く、波打ち際の浜辺を綴る様に散歩していた。
「冷た」
実と俺は靴を脱いで海の冷たさを足に感じていた。
「なあ」
「何?」
ここで、気になっていることを一つ訊いてみた。
「そういやなんで海に来たんだ? 今のお前じゃ、泳いだりするのも躊躇うもんだろ」
「それなぁ……」
実は溜め息をしてから話し出した。
「一つの覚悟みたいなもんかな。今年の夏を身体が女の状態で来ることで、次こそは男の身体に戻って海に来たい、みたいな」
「なーるほどなー……」
実には実なりの想いを込めてここに来ているらしい。
「……」
「……」
そして二人黙し、さざ波の音と遠くで他の人たちが楽しんでいる声が周りの空間を包み込んでいた。
「帰るか」
「おう」
特に何をするでもなく、たまーに海水を蹴り上げてかけあったくらいで、時間が経てば風景を見るのにも飽きて佇み、それから帰ろうということになった。
「今度はパンツが見えないようにしろよ」
「うっせ。わかってるよ、んなこと」
水道で砂を落とし、靴を履き直して自転車を置いてある場所に戻ろうとしたときだった。
「おーい」
灼けたアスファルトに響く声。誰かが誰かを呼んでいるのだろうか。明確に遊ぶわけでもなく、恋愛をする訳でもない俺たちには遠い青春をしている者たちなんだろうな。
「そこの君ー? 聞こえてるー?」
「?」
もしかしたら周りの人が呼ばれていて、その人の邪魔になっていて身体をよじって周りに見えるように、若しくは万に一つも自分が呼ばれている可能性も捨てきれずに振り返った。
「そうそう、そこの君!」
「???」
目の前の2人の女の人たちと明らかに目は合っていたが、後ろの人かも知れないと思い、振り返ってみる。
「違うってばー」
「もしかして、俺……っすか?」
「そ!」
「……」
隣の実が冷めたように、俺とその女性たちを黙って見つめていた。
女性たちは明らか実のことを半分無視するような形で話しているモノだから、無理もない。
「君って~今誰かと付き合ってたりする~?」
「いや……、いませんが」
女性は実の方を一瞥してからそんなことを訊いてきたため俺も一度、実を見てみたが、ヤツの顔からは虚無が溢れ出ていた。
「へー……。ウチらミナとリサって言うんだけど~、名前聞いても良い?」
「えぇっと……細染って名前です」
「……」
2人はコチラだけに名前を聞きに来たような感じだったので、実は答えなかった。実はどこかを遠く見ながら腕組みしていた。
「細染君さ、ID交換しない?」
「ID?」
「やってないの?」
「いや……やってますけど」
そっちの交換を求められるのか。SNSなんて“映え”を意識する方のフォロワーになるかどうかを求められるのかと思った。最近では初対面の相手にはソッチを最初に交流する方が主流だか何かを聞いた気がしたけど。
「じゃ、交換しよ」
「えー、いやー……」
「何~? 何か問題あるぅ~?」
再び実を見てみるが、何でもなさそうにしていた。多少、刺々しい雰囲気を出しているような気はしたけど。
「いえ……」
「じゃID出して~」
結局、押しに負けてID交換。
「じゃあ今から一緒に遊ぼうよ♪」
「いや、帰るんで……」
「いいじゃーん!」
「晩御飯用意されてるから……」
「そんなの連絡すればいいじゃん? 最悪ブッチすればいいよね~?」
「帰るのにも、今から帰っていい感じですから……」
「ウチらんトコ泊まれば良くね?」
「いやいやいや……」
「あの!」
流石にこれ以上は付き合いきれないと思って抜け出そうともウダウダ絡まれ続けていると、横から実が声を張って割り込んできた。
「何?」
先ほどまでこちらに向けていた笑顔とは裏腹に、ガンを飛ばすように実を威圧する女性。
「コイツも帰りたがってるんで!」
「てかアンタ、誰? 細染君の何なの?」
「友人です!」
態々無視してきた割に、“誰”とかよく言いうものだな。実も怒気が声に籠り始めている。
「友人だからって細染君とウチらが遊ぶかどうかに割り込まれる理由なくな~い?」
「そもそも嫌がってるじゃないですか!」
「どうやったらイケるかちょっとだけ考えてるだけじゃな~い?」
「そうは見えな……あー、もういい。帰るぞ、増良」
「ってちょっと、実!? 向き! 向き! この向きのままだと走れないって!」
話の途中であの2人と話しが通じないと思ったらしい実は俺の腕を掴んで自転車のある方向に走り出した。俺は女性たちの方を向いていたため、引きずられるように後ろ走り横走り斜め走りのように実に着いていくのだった。
「増良もさぁ、とっとと振り切れよあんなの!」
「そうは言っても逆ナンとか初めてで驚きが勝ってそれどころじゃ……」
「あと、IDも消しとけよ」
「……後でしとくよ。すぐに消すとそれはそれで面倒そうな人たちだったし」
実は今、女の身体で逆ナンされなかったうえに、敵対的な態度で無視されたことにお冠のご様子で、その怒りの余熱はこちらに向けられていた。とはいえ、実が居なければ俺も暫くあの2人に捕まったままだったかも知れなかったので、そこは一応感謝している。
「取り敢えず、引き離してくれて、ありがと」
「ま、まあ次からは気を付けろよ」
実に感謝を言うとヤツは満足したのかもみあげの毛(後れ毛っていうヤツ?)をクルクルと人差し指で巻いていた。
そんなことを言い合い小走りで居ると、いつのまにか自転車の近くまで戻っていた。
「じゃ、兎に角帰ります、かっ!」
そう言って、実を軽く肩パンした。
「!? て、テメェ……」
こちらとしては「ウス」みたいな軽いリアクションを想定していたが、その想定を超えたリアクションが返ってきた。
「お前っ……そうやって急に叩いてきたり衝撃を与えたりするなって、前にも言っただろ!?」
「えぇ……そこまで急でも強い衝撃でもなかったような……そこまでダメだったか?」
一旦、落ち着いたと思えば、俺の行動で実は再び顔を少し赤くしていた。
「今回はギリセーフだったけど……本当、気を付けろよ?」
「お、おう」
目は潤み、口はへの字になった実に対してへこへこと頭を下げて自転車での家路に着くのだった。




