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9話 きっと、プロローグの終わり

 実がTS病であることを教室で打ち明けてから数日。そこには“いつも通りの日常”があった。


「あー授業だりー。やっと終わったー」


「え? お前、それ今日出す課題じゃねぇの? あとどれくらいあんだよ?」


「8割」


「……無理じゃね? もう放課後だぞ?」


 授業に疲れている者、宿題に追われる者、そしてそれをからかう者など。連休前から続く、所謂“普通の”高校の風景。


 その中に、今までとは異なる存在が一つ。


「増良ー。帰ろうぜー」


 数週間前までは男だった友人が、女になっているという状況。


「そういやサッカー同好会に行かなくていいのか?」


「俺は今、“この身体”だからな。一回、会に顔を出してみたけど変な感じになったから、それ以来なんか、行き難くなって」


「ああ……、一度変な雰囲気になったら行きにくいってことはあるな、確かに」


 変わらないことにも、変わっていくことにも、変わらなくて驚くことにも慣れてきたこのころ。


「……この後、増良は予定空いてる?」


「おう、委員会は……あ、ある。けど……言えば休めるな」


「じゃあ久しぶりにどっちかの家に行こうぜ。中間考査前の勉強も兼ねて」


「それ結局、遊ぶだけにならねぇか?」


「そりゃ、言いっこなしで」


 そうして、帰りに委員会に顔を出してから、帰路に着いた。


 無難な話をして、家の前に到着。


「どっちの家行く?」


「最近俺の家ばっかだった気がするから、増良の家で」


「了解。教科書とか取り行く?」


「いや、今持ってるヤツで十分」


「そ」


 そして家の中へ、自室へと移った。それから教科書、ノートを広げ、要点や苦手なところを重点的に、1教科10分~15分くらい集中して何教科か取り組んだ。ここまで短いのは長々やっていても集中力も持たないし。


「すぅ~~~~~~はぁ~~~~~~~~。……はぁ」


 そろそろ1時間くらい経ったかといったあたり、ゲームでもしようかという雰囲気になったところで、突然、実が深呼吸したかと思うと、溜め息を吐いた。


「どうしたんだよ」


「いや、ちょっと心の準備を」


「なんでだよ」


 実は数秒、額に手を当て、目を伏せて考えるようにしてから、目を見開き、こちらを向いた。


「あのさ、相談があるんだ」


 またか。ま、女体化して半年くらいは相談されることが多くなるだろうけど。


「何だ?」


「俺さ、やっぱり男に戻りたいんだ」


「……」


 ……なんか重い話か?


「サッカー同好会のこともそうだし、俺とお前の間でも男女になって距離感が不安定というか……分からなくなるときもたまにあっただろ?」


「……そうだな」


「それで人間関係が拗れるのも嫌だし……。それでさ、TS病の人が戻る方法とかを調べたんだよ。そうしたら、まぁ……世間で言われている通り、分からないって。時間経過以外で戻ることしか分からない、変な情報もあるけど噂程度の域を出ないし……」


 実は少し顔色を暗くしたが、咳払いしてすぐに戻した。


「それでも一応、『女のままで戻らない条件』ってのを調べたんだ。いつか戻るために、戻らない条件を満たさないようにするためにも。それを増良にも手伝って欲しくって」


「ほーお。できることなら協力はするよ。学生でできることは知れてると思うけど」


 男に戻ることに本気で願っているなら、協力はしたい。俺もたまに「美少女になりてぇーっ!」なんて口に出しているけど、正直3日程度で戻りたい、とも考えているわけで。


「お、おう。あ、ありがとう。なんか素直に協力してくれるって思わなかったから少し驚いたわ」


「そうか……? 割と普通に対応したつもりだけど」


「少しは茶化したり、軽口の一つでも来るもんだと思った」


「今回は本気の相談だったみたいだったしさ、そこで茶化すことはないって。軽口は……勉強したあとで、疲れていたから出なかっただけかも知れんけど」


 軽口を言うまで頭が回らなかった。そんな感じ。


「で、その方法って?」


 そして実は躊躇いがちに、少し黙してから言った。


「……異性のことを、好きだと認めないこと」

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