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死神悪役令嬢は、全部第二王子のせいにする  作者: 栗原ちひろ
第2章 死神悪役令嬢と第二王子、第一王子暗殺に奔走する
17/17

17.パーティーの主役が大変なことになってしまった!

 いい男からする血のにおい……最高にセクシー!!

 わくわくする私に、エトは笑う。


「嬉しいな、君に触れられた。でも、不思議だね。まだ夢の中にいるような気分だよ」


「ぐうう……」


 つぶれたカエルみたいな声を出したのはヒルダだ。

 私はひたすらに浮き立った気分で、エトと共に部屋を出た。


「そんな気分のまま、君のことを殺してやりたいな」


 私がひそひそと囁くと、エトは無邪気に笑った。


「あはは! なんて幸せな死だろうね、それは。ねえ、僕たちは気が合うね?」


「どうだろうな。まだまだお互い、本音はわからないだろう?」


「わかるのは、今の君がとってもかわいいってことだけだ。あと、僕の心臓がどきどきしてる」


「かわいいんだろうな、君の心臓は。いつか君の胸を開いて、直接見てみたい」


「いいよ、シーラなら」


 エトはさらりと言い、嬉しそうに私を見た。

 私はほんのりと頬が赤くなるのを感じる。

 エトは嘘を吐いていない。

 そんな気がする――。


「……なーんて、ね。君、そういうことを誰にでも言うの?」


「え? なんでだ?」


 私はびっくりして問い返した。

 気づけば、エトの瞳が暗い。

 黒いを通り越して、しんしんと、暗い。


「気になっただけ。今日のターゲットの容貌も気にしていたし」


「生徒会長か? そりゃ顔は気になったが」


「そう」


 ふい、と視線が先を向いた。

 なぜか、何かを奪われた気分になった。

 何かって、なんだ。


「……よくわからない。もし私にずっと自分のことを考えていてほしいなら、もっと殺しや盗みの技を磨くことだ。私はそういうことにしか興味がない。それとも、君、誰か殺した後か?」


 私は言い、鋭い視線を送りこむ。

 エトは前を見たまま目を細めた。


「におう?」


「わずかに。なんだ、本当にやったのか」


 囁きあいながら、私たちはパーティー会場である学園ホールに近づいていく。

まばらに集った生徒たちが、こちらを見ては目を瞠り、硬直する。


「シーラさま、おきれい……!!」


「え? お相手、あれ、誰? すっごい美形じゃない?」


「いたっけ、あんなタイプの美形……って、え、エトアルト殿下!?」


 驚きの声に、私たちはそろって手を振った。


「やったというか、やり返したというか。このへんの掃除をした」


 唇をほとんど動かさずに告げるエト。

 ぞっとするほどすてきだ。

 私は彼を見ず、周囲を見た。

 白い神殿みたいなホールの周りは手入れされた草地で、その外はこんもりとした林だ。

 草地にも歓談用のテーブルが設置され、軽食が置かれている。

 林も木々の間にリボンが渡され、ずいぶんとかわいらしい。


 だが、不用心だ、と私は思う。


 刺客が隠れるところがありすぎる。

 私が敵ならば小躍りするような立地。


「なるほどな。君が頑張らなくとも、第一王子はずいぶんと命を狙われているらしい。放っておいても死ぬんじゃないか?」


「奴らじゃ無理さ。それに、狙われているのは僕や君かもしれないよ? それか、他の生徒かも。ここはエリート学校なんだ」


 エトがうっすらと笑った。

 ほとんど同時に、ホールから派手な悲鳴が上がる。


「「!!」」


 私とエトは、同時に走り出した。

 今の声はただごとではない。

 まさか、本当に誰か狙われたのか――!?


 着飾った生徒たちの間をすり抜け、私たちはホールへ駆け込んだ。

 真っ白なホールは広大だ。壁には七色のリボンが張り巡らされ、花瓶には花。

 天井には、大量の七色の球形ランプが下がっている。

 ホール中央には、天井に届きそうな巨大ケーキ。

 そして、リサ。

 ……リサ、だよな?

 うん、リサだ。

 ドレスがリサだ。


 リサが、ケーキに、刺さっている。

 頭から。


 ……なんでだ?


「なんで? なんでこうなったんですか、生徒会長!?」


 ホールの女子生徒も、私と同じ疑問を叫んでいる。

 答えたのは、ちょっとこぎれいな男子生徒だ。


「知らないよ、彼女に名前を聞いたら、なぜか飛び上がってそのまま……そのまま、ケーキに刺さると思う? 普通思わないよね!?」


 思わない、思わないぞ!

 かわいそうに……。

 これはおそらく、リサが主人公だからこそのハプニングというやつだ。

 乙女ゲー世界ならあり得る。


 それはそうと、と、私は生徒会長の指を見た。

 

 ――ある。


 みるからに古くてごつい、指輪。

 あれが、コルネリウスを殺すために必要な魔法具……。


「リサを助ける」


 横から声がして、私は驚いた。


「エト」


 思わず名を呼ぶ。

 しかし、エトは私を見ない。

 エトは迷わずケーキのほうへ向かう。

 目の前に、狙っている指輪があるのに。


 私なら、と思った。


 私なら、どんなときでも任務を優先する。

 後回しなんかにしない――はずだ。


『本当か?』


 脳内で、師匠の声がした気がした。

 私を拾ってくれた伝説の傭兵。

 彼なら、今の私にこう言うだろう。


『ならばなぜ、お前はエトを殺さない?』


「――っ……」


「どうしたの、シーラ? ものすごくそそる顔しちゃって」


 急に背後から囁かれ、私は素早く振り返った。

 貴族の少女としては、ちょっと素早すぎたかもしれない。

 それくらい油断していたということだ、くそ。


 振り返った先にいたのは、美貌の男。

 ぞっとするような白い肌色に、ものすごいボリュームの金髪をどうにかまとめた男。

 コルネリウス。


 ……うん。

 枝毛、治らなかったんだな。

 ――じゃなくて!!


 なんでとっくに学園を卒業したコルネリウスが、ここに!?


「殿下、一体どうなされたのです?」


「さて、どうしたんだろう? 君のことを考えていたのかもしれないよ。わたしが知らないところで着飾って、エトアルトの手を取っているであろう君のことを考えたのかも。そうしたら、なんか、腹が立った。なんでだろうね?」


 コルネリウスは甘ったるい笑みで囁く。

 私はそんなことより、エトとリサと、生徒会長が気になっていた。


「私がご期待に応えられなかったからでしょうか?」


 コルネリウスに答えながら、ちら、とエトを見る。

 エトはケーキのところにたどり着き、リサを引き抜こうとし始めている。

 助けは必要だろうか、と思った、そのとき。


 コルネリウスは、両手で私の顔をつかんだ。


「!」


「やめてよ、わたしの前でエトを見るのは。なんだか、すごーーーく、腹が立つ」


 囁くコルネリウスの顔は、面白いくらい赤かった。

 怒りのあまりの赤面だ。

 まるで幼児だな、と思っていると、コルネリウスは私を放り出した。


 そのまますたすたとケーキに歩み寄り――助け出されかけたリサの首をつかみ、もう一度ケーキの中につっこんだ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 急展開・カオス!! いろいろおかしくて、なにがなにやら!! エトとシーラのやりとりにきゅんとしていたのに、急激に温度が下がりましたね……。 嫉妬するエトはかっこいいな~ 契約関係だからか…
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