19話 海へ
「ブフォッ! ……ゲフッゲフッ」
俺が先の言葉を口にして秒の間もなく、実はむせて咳き込んでいた。
「会って早々、何なんだよいきなり!?」
「その髪とその服……あとその脚、どうしたのかなと」
「それでさっきの言葉が出るかよ!?」
「あー……、それはただの感想だったな。その疑問についての」
「チッ……そうかよ」
「一応褒めてその態度は何なんだよ……。いや、その言葉が欲しい訳ではないってのは分かってるけどさ」
「はぁ……分かった。褒めたのは茶化し無しだったのには気づいてた。その上で態度悪くてすまんかった」
暑いのでとっとと閑話休題。
「で、その髪と服と脚は?」
「一つの諦めみたいなもんかな……」
「……そうか」
遠くを望む実の姿に、適当な相槌を打つ他なかった。
「髪はそうだな、サッカーやってるヤツなら後ろでまとめてるやつは割といるし、この髪質だからあんまり切りたくなかったんだ。服と脚は……流石に暑いからな。スカートは着ないともったいないと思ったんだよ。流石にいきなり学校のある時期に着ていくのは勇気あったから、今、着て来た」
「慣れない服だろうけど、怪我とかしないようにな」
「スカートはな。気を付けるよ」
「じゃ、行きますか」
「そうだな」
そうして、自転車での日帰りの旅が始まった。
「……」
果ては海へと続く道。横の過ぎていく車の走行音に混じって、自転車のシャーっというホイールの音と、車体が路面を跳ねる音が微かに聞こえてきている。
身に感じる風は自転車に乗っている全てに流れている。それは俺だけじゃなく、前を走る実も同じだ。
スカートがなびいている。
「はぁ……」
実はミニスカートを履いているが、その中身は色気も何も無い、男物のパンツだった。いや、男物とほぼ同様の女性物か男女兼用のモノかも知れない。
「でも今、それを言うのもなぁ……」
「何だ増良ー……!?」
「なんでもなーい!」
今、言ったところで実に精神的なダメージを負わせて走行に支障を来たす可能性があると判断して、海辺に着いてから言うことにするのだった。
「早く来れて良かったな。そこまで長居するつもりもないけど」
そして、到着。
「そうだな。あ、実」
「どうした?」
「自転車で走ってる時さー」
「おー?」
「スカートの中見えてたぞー」
「はぁーっ!? じゃあ走ってる時に言えよっ!? 何で黙ってたんだよっ!!!?」
近い近い、顔が近い。可愛い顔を近づけるな。
「自転車乗ってる最中に言ったら驚いて危ないだろうがよ」
「それでも一回停めて言うとかさぁ!」
「例え停めてから言ったとしても、動揺して運転ミスとかしたらどうするんだ。そこまでのびのびとした広い道路でもないし。寧ろ狭いし」
「それは……そうだ、な……」
どうにも納得いただけたようで何よりだ。
「それにしても、お前が今、履いてるパンツがどんなんだったか覚えてるか?」
「は?」
「あんなもん見ても目の保養にもなりゃしね――」
「そりゃ」
「っと、どうしたんだよ?」
突然、実が蹴ってきたのでその脚を受け止める。ほっそ。
「……っ! なんでもないっ!」
何なんだよ実のヤツ。別に本当のコトじゃねぇか。それに自身は男でありたいと言ってるんだから、女であるような気を遣う必要もないだろうに。
とは思ったものの、取り敢えずそれは口に出さない方が良いかなと思い、その言葉を吞み込んだ。
「……」
「って、ちょ待てって!」
無言でかつ早足で海へ向かって行く実を、自転車の鍵を掛けてから走って追いかけるのであった。




