89話 エボリューション
実の機嫌が治らないまま、放課後となってしまった。
今日はそういう日なのだろうか。
2人とも掃除当番ではない日だというのに、俺たちは別々に放送委員会の活動部屋へと向かった。
「おはようございまーす」
「「「おはようございまーす」」」
1年半経っても慣れない、女子生徒ばかりの空間。
最初のときよりも多少は慣れたが、今回は少しばかり違和感があった。
「……」
扉の音に気が付いてこちらの方を見てはいたが、気まずそうな顔をしていて、挨拶を口にしていない者が1人。
想像通り、実だった。
「よう」
「……うん」
やっぱり反応が悪い。
いくら朝に挨拶したからといって、掃除当番などで俺が後から部屋に来た時などは挨拶していたことを考えると、やはり体調か機嫌が悪いのか。
「あっ……」
「ん? 何?」
「えっと……何でもない」
「そう?」
実は何か言いたげに声を出したようだったが、何の決断があったのか、反応したことを取り消した。
……やっぱり調子が悪いのだろうか?
「細染君」
「はい?」
実の方に意識を向けていたため、声を掛けて来た女子委員が近くまで来ていたことに内心驚きつつ対応する。
「そろそろ学校説明会の台本決めがあるから――」
そういえば毎年恒例のヤツがあったな、なんて思いながらも委員会の仕事に取り組むことになった。
「細染君、今日の進捗はどんな感じ?」
帰り際、委員会の女子に話し掛けられる。その内容は、委員会の年間通してのイベントのことについてだろう。
「――のまとめが終わりましたね。学校説明会の方の台本の読み合わせは一応終わりました。去年と同じ部分だけだったので口の中を思い出すだけでしたし」
「了解。今年度中にドキュメンタリーの撮影終わりそう?」
「問題が無ければ2月中に終わりそうですね。結論で詰まるってことはない構成で書きましたし……。つまづいても今年度中には終わりますね」
「そっか、分かった。じゃ、今日はお疲れ様」
「うっす。また明日」
報告が終わり、実の方を見てみる。
「……」
実は頭を抱えながら、企画を考えているようだった。あまり邪魔はしないでおこう。俺は今日のことを顧みて、少しばかり名残惜しさを感じながらも校舎を後にした。
「センパ~イっ! 待ってくださ~い!」
振り返ると、今年に入ってから見慣れるようになった顔があった。
「彩梅ちゃん」
「センパイは自分の仕事が全部終わったら殆ど何も言わずに帰ろうとするんですから」
「それは普通じゃない? 誰かと一緒に帰ろうとか、今日は言ってなかったし」
「センパイと私は今週末一緒にお出掛けする仲じゃないですか~」
それ関係ある?
「そのお出掛けをより楽しめるモノにするために、一緒に下校して理解と感動を共有しましょう!」
「一理あるかも知れないけど……一緒に下校しただけでそこまで理解やら感動やらを共有度合いを高めることなんて出来るの?」
「そりゃあ1回だけならそこまでですけど、何度も繰り返せば効果はあると思いますよ!」
「え? 少なくとも今週末までは出来る限り一緒に下校するつもり?」
「出来る限りというか……毎日のつもりでしたけど……。あっ、まさか一緒に帰るとクラスメイトに噂されちゃう!みたいに小学生のようなコトでも考えちゃってます? ぷぷぷぅ~」
「いや、そういう訳じゃないんだけど……」
どちらかというとこのことが実あたりに知られると、今の実の状態から鑑みて、更に機嫌が悪くなられてしまうかも知れない、ということだ。
前にも彩梅ちゃんと一緒に出掛けたことを実に知られて、それでギクシャクしてしまったこともあったし。
「むぅ……? センパイ、今他の女性のコト、考えませんでした?」
「考えてないよ?」
実は今でも男の精神を保っている、と前に言っていたし、実は女性ではない……はず。
「そうですか? それならまぁ、いいですけど」
ほっ……。危ない危ない。彩芽ちゃんはマジで勘が良すぎる。気を付けねば。
あと、実の方にも何かフォローというか、あんまり疎遠にならないように接しないとな……。




