16話 期末テスト後、夏休み前にて
「完! 全! 復! 活!」
実はそんなことを抜かしながら、何枚ものテスト用紙を片手に持ち、もう片方の手でガッツポーズをしていた。
テストに書かれた点数は60~70が殆ど。中には1枚か2枚80点台のものもあったが、大抵が平々凡々な点数だった。
前回は赤点1つと赤点ギリギリが多数で、今回は確かに赤点を1つも取っていないが、それで完全復活を宣言するのは少し悲しくならないか?
「あー……おめでとう」
しかしそれを言うと面倒なことが起こりそうだったので、無難に褒めておいた。普通に点数自体は10点以上、上がっているのが殆どで、それを中間テストから期末テストでやる、つまり科目が増える状況でそれをするのは確かに凄いことではあったためでもある。
それでも、完全復活ではないと思うが。
「これで何も気にせず夏休みを過ごせるぜー」
「そうかよ」
兎にも角にも、精神面はほぼ完全復活したようでなによりだ。あの「戻るための会」とやらを紹介してよかった。
「と、いうわけで夏休みは気負わずに遊ぼうぜー!」
「いいけど、夏休みの初めての月曜から金曜日までは無理だぜ?」
「なんで!?」
「なんでって……委員会関係で……」
勿論、俺にも夏休みの予定くらいはある。
「委員会かぁ……でも放課後の時間帯とかならいけるよな?」
「無理だ。大会で東京に行く」
「いや委員会で大会ってなんだよ!?」
「大会は大会だよ。ウチんとこの委員会はほぼ毎年全国大会出てるんでそこそこ地域の界隈では有名らしくてね」
「本当に何の大会なんだよ……」
「そう言われてもな……。兎も角、俺は最初の1週間くらいはコッチにいないし、行く前の数日も行くための用意があるから、遊べるのは大会が終わってからだな」
「えー……じゃあ本当に夏休み始まってからまるまる1週間くらい暇かよ~」
「夏休みの宿題とかしとけよ」
大抵の科目で問題集とかの範囲の一部を解けとか出されているんだし、それやればいいのに。夏休みも前半だし、暇ならそれくらいいいだろ。
「ってか、他のクラスメイトとか、中学時代からの友人とかいるだろ。そいつらを誘えよ」
「あいつらなー……あいつらはなー……」
「どうしたんだよ?」
「いやー……」
何か口を濁している。が、催促するまでも無く実は口を開いた。
「あいつらは増良より身体が変わってから距離感がなんとなくあるんだよ。俺はお前の時みたいに今まで通り接してくれとは言ったけど、増良程距離が戻らなかったというか……距離を置かれてるというか……」
「あー……なるほど」
俺はそこまで気にしていなかったけど、やっぱり実が女になってしまったことを気にする連中もいるのか。ま、いるとは思ったけど、俺以外が殆どそうだとまでは思っていなかった。
「なら、それでこそ夏休みに遊びに誘いに行けよ。カラオケでもゲームでもなんでも」
「前にも誘ったけどそれとなく断られたんだよー」
「だからこそいつもとは空気感の違う夏休みに誘うんだよ」
「えー」
俺だけじゃなく、他の人とも親交を深めていくのは重要だろう。俺にも委員会とか家のこととかもあるし、いつも実と関われるわけじゃないし。
「一回くらいは誘えって。そのまま夏休みが過ぎると休み明けに更に話し掛けづらくなるだろ」
「うー……分かった」
「大会から帰って来てから、俺に話の一つでも聞かせろ、よっ」
「わっ!? ……っ!」
話の区切りに合わせて実の背中を叩くと想像以上に実は声を上げた。声を上げた実は顔を多少赤くしてこちらを困ったような顔で睨みつけた。
顔を赤くしてはいたが、それは全てが怒りによるものだけではなく、その多くは羞恥の感情が見て取れた。……何故?
「あんまり急に強く叩くなよ……」
「……どうした?」
「いや……この身体になってから……小の方が近くなってさ……強い衝撃を受けると男の感覚ではなんでもなかったのが、少し出そうになるんだよ……」
「それはー、……すまん」
割と本気で重要なことだった。そりゃこんなに顔も赤くする訳だ。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「ほんっと、すまん」
「いいよ、次から気を付ければ」
そう言って、実は夏休み前の最後のトイレに向かって行ったのだった。




